異世界転生されてみた
季節感を思いっきり無視してます。
日曜日の朝、キッチンでホットサンドを作っていたら目の前に人間が現れた。
いや、何言ってるのこの人って思うよね。私もそう思う。
でも本当にキッチンに立っていたら、一瞬眩い光が部屋を満たして、そして光が消えた瞬間には目の前のダイニングに背が高くてフードを目深に被った人間が立っていたのだ。
何も無い場所から一瞬で人が現れるなんて、そんな事ある?
「・・・」
「あの・・・」
人間驚きすぎると声が出ないらしい。
先に口を開いたのは突如現れた謎の人で、その声色からして男の人だった。
「大丈夫?」
「は、はぁ・・・」
そう言ってフード男が近づいて来たところでハッと宙に浮いていた意識を取り戻した。それは手元のホットサンドから焦げ臭い匂いがしたからかもしれない。
「あ、あの、どういう事ですか?あなた、誰・・・?」
「私は、決して怪しいものじゃ無い。違う世界からこちらの世界に転生してきたんだ」
「・・・」
社会人2年目24歳、野田優衣。人生で初めて異世界人と出会いました。
フード男の名前はクムギ。ちなみにク・ムギと切るらしく、名字がクでムギが名前らしい。
年は20歳。ムギさんは元いた世界で学者をしていた。故国では優秀な学者だったみたいで、お国の第一王子にも勉強を教えていたらしい。けれど元来体が弱く、齢20にして儚くなってしまったとか。
異世界から転生して来たとかそんな話普通は信じられない。けれど現に私は目の前であり得ない現象を見てしまった。そしてムギさんの話す異世界の話は詳細で、リアルで。逆にこちらの世界、例えばスマホやテレビといった文明機器は全く知らない様だった。
ちなみに年下だけれどさん付けで呼んでしまうのは、単に「ムギさん」と呼んだ方が呼びやすいからだ。
「それで、どうしてこっちの世界に来たの?」
「それは・・・死んですぐ後に神様の様な者が現れて、それで幸運にもこちらに・・・」
「幸運にも?」
「あぁ、神様は亡くなった人の中から抽選で当たった人に、その後も生きられる様にしてくれているらしい」
「ふぅん」
よく分からないけどそんな宝くじみたいな制度があるのか。
そしてちょうど転生して来たのが私の部屋だったのだと言う。ムギさんはあれでも、もの凄く焦っていたらしい。
「それで、ムギさんこれからどうするの?こっちの常識なんて分からないし、どうやって生きていくの?」
「とにかくせっかく神様に与えられた命だ。粗末にしないように頑張るしかない。ユイ、驚かせて悪かった」
そのままムギさんは部屋を出て行こうとする。その大きな背中はどことなくしょんぼりしていて、私は何故かムギさんの袖を掴んで引き留めていた。
「ユイ?」
「多分そんなフード被って歩いてたらまた不審がられるよ。それにこっちの世界の常識もないんだから、すぐ野垂れ死んじゃうよ」
「あ、あぁ。気をつけ・・・」
「だから・・・しばらくここで暮らせば?」
「え!?」
「ムギさんが働いて一人暮らし出来る様になるまでね。それまで協力するよ」
私、何を言ってるんだろう。こんな怪しい人と暮らすなんて。でもなんだかムギさんは悪い人じゃなさそうな気がした。それに盗られて困るような物もないし!
