プロローグ
「ねぇみせて!はやくはやく!」
はしゃぐ少年の声に女性は笑顔を向け、彼女の腕の中にいる生まれたばかりの小さな命をそっと見せた。少年は眠っている小さな赤ん坊を見るとぱあっと顔を輝かせ、さわってもいい?と赤ん坊の母親に尋ねた。
「そっとね、優しくさわってあげてね。」
赤ん坊の母親の言葉に少年は、まるで少しつついただけで崩れ落ちてしまうトランプタワーをさわるように赤ん坊の頬に指先でそっと触れた。赤ん坊の頬はとても柔らかくなんだかとてもいいにおいがした。夢中になってふにふにと赤ん坊の頬をつんつんしていると、母親の腕の中で眠っていた赤ん坊は突然パチッと目を開き、自分をのぞき込んでいる少年と目を合わせた。少年は急に目を覚ました赤ん坊を見て起こしてしまったと一瞬慌てたが、その次の瞬間赤ん坊が満面の笑顔で少年の顔を見て少年も笑顔になった。
「かわいい」
思わずそうつぶやくと少年の言葉が赤ん坊に伝わったのか、小さな手が少年の人差し指をぎゅっと握った。少年はそれを見ると心がぎゅっと切ない様な温かい様な不思議な気持ちにつつまれた。その瞬間少年は決意した。
「ぼくがもえちゃんをいっしょうまもってあげる。」
赤ん坊はその言葉を聞いて、まるで理解したかのように更ににっこり笑った。