第4話「ナンパ野郎より、やはりドラムだよな」
とりあえず、バンドのベースが決まった。
成瀬がどういう目的でバンドに入ったなど、この際どうでもいい。
俺の最強バンド計画は、順調に進んでいた。
「成瀬君がバンドに入ってくれたのはよかったけど、後はドラムだけだね」
成瀬を誘った次の日、学校の食堂でシゲがそうおれに話す。
「もぐもぐ……ああ、ドラムを誘えれば俺たちのバンドが本格的にスタートするな」
「ドラムの人も、目星がついているの?」
シゲから尋ねられた俺は、食べ終わった皿を置く。
「とりあえずはな、成瀬ほど変人じゃないし案外うまくバンドに入ってくれるかも」
「おいおい、誰が変人だって?」
俺とシゲが話していると、むかつく声が聞こえてくる。もちろん、声の主は成瀬だ。
「あ? なんで、おまえがここにいるんだよ」
「成瀬君も、学食でお昼?」
「ああ、それもあるけど……」
すると、成瀬はキョロキョロと辺りを見渡す。
「……なにしてんだ? なにか、探してんのか?」
「ちげーよ! おまえらと一緒にいれば、園芸部の女の子たちとお近づきになれると思ってよ」
こともあろうか、成瀬はそんな目的のために俺たちに声をかけてきたわけだ。
「あほか、そんな都合よく来るわけねーだろ! それより……」
俺がそう言いかけた時、向こう側からかなでたちが現れる。
「なあ、園芸部で誰が一番かわいいんだ? スタイルもいいコがいいなあ」
「うるせえ! そこをどきやがれ、おーい! かーなーでー!」
成瀬の首根っこを押しつけながら、俺はかなでに大きな声でさけぶ。
「あっ、仙道君」
こちらに気がついたかなでが、こちらに近づいてくる。
「へえ、かなでちゃんで言うんだ。君、かわいいね」
「こらあ! 成瀬、かなでに話しかけるんじゃねー! 身分をわきまえろ」
「えっと……仙道君、この人は?」
かなでは困ったような顔をしながら、俺にそう尋ねる。
「……成瀬省吾でしょ?」
俺が答えようとした時、かなでの隣にいた上原が答える。
「ふっ、そうさ。この俺が、スーパーイケメンベーシストの成瀬省吾だ」
「おまえ……クソがつくほど、痛い奴だな」
自分で自分をイケメンと言う成瀬に、俺はドン引きする。
「……ん?」
すると、成瀬は上原をじっと見つめる。
「君……すげえかわいいじゃん、彼氏とかいるの?」
「……は?」
突然、成瀬からの言葉に上原は睨みつけながら、そう一言だけを口にする。
「君だよ君、名前はなんて言うの? もしかして、園芸部のコ?」
上原の威圧的なオーラを無視するように、成瀬は話し続けている。
「こいつは上原っていう奴で、おまえが言うように園芸部バンドの一人だ」
「ちょっと、勝手に紹介しないでくれる? なんなの……こいつは」
「いやあ、こいつが俺の作るバンドのベース担当で」
成瀬が俺のバンドメンバーだと教えると、上原はさらに不機嫌そうな顔をし始めた。
「ははは! この俺の名前を知っているなんて、まさに運命だね!」
「あたしはあんたにまったく興味はないわ、女の子泣かせのあんたには」
「……そうなの? 仙道君」
「安心しろ、かなで。もし成瀬が変なことをしてきたら、俺が全力でおまえを守る」
ひたすら上原をナンパする成瀬に構わず、俺はかなでにかっこつけながら話す。
「かなで……ここから離れよ? こいつらといると、頭が痛くなってくるわ」
「え? あ、うん。じゃあ、頑張ってね仙道君」
上原はかなでに腕組みをして、この場から去っていく。
「今度、RINE交換しよー! 後で聞きにいくからさ」
「うるさい! 誰があんたとするか!」
しつこい成瀬に、遠くなら上原がそう叫んで姿を消す。
「いやあ、可愛かったな」
「おまえ……あいつのなにが気に入ったんだよ」
「バカか、あのツンとした感じがたまらないじゃないか」
「ははは……強烈な出会い方だったね」
シゲは苦笑いをしながら答えた後、話を元に戻す。
「それで、ドラムの人にはいつアプローチをかけるの?」
「ん? ああ、放課後にでも声をかける予定だ」
少なくとも、成瀬よりは話がしやすいし、ここまで頭のおかしい奴ではない。
「そうと決まれば、放課後に奴がいるところに向かうぞ! 成瀬、おまえも来いよな」
「あ? 俺はパスでよろ。放課後はクラスの女子たちと遊ぶから」
上原たちがいなくなるや、先ほどのテンションとは違う口ぶりで成瀬は俺の誘いを断る。スマホをいじると、席を立ってどこかへ行こうとしていた。
「おい! おまえまバンドのメンバーなら、それくらい協力をしろや」
「野郎に興味はないんで、そこらへんはお前に任せるわ。園芸部の子のチェックは済んだし」
成瀬はそれだけ言い残して、俺たちの前から去っていく。
「……行っちゃったね、成瀬君」
「あのクソ野郎が! バンドをやる気あんのかよ、役にも立ちやしねえ」
結局、俺とシゲだけになってしまった。
「僕たちで……誘うしかないよね」
「ああ、こうなれば俺たちだけでメンバーを集めよう」
こうして、俺たちは放課後にドラムを引き受けてくれるように頼みに行くこととなる。
ーー放課後。
他の生徒が帰宅する中、ドラムのやつに会うに向かう。
「それで、その人はどこにいるの?」
廊下で二人で歩いていると、シゲが尋ねてくる。
「奴は今は部活をやっているはずだ、そいつの部室に向かう」
「部活をしている人なんだ、なんて言う部活?」
ーー正直、俺が答えてやるとシゲは驚くだろうな。
そいつがどの部でやっているかは、すでに調べがついている。俺はスタスタと歩きながら、シゲに答えた。
「あいつは……仏教研究同好会に所属している」
「……え?」
すると、目的地である同好会がある教室に着く。
「晴君……ここがそうなの?」
「ああ、行くぞ……シゲ」
俺はシゲにそう話すと、扉を開く。そして開けた瞬間、まばゆい光が俺たちに照らされる。
それはまさしく、太陽の如く光るツルツル頭だった。