「ユイ・・・いいのか?」
「いいよ。それよりそのフード取ってよね〜。顔見えないのは嫌だよ」
「だ、だが・・・」
「なんで?ムギさんの世界ではフードで顔を隠すのが常識なの?でもこっちの世界は違うからね!」
私は背の高いムギさんに飛びつくと無理やりフードを脱がそうとする。普段はこんな事絶対しないけれど、なんだか自分の家の中ってことで、少し大胆になっていた。
「ま、待てユイ・・・あっ!」
「チャーンス!」
ムギさんは私を振り払おうとした勢いで後ろに倒れてしまった。それを良いことにムギさんに馬乗りになってフードを取る。
「ユイ、は、恥ずかしい・・・」
「ム、ムギさん・・・?」
フードを取るとそこには見たことも無いような美青年がいた。
髪の毛は綺麗な銀色で、肌も透き通るように白い。眉毛も、ふさふさの睫毛も銀色で、瞳は澄んだ紫色をしている。鼻筋はすっと通っていて、薄い唇が顔全体をスマートな印象にさせている。
「ユイ、も、もう許して・・・」
そして何故かムギさんは乙女のように顔を真っ赤にしている・・・。
「あ、ご、ごめん!調子乗った!セクハラだ!」
「い、いや大丈夫・・・セクハラって何?」
慌ててムギさんから離れると、ムギさんはワタワタとフードを直しながら立ち上がった。
「と、とにかくそんなに急に密着されると、恥ずかしい・・・」
「・・・」
「わ、私はあまり人に顔を見せるのが好きじゃないんだ・・・」
なんてこった、ムギさんは極度の恥ずかしがり屋の美青年だった。
ムギさんは私に極力迷惑をかけたくない、と働く意欲満載でコンビニでバイトをする事になった。ムギさんが面接に行った日、コンビニは騒然となったそうで、早速近所の人々が長蛇の列を作ったらしい。
戸籍とか、そういう物はどういう仕組みになってるのかムギさんに聞いてみると、ムギさん曰く「神様が上手いことやってくれている」らしい。なんか凄く雑だけれど、今のところ問題が起きてないから良いのだろう。
そうやって順調にムギさんがコンビニでバイトを始めて1ヶ月が経っていた。
「ムギさんただいま〜」
「おかえりユイ」
仕事を終えて家に帰るとイケメンがいる、という状況にも慣れて来た。ムギさんはバイトを5時で終わらせていつも夕飯を作ってくれている。食費は折半で、家賃は私が出している。ムギさんは家賃も折半にしようと言ってきたけれど、流石にコンビニバイトでそれをしていたら一人暮らしの資金が貯まるまで凄く時間がかかる。そう言って断ると、ムギさんは家事全般をしてくれる事となった。
「ユイ、今日の晩ご飯はブイヤベースにしてみた。私の元いた世界にも似たような料理があったんだ」
「へぇ、そうなの?わ、美味しそう!」
「良かった。先にお風呂に入る?」
「うぅん、お腹ペコペコだから先にご飯食べる!」
ムギさんはシンプルな白いシャツに黒いエプロンを着けている。フードはもう被っていないけれど、顔を晒すのに慣れていないみたいで、私と目が合うたびにいつも恥ずかしそうな表情をする。こんなイケメンと1ヶ月も一緒に暮らしていて、しかもムギさんがそんな調子だから、最近の私は完璧に調子に乗っている。
「ユイ、お仕事お疲れ様」
「ムギさんこそお疲れ様。頂きます!」
ムギさんはとても料理が上手だ。ムギさん曰く、元の世界でも体調の良い時は料理を作っていた様で、そこではコンロなんて物がなくて、火加減の調節がしやすいこちらでの料理はとても簡単らしい。
「ムギさん、ブイヤベース、すっごく美味しい!いつもありがとう!」
「そんな、ユイに褒めてもらえて私も嬉しい」
ムギさんはまたまた恥ずかしそうにはにかんだ。ムギさんは結構雰囲気が落ち着いているから普段は20歳に見えないけれど、端々でこんな風に可愛いところを見せてくれる。
「そういえばムギさんはこっちの世界にやって来て、これから何かしたい事とかあるの?」
「したい事?」
「うん、今は自立する事を目標にしてると思うけど、その先にやりたい事を決めていた方が良いかなって思って」
「やりたい事・・・そうだな、今までずっと病気がちで将来の事なんて何も考えていなかった。学者になったのも勉強が得意で、あまり人と関わらなくていいからっていう理由だったし・・・」
「そっか、でもこっちの世界にもムギさんにあった仕事はいっぱいあるよ。自由にやりたい事考えよう!」
「そうだね、ありがとう。考えてみるよ」
それからしばらくして、ムギさんはスカウトというものを受けたらしい。どうやらSNSでムギさんの常人離れした容姿が話題となったからのようだ。普通10代の人達がスカウトされるイメージだったから、ムギさんの20歳という年齢でスカウトされるなんて凄く意外だった。
ムギさんは分かりやすく頭を抱えていた。
「ユイ、私はどうすればいいと思う?」
「どうって、ムギさんが嫌なら断ってもいいと思うよ」
「そうか。私は人前に出るのが嫌いだ。このスカウトとやらを受けたら人前に出る事になるのだろう?」
「まぁ、そうだね」
「・・・ユイはどう思う?」
「うーん、ムギさんが嫌ならしなくていいんじゃない?あ、でももし芸能人になったらTAKUYAに会えるかも。そしたら教えてね!
