六逆純子が見せた場所 一
待ち合わせの場所で純子を待つ。蒼華高校からすぐ近くの駅だ。
結局断りきれずにここまで来たけど、彼女は一体何を思って私を誘ったのか。そもそも見せたいものって何だろう。
特に何をするでもなく待っていたら、ふと気になることを思いだした。私はカバンからスマホを取り出して検索してみる。
緑冬市 蒼華高校 殺人事件
普通に考えて、あんな小さい焼却炉で、人の体を燃やすことなんて出来ない。表面が真っ黒に焦げるだけで、死体はそのまま残ってしまう。だとすれば、事件が大々的に表沙汰になっていてもおかしくない。犯人が捕まっていなかったとしても、死体遺棄や行方不明事件として記録に残されているはずだ。あくまで、純子の言葉が真実ならだけど。
トップに表示されたのは緑冬市のホームページだった。画面をスライドさせて、目当ての情報が無いかを探す。特に当たり障りのないものしか無い。
その一番下に気になる記事が載っていた。もう十年以上も前の記事だ。ニュースサイトというより、個人が趣味でやっているオカルト系のブログだった。
そのタイトルにはこう書かれていた。
【蒼華高校の闇!女子高生焼却殺人事件について!】
ブログ主の個人の感想や推測は読み飛ばし、事件そのものについて書かれた所だけを読んでいく。その内容は、純子の話していたものとほとんどは同じだった。違うのは遺体が発見されていることと、犯人が捕まっていることくらいだ。
私はスマホに視線を置いたまま深いため息をついた。
だからって純子が嘘をついていないとは限らない。本当なのかどうかも分からない情報だし、仮に本当だったとしても、たまたま純子がこのブログを読んでいただけの可能性もある。
でもこんな悪質な嘘をつくだろか。純子にそんなことをされる覚えはない。そもそも私と彼女の間には何の接点も無い。昨日まともに言葉を交わした程度だ。
あれこれ考えながらぶつぶつと一人呟いていると、後ろから私を呼び止める声がした。
「お待たせ千秋」
振り向けば純子がいた。私は慌ててスマホを胸に抱え、動揺を隠しながら言葉を返す。
「じゅっ純子ちゃん。もう来てたの?」
急に話しかけられて驚いた訳じゃ無い。ましてや事件について調べていたのが後ろめたかった訳でも。いや、その二つも理由にあるけど。
私は純子の私服に少しだけどきりとしていた。
胸元に小さなフリルのついた、パールホワイトのシャツ。
手首にはリボンカフスが結ばれ、袖はゆったりとしている。
黒のフレアスカートには薄く格子状の模様が広がり、首元には瑠璃色のアクセサリーが淡く光る。それを結ぶ黒い首紐が、控えめな華やかさを醸し出している。
(あっ…カワイイ!)
そんな語彙力の無い単純な感想が、私の思考を駆け巡る。
本気ファッションだ。自分の魅力を完全に理解している服装だ。
驚きとも、ときめきともつかない感情が湧き起こり、私は後頭部を打たれたようによろめいた。
「大丈夫?千秋?」
純子が私の背中を支える。
「いや…ただの立ち眩み。それにしても純子。私服以外とカワイイね」
純子は珍しく表情を変化させ、きりりとした顔でそれに答える。
「うん。千秋との初デートだから、ちょっと本気だした」
何処に本気を出してるの?。というか初デートってどういうこと?。
私が言葉を理解する間もなく、純子私の手を引いて歩き出す。
「早く行こう。今日逃したら…もう見れないかも知れない」