第2話「ギター加入する!そいつの名はシゲ」
自分のバンドを組むと宣言してから、俺はあちこちで勧誘をしていた。
元軽音楽部の同級生やら上級生。とにかく、楽器経験者を優先に声をかける。
「え、バンド? 僕は勉強に集中がしたいから、難しいかな」
そう断られて、数日が過ぎた。
「くそがあああ! なんで、誰もがバンドをやりたがらないんだよ」
「晴君……大丈夫?」
この日も、休み時間を使ってひたすら勧誘をしてきたが、結果は変わらず。
シゲに声をかけられた俺は、相づちをうちながら椅子を蹴る。
「なかなか、メンバーが集まらないね」
「ああ、最低でもベースとドラムだけいればやっていけるんだけどな」
「僕らの学校って、真面目な生徒が多いからね。みんな、勉強を優先したいんだよ」
「……ったくよー、勉強なんかよりバンドだろ? ガリ勉共が」
「バカね……みんな、あんたみたいなバンドのことしか考えない人なんかいないわよ」
シゲにぐちぐちと不満を話していると、そう声をかけてくるやつが現れる。
上原奈帆ーー俺とシゲと同じクラスの女だ。
「仙道君……あまり、無理はしないでね」
そして、優しく包み込むような声は、まさに天使。
「かなで……ううっ、俺はなんて幸せなんだ」
「ははは……仙道君は相変わらずだね」
苦笑いをしながら話すもう一人の女子生徒。荻野かなでは、俺のマイスイートハニーである。
あくまで、俺の中で。
「ちょっと、かなでに近づかないでよ! あんたは危険人物なんだから」
「んだとー! 上原、おめえがかなでから離れろ! ぶっこおすぞ」
「晴君、落ち着いて落ち着いて」
今にも上原に飛びかかりそうな俺を、シゲは後ろから止める。
「あんたは昔からなんも変わらないわね、少しは成長しなさいよ」
かくいう俺たち四人は、中学からの付き合いだ。かなでは中学の二年の時に、転校してきた。
かなでを見た時、まさに俺は雷を打たれたような衝撃を受けた。
黒髪にサイドテール。整った顔立ちに、素晴らしいスタイル。この世に女神。いや、天使がいるならば、かえでのような女の子を言うのだろう。
好きにならないほうが、かなでに申し訳ないくらいだ。
とは言ったものの、いまだに俺とかなでの仲が進展することはない。この上原という壁が、俺の恋路を邪魔するのだ。
「あんたがかなでにしたことを、あたしはいまだに許さないんだからね!」
「うるせー! あれは、俺のかなでに対する愛を表しただけじゃねーか!」
「うっわ……引くわぁ」
まるでゴミを見るような目で上原が俺を見る。
「奈帆ちゃん、わたしはもう気にしてないから大丈夫だよー。仙道君も、謝ってくれたし」
「かなでは優しすぎる! だから、このバカがつけ上がるのよ?」
上原はそう話すと、かなでは困ったような顔をしながら笑う。
ーー笑った顔も、かわいいな。
かなでたちのやりとりを見ながら、俺はにんやりとする。
「けど晴君、バンドのメンバーはどうするの? 他にあてはある?」
話を戻したシゲがそう尋ねると、俺は少し考え込む。
「もしバンドのメンバーが必要なら、わたしたちの知り合いに聞いてみようか?」
かなでと上原は、園芸部に入っている。それも、ただの園芸部ではない。
「そういえば、かなちゃんたちは園芸部だけどバンドを組んでいるんだっけ」
シゲが話すように、かなでたちは部活でバンドを組んでいる。
園芸部なのになぜバンドを組んでいるかは、俺にはわからない。だが、学校内でも人気があり文化祭でのライブは大成功したとシゲは言っていた。
「かなで……ありがたい話だが、俺は女と混ざってバンドは組みたくないんだ」
ああ……せっかく、かなでからの提案を俺は断ってしまった。
しかし、そこはどうしても譲れないのだ。バンドをやるには、やはり男のメンバーでなくてはならない。
バンドっていうのは、熱い男たちがやるものだと俺は思っているからだ。
「やめときなよ、かなで。こいつに紹介したところで、その子がかわいそうなだけよ」
「ええ……でも、仙道君が困ってそうだし」
「聞いたでしょう? 仙道のやったライブの酷さを」
どこで誰に聞いたのか、上原は俺がやったライブの話をかなでにする。
「あんなライブをやっておいて、誰が一緒にバンドを組んでくれるのよって話」
「けど、一生懸命になってメンバーを集めているんだし……」
「無理無理! バンドを組んでも、すぐにポシャるわよ」
なんとも好き勝手に、言ってくれるじゃないかと俺はだんだん腹が立ってくる。
「だあああ! やかましい、今に見てろよ! いずれはおまえらのバンドより、すげえバンドを作ってやる」
俺はそうさけぶと、席を立ち上がる。
「晴君、どこ行くの?」
すたすたと廊下に向かって歩き出した俺の後を、シゲがついてきた。
どしんどしんと歩くが、俺の怒りは収まらない。
「上原のくそやろうが! バカにしやがって」
「まっ、まあ……上原さんも悪気があったわけでないし」
「あれのどこが悪気がないだあ? 悪の塊じゃねーか」
そう話した俺の足は、ピタリと止まる。
「たしかにライブはヘタだったさ。それは、認める」
「うん……」
「けどよ。最高なやつらとバンドを組んで、たくさん練習すればすげえバンドになると思うんだよ」
ーー自分が納得する、最高のバンド。
それができたら、俺だって上手くなるはずた。
そう話す俺にシゲは、黙って聞いてくれている。
「なら、早くバンドのメンバーを集めたきゃだね」
シゲは昔からこうだ。俺が話すはちゃめちゃなことでも、一緒になって考えてくれる。
ーーだからこそ……かな。
俺はそう頭に浮かべると、シゲのほうへ振り向いて話す。
「シゲ……俺と、バンドを組んでくれ。ギターは、おまえじゃなきゃダメなんだ」
中学から、俺はギターを始めた。
その時に、一緒にギターを誘ったのもシゲだった。
俺よりうまく弾けるシゲのギターは、俺のバンドには必要だ。なにより、俺はシゲと一緒にバンドがやりたい。
シゲは少しおどろいた顔をすると、すぐに笑みを浮かべた。
「はは、晴君は昔からそうだね。なにをやるにも、必ず最初は僕を誘うし」
「さすがに高校は、おまえが好きなことをさせようとしたけどよ」
だから俺は、軽音楽部にシゲを誘わなかった。
いつまでも俺と同じことを、シゲにはさせてはいけないと思ったからだ。
けどやっぱり、俺はバンドを組むならシゲとやりたい。その気持ちが強かった。
「いいよ、僕なんかでよければ。晴君の目指す、最高のバンドにできるかはわからないけど」
シゲはそう笑いながら話す。
「はは! 最高のバンドになるに決まってんだろ、俺とおまえがいればな」
そう照れ臭そうに話して、俺も笑う。
まずはギターが決まった。それも、最高の相棒だ。
しばらく笑い合った後、俺は再び歩き出す。
「晴君、どこに行くの?」
「そうと決まれば、次はベースだ。一人、心あたりがある」
そして俺は、そいつのもとへ向かう。
俺が思う、最高のベーシストがいる教室へ。