あ、チャンネル変えていい?」
ムギさんは恥ずかしがり屋だから断るもんだと思っていた。
「ユイ、スカウトとやらを受ける事にした」
「えっ、そうなの?」
ムギさんにそう言われたのはそれから3日後のことだった。
「うん。スカウトを受けてモデルになって、それで成功したらコンビニのバイトより沢山稼げるし、そしたらユイに迷惑をかける事もない」
「そっかぁ。ムギさんなら絶対成功するよ!だって見た事ないくらい格好いいもん!」
「ユイ、揶揄うのはやめて・・・」
ムギさんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
うーん、これはモデルになってから大丈夫なのかな?格好つけるのが仕事なのに、一々照れていたら仕事にならないんじゃ・・・。
「ねぇムギさん、モデルってどういう仕事か知ってる?」
「うん、ユイが好きなTAKUYAっていう人みたいな事をするんだろう?」
TAKUYAというのは私が好きなアイドルで、スタイルが良いからモデルもしている。良くテレビを見ては私がキャーキャー言っているのでムギさんも知っているのだろう。
「そうそう!格好いいよね!」
「ユイは趣味が変わってるな」
「え、そう?」
TAKUYAは今日本で知らない人はいない大人気のアイドルだ。最近はドラマにも出て俳優デビューもしたりしている。
TAKUYAは誰もが認めるイケメンだと思っていた。あ、でも確かにアイドルじゃなくて渋オジ系が好きな女子には刺さらないかも。ムギさんは男の人だしそっちのタイプの方が憧れるのかも。
「ねぇムギさん。ムギさんはモデルになるにはちょっと恥ずかしがり屋な面があると思う」
「そうかな?」
「うん、絶対そう!だからこれからムギさんの恥ずかしがり屋を治す訓練をしよう!」
「訓練?」
「うん、ムギさんってたまに恥ずかしがって私の目を見て話せない時があるでしょ?だからこれからはじっと相手の目を見て話すの!」
「えっ、そ、そんなの無理だ・・・」
ムギさんは想像しただけで恥ずかしいらしい。顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。あ、耳まで真っ赤になってる。
「ほら、目を見て!」
「・・・」
机に手を置いてムギさんに顔を近づける。けれどムギさんは両手で顔を覆って手をどかそうとしない。
「もう、大丈夫かなぁ?」
「・・・ごめん、ユイ」
こんなに耳が真っ赤だとムギさんが恥ずかし死にしてしまう。私は諦めて身を引いた。
ムギさんはその気配を感じてそろりと手を外した。
「あ、チャンス!」
「えっ!?」
その隙を狙ってムギさんの頬を両手で挟む。じっと瞳を覗き込むと手で顔を覆えなくなったムギさんが真っ赤になっていた。
「ユ、ユイ、私はそれ以上されると・・・」
「え?」
「ご、ごめん!」
ムギさんは慌てて席を立つとトイレに駆け込んでいった。
・・・もしかしてトイレ我慢してたのかな?そうだとしたら申し訳ない。
それからしばらくムギさんは忙しそうにしていた。早速モデルとしてオーディションに出たり、ショーに出たり。
もちろんその間は家事は私がした。それに対してムギさんは申し訳なさそうにしていた。
ムギさんは尋常じゃないほど顔立ちが整っているし、スタイルも綺麗な八等身だ。いやもっとあるかも。
とにかく正直芸能人を生で見たことが無いから分からないけど、ムギさんなら芸能界でも絶対成功すると思っていた。そしてその予想は見事に当たった。
事務所に入ってからすぐにムギさんはバラエティ番組の仕事をして来たらしい。話題のニュースター枠として。
そして今日はその放送をムギさんと一緒に観ることになっている。
「ユイに観られるなんて恥ずかしい・・・」
「何言ってるの?今更じゃん!」
ソファに横並びに座ってテレビにスタンバイする。
ムギさんは街中で見つけたイケメン一般人がモデルとしてデビューした、シンデレラボーイとして登場していた。
そして芸名は本名と変わらず「ムギ」
「へぇー、出身は宮崎県って事になってるの?」
「うん、神様が本籍地は宮崎にするって言ってた」
「そうなんだぁ、神様って宮崎県に思い入れがあるのかなぁ」
「あとク・ムギっていうのが韓国っぽいから実は韓国人っていう設定になった」
「え、そうなの!?なんだかややこしいね!てかそういうのって色々辻褄とか大丈夫なの?」
「・・・ほら神様が・・・」
「あぁ、神様が凄いのか!」
テレビではお笑い芸人の大物司会者にいじられてムギさんがドギマギしている。そのクールな見た目と裏腹な、素朴な表情にみんなが和んでいる、感じがする。
「うーん、ムギさん好感度バク上がりだね。これは人気になるよ!」
「そう?」
テレビウォッチャーの私が言うんだ。間違いない!
