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俺たちのロッケンロールデイズ!!  作者: 獅子尾ケイ
最強!最高!バンド爆誕編
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第1話「俺は作るぜ、ロックバンドを!」

 高校の部活なら、必ずあるであろう軽音楽部。


 学校でバンドを組み、学園祭でライブをするのが主な活動だ。しかしスポーツ系の部活とは違い、全国大会といったものはない。


 目指すのは……そう、ライブなのだ。


「にもかかわらず……なんで練習をしないんですか!」


 放課後の音楽室。


 エレキギターを背負っている俺、仙道晴樹(せんどうはるき)叫び(さけび)声を上げる。


 ギターが好きでありバンドを組んでライブをやりたい俺は、入学してすぐに軽音楽学部に入部した。


 ーーそれなのに。


「晴樹くーん、今日はだるいから練習は休みにしよーよ。あっ、お菓子……食べる?」


「食べるわけないでしょ!」


 部室を漂う(ただよう)、このアンニュイな雰囲気。


 俺の他に三年の先輩たちだけがいるが、この先輩たちはライブをやるぞという覇気(はき)がない。


「ギターはどうしたんですか! 練習は? ライブは?」


「文化祭で弾く以外は、特にやることないさ」


「いやいや、文化祭はもうすぐじゃないですか! 今、練習しなきゃいつやるんですか」


 文化祭が始まるまで、残り数日。本来ならば、ライブに向けて曲を仕上げる頃だ。


「大丈夫大丈夫、前に弾いたことある曲だしさ。本番の前日に、軽く合わせればいいから」


 わははと笑いながら話す先輩たちは、俺にそう言うとお菓子を食べ始める。


「先輩たちは、バンドが好きで部活に入っているんでしょう! こんな雰囲気でいいんですか?」


「そんなプロになりたいとかじゃないからさ俺らは、なんつーか……単に思い出作りってやつ?」


「そーそー! みんなでワイワイと楽しみながらやれれば充分だよ」


 ーーいやいや、バンドってそういうものじゃないだろう。


 たしかに楽しくライブをやるのはいいことだ。それは認めよう。けど、俺が考えているバンドとはベクトルが違う。


 メンバーの一人一人が情熱を持って、曲を弾く。先輩たちのような、お遊びの雰囲気でやるようなものではないのだ。


「……俺はギターを練習しますからね!」


「ああ、ここは軽音楽部の部室だからねー。ご自由に」


 お菓子を食いながら雑談をしている先輩たちの横で、俺はギターを弾く。


 ーーくそが……くそが!


 今の自分の感情を表すかのように、ギターが大きく鳴り響く。


「あっ、晴くん。部室は終わった?」


 部活が終わった後、誰かが俺を見つけて近づくと話しかけてくる。


「ああ……シゲか」


 俺の親友である、有本茂明(ありもとしげあき)


 シゲも部活が終わったようで、俺が来るのを待っていたようだ。


「それがよー、聞いてくれよ」


 帰り道、歩きながら俺は今日の部活であったことを話す。


「あはは……それは災難だったね」


「災難とか言うレベルじゃねーよ! あの先輩たちは、音楽をやる資格なんぞない!」


 ぐちぐちと部活の不満を、シゲにぶちまける。シゲはそんな俺の話を、嫌な顔をせずに聞いている。


 俺たちはガキの頃からの付き合いだ。幼馴染というわけではないが、なにもするのも一緒だった。


 長い付き合いだからこそ、シゲは俺を理解してくれるから嫌な顔をしないのだろう。


「けど、文化祭のライブは僕も楽しみにしているよ? 晴くんの初ライブだもんね」


「そうだけどよー、なんか……こう違うんだよ! 俺の理想的なライブとはさ」


 俺がやりたいライブとは、少し違う。なんと説明していいかわからないが、文化祭でやるライブではない。


「ライブは、ライブだよ?」


「ま、まあなあ。やるからには手抜きはしないさ、全力で弾いてやるぜ!」


 あんな先輩たちと一緒にライブをやるのは、どうにも気に入らない。


 しかしシゲの言う通り、俺の初ライブでもあるため、そこは頑張ろうと思った。


 ーー文化祭当日。


 いよいよ、待ちに待った軽音楽部のライブ。体育館にあるステージの裏で、俺はその時を待った。


 大勢の前で演奏するのは初めてで、俺の体は震えている。もちろん、不安でではない。いわゆる武者震いってやつだ。


 最高の演奏を見せてやるという、強い思いがふつふつと湧き上がっていく。


「仙道、大丈夫か? そんなに構えるな、気楽に行け」


「え? はっ、はあ」


 そんな俺とは違く、先輩たちには緊張感がないように見える。


「続いては、軽音楽部によるライブ演奏です」


 司会役の生徒がそう話すと、いよいよ俺はステージに向かう。


 ーーおお、そこそこの人が集まっているじゃないか。


 ギターを構えながら、自分の目の前にたくさんの人が集まっているのを確認する。


 この空気感が、まさにライブの醍醐味(だいごみ)だ。


 俺のテンションはさらに上がり、アドレナリンが全開だ。部長のMCから始まり、簡単に話終わると、俺はギターを弾く姿勢になる。


 ーーさあ、最高のライブをやろうぜ!