ムギさんはあまりピンと来ていないみたいだった。
「私はユイが喜んでくれるならそれでいい」
「ムギさん・・・なんて良い人なんだ!」
思わずムギさんに抱きつく。2ヶ月以上も生活を共にしているせいか、私は結構遠慮なくムギさんに抱きつく様になっていた。本人は嫌かもしれないけど。
「ユ、ユイ。そんな無防備な事しちゃ駄目だ!」
「えぇ〜なんで〜?」
そして顔を真っ赤にして震えながらも、私から離れようとはしない、そんな可愛すぎるムギさんを見るのが楽しいというのもあったりする。
それから私の予想通りムギさんは一気に人気者になった。毎日朝早くから夜遅くまで、地方や海外にも出かける事も多いから何日も家にいない事もある。そうしてコンビニのバイトも辞める事になってしまった。
芸能人大好き、テレビ大好きな私のミーハー心は、朝マネージャーさんみたいな人が家に来たりするのかなって思ってたけど、そういった人が来る事は無かった。やっぱりテレビの見過ぎかぁ。
そんな風に最初は呑気に楽しんでいたけれど、最近はムギさんとゆっくり話をする事も無くなってきて、それで少しの寂しさも感じていた。
そうしてあっという間に半年が経って、世間はクリスマスシーズンというものになった。
「ただいま〜。あ、今日もムギさんいないのか・・・」
スマホを見てもムギさんからの連絡は無かった。
ムギさんはどうもこっちの世界の文明機器に慣れないみたいで、元からこまめにメッセージを送ったりはしない。
けれどこんなに毎日会えていないと、それがなんだか寂しい。
「はっ!私何考えてるんだろう。彼女でも無いのに」
そこでムギさんが今では家賃も食費も払ってくれている事を思い出した。
『ユイ、私も安定した収入を得られる様になった。今更だけどきちんと私にも払わせて欲しい』
『おー、いいよ〜!ありがたい!』
その会話をした時はまだムギさんはここまでの忙しさじゃなかった。本当に忙しくなって来たのはここ3ヶ月くらいからだ。
ムギさんと同居を始めた時、ムギさんが職を見つけて一人暮らしが出来る様になったらお別れの予定だった。
けれど、ムギさんとの毎日は居心地が良すぎてすっかりその約束を忘れていた。
ムギさんと私の関係ってなんなんだろう。
恋人でも無い。でも一緒に暮らしてる。ルームシェア友達?
今までこんな事考えた事もなかった。
人気者になったムギさんにとって私ってなんなんだろう・・・。
何のためにこの家を出て行かずにずっといるんだろう・・・。
帰り道にクリスマス商戦真っ只中の街中を歩いて帰って来たからかな。そんな鮮やかな街並みを通って真っ暗な家に帰るとふと寂しさに襲われる時がある。
今日はそんな日なのかもしれない。
「うーん、こんな暗い気分性に合わん!飲むぞーー!」
すっかりムギさんファンになっている私はテレビをつけてビール片手に、録画していたムギさんが出ている番組を観る。
ムギさんは恋愛リアリティ番組にもコメント側で出ていて、あの恥ずかしがり屋のムギさんが人様の恋愛についてコメントしているのが面白くて、それを観るのが楽しみだったりする。
『そういえばムギさんってどんな女性がタイプなの?』
『あー、確かに!そういうのあんまり話さないよね〜』
お笑い芸人と今をときめく女優に挟まれているムギさんを観て、売れてるなぁとしみじみ思う。
『優しくて笑顔の素敵な女性ですね』
うんうん、鉄板だよね。女性人気を落とさない為にも事務所から言われてるのかな?
ムギさんはテレビに出ている時は家で見せる姿ほど恥ずかしがり屋の表情を見せない。もちろん、ピュアな性格のせいで良くいじられてる事はあるけれど。だから最初スカウトされた時に私が抱いていた心配は全くの杞憂に終わった。
ムギさんにも仕事モードみたいなものがあるのかもしれない。
『えぇー、なんかそれって嘘っぽくない?そんなに優等生の解答じゃなくてもムギ君くらいイケメンだったら人気落ちないから大丈夫だよ?』
お笑い芸人が笑いながら茶々をいれる。
そうだよね、最近はイケメンでも恋愛観を包み隠さない人も多いよね!私もそういうタイプ好き!
『いや、そんな・・・』
『ほらほらぁ、言っちゃいなよ!』
『えっと、あの、そうですね・・・。
・・・やっぱり綺麗な人が好きです・・・』
『そんなのみんな好きだよ!』
結構な間をとった割に普通の事を言うムギさんに周りは拍子抜けした様に笑った。
ムギさんはどうして周りが笑っているのか分からない表情をしている。その表情を見て、ムギさんが本心からそう言っているのが分かった。
そっかぁ。ムギさんもそりゃ綺麗な人が好きだよね。
なんだかその言葉が深く刺さる。
ムギさん、今は常に綺麗な人に囲まれて生きてるよね。
それに比べて私って・・・。
ふと机の上に置いたスマホの真っ暗な画面に映った自分の顔を見てしまう。
あーあ、なんて顔してるんだ自分。
ムギさんが私の事をどう思っているかなんて考えるまでもないじゃん。そんなのただの同居人だよ。
なんだかおかしくなって、私は笑いながら新しいビールを取りに冷蔵庫へ向かった。
「ユイ、起きて。大丈夫?」
「・・・ムギさん?」
夢の中にいるのかな。帰って来ないはずのムギさんがいる。
「ムギさん・・・おかえり〜」
私は夢見心地でムギさんの首に手を回した。
「ユ、ユイ・・・!」
「・・・ん?あれ?・・・くさっ!」
「え、ご、ごめん!臭かった!?」
「い、いや違う!ごめん!」
自分の吐く息がね!臭い!お酒臭い!
そこで目が覚めて慌ててムギさんから離れる。夢だと思ってたムギさんは現実で、そして私はムギさんに思いっきりお酒臭い口のまま抱きついてしまった。
今だけムギさんの鼻がめっちゃ詰まってて欲しい!
「ユイ、大丈夫?帰ってきたらユイが床に倒れててびっくりした」
「うん、ごめん・・・」
気付いたら既に朝で、机の上にはビールの缶や、ワインの瓶やらが散乱している。私どれだけ飲んだんだろう・・・。
ムギさんはコートを着たまま私にお水を差し出した。
「えっと疲れてるのにごめんね?ありがとう。お帰りなさい」
「ただいま。ユイ、私が帰ってない数日の間ちゃんと食べてた?顔色が悪い。それにちょっと痩せた気が・・・」
「食べてたよ!飲み過ぎちゃったのは良くないけど、本当に気をつけるから。それよりムギさんは大丈夫?忙しそうで心配だよ」
「私は大丈夫。ほら捕まって?ベッドまで連れて行く」
「うん、ありがとう・・・」
ムギさんは私を横抱きにした。
重いからいいよ!そう言おうとした時ムギさんのコートからふんわりと香水の香りが漂ってきた。
その香りに体が固まってしまって、断るタイミングを失ってしまった。
「ユイ、気持ち悪かったら目を瞑ってて」
「う、うん・・・」
香水には詳しくないから女性モノか男性モノかなんて分からない。けど男性モノでこんなに甘い匂いのものなんてある?