 そう意気込んだ俺は、ギターの弦を思いっきりはじいた。


 ーージャカジャカ! ギュワァァン!


 ステージから爆音が鳴り響く中、ライブはスタートした。


 先輩たちと音を合わせた回数は少ないながらも、弾けば曲になっている。


 けれども、俺は弾いてすぐ違和感を覚えた。


 音は合っている。合っているにも関わらず、どこか変だ。弾いているのに、なぜか熱を感じない。


 バンドでライブをやる時に感じる、特有の高揚感もない。


 ギターボーカルを任されている俺は、その違和感にうまく声が出せていなかったことに気づく。


 それは演奏を聴いている人たちも感じとっているようで、場は静まり返っていた。


 他の先輩に視線をやるも、彼らはそんなことも気にせず気楽に弾いている。


 ーーくそ、なんとか立て直さなければ。


 一人でがむしゃらに弾いて歌っても、どうにかなるわけではない。


 立て直すどころか、曲はさらにグダグダになっていく。


 気がつけばライブは終わり、まばらな拍手が聞こえるだけだった。


 聴きにきた人たちが去る中、俺だけがその場に立ち尽くしている。


「こんなの……ライブでもなんでもねーよ!」


 俺は急いで、軽音楽部がある部室まで走り出した。


 ーーガラガラ、バタン!


 部室のドアを開いて中に入ると、部長だけがいる。


「ん? どうした仙道、部室に来て」


「はあはあ……部長、他の先輩たちは?」


「みんなは文化祭を周るらしいから、ここにはいないよ」


 それを聞いた俺は、部長にかけよった。


「今すぐみんなを集めてくださいよ、そしてもう一回ライブをしましょう」


 俺の声にびっくりしたのか、部長は一歩下がる。


「どうしたんだ、ライブはもう終わっただろう」


「終わってなんかいませんよ! なんすか、あのライブは」


 あんなひどいライブをやって、納得がいくわけない。もう一度ライブをやり直すべきだと、俺は部長に話す。


「だから、またみんなでライブをやりましょうよ! 次こそは最高のライブに……」


 そう言いかけると、部長は首を横にふるう。


「ライブはあれでおしまいだ、みんな楽しくやっていただろう? それで、充分じゃないか」


「たしかに楽しくやるのはわかります! けど、あんなのはバンドじゃないですよ」


「僕はあれでよかったと思っている。三年生には、いい思い出になっただろうし」


「思い出を作るためにバンドを組んだわけではないでしょう! バンドって言うのは……」


 俺が強くバンドについて話すも、部長には伝わらない。


 この時、部長たちと俺のバンドに対する考えがまったく違っていたことに気がつく。


「仙道、おまえはまだ二年だ。おまえが求めるバンドは、これから作っていけばいいじゃないか」


「……っ」


 話はここで終わってしまう。もうこの人たちになにを話しても、無駄だった。


「あ、いたいた! 三階で出店をやっているから行こうぜ」


 他の生徒が部長にそう声をかけると、部長は部室を後にする。


 部室に一人残される俺。


 外からは文化祭を楽しむ声が、あちらこちらから聞こえてきた。


「失礼しま……あ、晴君! ここにいたんだね」


 シゲが部室に入ってくると、俺に声をかける。


「ライブ、よかったね。晴君がステージで演奏していて、かっこよかったよ」


「……シゲ」


 それは、シゲなりの励ましだろう。


 シゲだって、バンドやライブはそれなりに知っているはずだ。


 アレがひどいライブだったとわかっていながら、今も俺に気を遣っている。


「……俺、決めたぜ」


「え? 晴君、なにを?」


 ぽつりとつぶやいた言葉に、シゲが尋ねる。


 そして、俺はシゲに向かって話す。


「部長が言ったように、俺はバンドを作る!」


「ええ? それは、部活でできるんじゃあ……」


 もちろん、部活をやっていればバンドはすぐに作れるだろう。


 けれど、それは本物のバンドじゃない。


「あんなお遊びみたいなバンドじゃねー! 俺が求めるバンドを作るんだ」


 先輩たちのような、思い出を作るためだけに組むバンドにはしない。


 ライブシーンを盛り上げさせる、最高で最強のロックバンド。


 それは、俺が音楽を始めた目標みたいなものだ。


「晴君なら、きっと最強で最高のバンドを作れるよ」


 シゲは俺の言葉に、笑顔でそう話した。


「ああ! 当たり前だ、絶対に作ってやる」


 こうして俺は、一からバンドを作ることにした。


 ーー最強で最高のロックバンド。


 そんなバンドになるために。

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