そう思ってしまう思考に嫌気がさして目を瞑る。
駄目だ。私完全にムギさんの事好きじゃん。
身の程知らずにも、こんな格好良くて、優しくて、恥ずかしがり屋で、酔い潰れた同居人の女のためにお姫様抱っこまでしてくれる様な、そんな人を好きになるなんて。
「ユイ、ベッドに着いた。ほら横になって。後でスポーツドリンクを買ってくる」
「ありがとう。ね、ムギさん」
「うん?」
ムギさんは優しく私をベッドの上に下ろしてくれた。
ムギさんはベッドのそばに跪いて優しい眼差しで私を見下ろしている。
うん、充分だ。好きな人にこんなに優しくされるなんて、それだけでいいよ、充分だよ。
「ムギさん、好きな人と幸せになってね・・・」
「えっ!」
ムギさんが一瞬で真っ赤になる。
そして私は瞼の重みに耐えきれず目を瞑る。
「ユイ?寝たの?ユイ・・・気付いてたんだ」
うん、さっき気付いたよ。ムギさん。だから私に遠慮しないでね。この家を出て行って、その香水の持ち主と一緒に幸せになって。
そう言おうとして二日酔い特有の眠気に耐えきれず寝てしまった。
そうして2日後、私は何故かムギさんと一緒にムギさんのCM撮影のスタジオにいた。
二日酔いから覚めた後も、ムギさんは今まで通りに優しくて、そして今日のCM撮影の仕事まで休みだったから久々に家でゆっくりしていた。私も嬉しくて、ムギさんとの同居生活が終わるまでの時間を楽しんだ。
そして昨日その撮影に私も連れて行くと言われ、何故か来てしまった。
「ユイ、大丈夫?なんか緊張してない?」
「い、いや緊張するに決まってるよ!や、やっぱ帰る!」
「もう撮影だから無理だよ」
情けない、私のミーハー心!明らかに場違いなのに、なんで着いてきてしまったんだ!こんなスタジオど真ん中まで!
「ムギ、この人が一緒に住んでる人?」
「はい」
私がプルプルと震えているとそこに現れたのは眼鏡をかけて長い黒髪を後ろで結んだいかにも仕事が出来そうな女性だった。
「って女性じゃない!?ルームシェアしてるとは聞いてたけど男性だって言ってたのに。どうするのよ週刊誌に撮られたら!」
「すみません。でも大丈夫です」
「大丈夫って何!?」
「はい、撮影でーす!」
「ユイ、ちょっと待っててね」
撮影の合図にムギさんが素知らぬ顔をしてセットに向かって行く。
ムギさんが完全に人の話を無視している所を見るのが初めてで、ちょっと驚いてしまう。
女性ははあっと深いため息をつくと私に向き直った。
「すみません、紹介が遅れました。ムギのマネージャーをしております、北森と申します」
「あ、野田と申します」
休日ではあるけれど社会人の癖が出て、互いに名刺を交換し合う。
北森さんはジロジロと私を上から下まで見回した。シルバーフレームの眼鏡の奥から覗く視線が痛すぎる!
「すみません、ムギがルームシェアをしていて同居人に迷惑をかけるから絶対に家には来るなって言ってまして」
「はぁ」
そしてあの優しいムギさんがそんな風に我儘を通していたのも意外だった。
「まさか彼女と同棲してるのかと最初は疑っていたんですけど、家に来るなら仕事を止める、と言い張りまして。それに全然女っ気も無いから油断してたんです」
「そ、そうですよね」
「彼女ではなさそうですけど、一体どういう関係ですか?ムギは売り出し中で今は圧倒的に女性ファンが多いんです。売り出し中にスキャンダルがあるとすぐファンは離れます。ムギはもっと売れます。そんな大事な宝がスキャンダル如きで潰されたくないんです」
そうだよね、売り出し中のスキャンダルって怖いよね。人気が安定したらそんな事無いだろうけど。
それよりも北森さんの、彼女ではなさそうですけど、その一言にグサリと傷ついている自分がいた。
そんなの見て当たり前なのに、この前ムギさんには幸せになって欲しいって言ったはずなのに、なんで傷付いてるんだ!
「えっと、ムギさんが東京に出て来た時にたまたまお世話したといいますか・・・」
ムギさんがどういう風に生い立ちを話しているか分からなくてしどろもどろする。後からでも誤魔化せるように曖昧に答えておく。
「そうなんですね。とにかくムギとの同居は出来れば今すぐにでも解消してもらいたいです。
あ、では失礼します」
「は、はい」
撮影が本格的に始まって北森さんはその場を離れてセットのそばに寄った。
私も遠目からCM撮影をするムギさんを見つめる。
ムギさんとTAKUYAが2人でチョコレートのCMを撮っている。
あ、TAKUYAいたんだ・・・。あんなに大好きだったTAKUYAを生で見ているのに全然ドキドキしない。むしろムギさんばっかり見てる。
そこで今度はモデルの田淵レオナも入ってきて3人で撮影をしている。
田淵レオナとムギさんは凄く近い距離で、その様子があまりに素敵で、なんだかぼーっとしてしまった。
「ユイ、お待たせ。どうだった?」
「凄かった!ムギさん、格好良かったよ。来て良かった」
「ユイが喜んでくれて嬉しい」
ムギさんが嬉しそうに笑う。
正直ムギさんばっかり見ててあんまり覚えてない。けれどムギさんは多分私を喜ばせようと思って連れて来てくれたのだから、私は無理やりテンションを上げていた。
「TAKUYAさん!」
「ムギ?どうしたの?」
ムギさんが呼んだのはTAKUYAだった。
「え!?ムギさん!?」
「ユイ、TAKUYAさんのファンだよね?今日連れて来たのはこのためだ」
「え、ちょ、ま・・・!」
心の準備が!
慌てて髪の毛を整えるけれど、もう遅かった。
「ムギ、お疲れ様。この方は?」
「TAKUYAさん、この人がこの前言ってたユイです」
「あぁ、例の・・・」
「は、初めまして!野田優衣と申します!よ、良ければ握手して頂けますか!?」
手をゴシゴシと服で拭って右手を差し出す。TAKUYAは笑顔で握手に応じてくれた。
な、なんて良い人なんだ!
「いつも応援ありがとう」
「こ、これからも、応援します!」
あぁー、なんて日だ!さっき全然ドキドキしないなんて思っちゃってごめんなさい!
「ねぇ、ムギもTAKUYAも何してんの?」
そこに入って来たのはモデルの田淵レオナだった。
八等身の抜群のスタイルに引き締まった体。足の長さなんて私の倍くらいあるんじゃないかと思ってしまう。
そして猫目の綺麗な顔立ちをしている。
「レオナ、この人が私の大切な人、ユイだ」
「は、初めまして、野田優衣で・・・」
「ねぇ、本当にこの人なの?」
私の言葉を遮ったのは田淵レオナだった。
「どういう意味だ?」
「だってほら、ムギが大切にしてる人っていうから期待してたのに」
「・・・」
か、感じる。彼女の視線からビシバシ感じる。
ムギさんに全然釣り合わないじゃん、という視線が。
「あ、あの私はムギさんのただの同居人でして、彼女とかでもなんでもなく・・・」
「え!?どういう事だ、ユイ」
「え?」
私の言葉に1番に反応したのはムギさんだった。
「あの、どういうって、どうもこうもそのまんまの意味・・・」
「ユイは私の気持ちに気付いてくれたんだろう?」
「う、うん。だから私好きな人と幸せになって欲しいって・・・」
「じゃあなんでユイはそんな事を言うんだ?」
「え、どういう事?」
なんだかムギさんと会話が噛み合ってない。他の2人もぽかんとしている。
「えーっとムギさん、どうやら話が噛み合ってないみたい。ムギさんの気持ちって?」
「だから、私がユイを愛しているって事だ」
「「えぇぇえっ!?」」
私と同じくらい驚いた声を出したのは田淵レオナだった。
「待ってね、ムギさん。本気で言ってるの?」
「何故だ。私が生涯を共にしたいのはユイだけだ」
待って待って、このパターンは考えてなかった。私がムギさんを好きになるのは仕方ないとして、ムギさんが私を好きになるなんて。
だって・・・
「私、ブスだよ?」
「ぶっ!」
私の言葉に噴き出したのは田淵レオナだった。
いや、分かるよ。ブスが自分の事ブスって言ったら笑っちゃうよね。分かってる。
私は昔から太りやすくて、しかも顔立ちも源氏物語絵巻に出てくる系の顔立ちだった。まぁ言ってしまえば太ってるブスだ。救いようがない。
それで虐められたりとかは特に無かったし、私と全く同じ顔をした両親も私を大切に育ててくれたから、過度に卑屈になる事なく生きて来たけれど、自分の容姿が人より圧倒的に劣っている事は流石に知っている。
中高生の時、ガールズトークでひとまず互いの容姿を褒め合う謎の時間があるのだけれど、みんな「可愛い」と言い合う中、私だけ「肌が綺麗だね」と言われて育って来た。つまり空気を吸うよりも「可愛い」を連呼するJK達が唯一私の前では言わなくなるのだ。
こんなの思い出してて切なくなる。
だからムギさんと同居するのを提案したのも、ムギさんと私が男女の仲になるなんて考えもしなかったからだ。だって私、ブスなんですもの。
「ユイ、何を言ってるんだ?ユイほど綺麗な人はいない」
「ぶっ!」
あーあ、田淵レオナがお腹抱えて震えちゃってるよ。
「ちょ、ちょっと待ってムギさん。そんな無理しなくて良いんだよ?」
「無理してない。なんで分からないんだ?」
ムギさんは本当に不思議そうな顔をしている。そのあまりの真剣さに段々その場の空気が変わり始めた。
「つまり、ムギが野田さんの事を好きなのは本当なんだよな?」
「当たり前です。こんな事で嘘を吐くはずがありません」
TAKUYAの言葉にムギさんは真剣な顔で頷いた。
えーっと待って?ムギさん、本気で言ってるの?
「ちょっとムギ、本当に冗談きついわよ!・・・くくっ・・・眼科行った方が良いんじゃない?」
田淵レオナが笑いながらムギさんの肩に手を置くと、ムギさんはその手を払った。
田淵レオナはそんな事をされた経験が無いのだろう。唖然とした表情をしていた。
「これ以上ユイを愚弄するな。聞いてて不快だ」
「え、ちょっとムギ本気!?この女の事好きなの!?こんな、豚みたいな女が!?」
「うるさい。いい加減黙ってくれないか。
ユイ、私はユイの全てを愛している。こんな私がユイを好きになるなんて迷惑かもしれない。けどユイにこの前、好きな人と幸せになって欲しい、と言われてユイは私の気持ちに気付いていて、そして想いを受け取ってくれたのだと思った」
「そ、そういう事かぁ!」
スーパーイケメンモデルのムギさんが私を好きだという一番不思議な点は置いておいて、この一連の話の噛み合わなさには合点が入った。
「ユイは私のことが嫌いか?」
ムギさんがじっと私の目を覗き込んでくる。
ムギさんはずるい。いつもは目を合わせたらすぐに顔を真っ赤にしてあたふたするくせに、こういう時だけ見つめてくるなんて。
「でも、私なんかじゃ、ムギさんとは釣り合わない」
「そんなの私の台詞だ。ユイ、余計な事は考えないで。私と同じ気持ちかそうじゃないか、それだけを教えて?」
周りには大好きだったTAKUYAも不機嫌そうな田淵レオナもいるのに、ムギさんの目を見てたらそれが気にならなくなってくる。アメジストの、今まで見たことも無いような綺麗な瞳。それだけしか見えなくなってくる。
「・・・うん、私も、ムギさんの事が好き、です」
そう言った瞬間、ムギさんが私を抱き上げた。
「やった、ユイ、ありがとう!必ずユイを幸せにする!」
「ぎゃぁっ!お、おろし・・・」
そうしてムギさんが私を抱きかかえたまま、キスをして来た。あまりに突然のキスに、しかも公衆の面前ということに唖然としてしまう。
「良かったな、ムギ。おめでとう」
「ありがとうございます。TAKUYAさん」
そうしてまた地上に下されて、笑顔で祝福してくれるTAKUYAとそれに答えるムギさん、そして呆然と立ち尽くす田淵レオナと私がいた。
それからムギさんの浮かれ具合は凄かった。そこで現れた北森さんにムギさんが浮かれすぎて私と付き合う事をぶっちゃけたもんだから、主に私が北森さんから激怒され、それに対してムギさんが怒るという謎の状況が発生した。
でも結局は最終的に北森さんは私とムギさんが付き合う事も、同棲する事も認めてくれた。恋愛禁止を掲げている契約では無いし、ムギさんはアイドルというわけでも無いから、だそうだ。
ただ最後に北森さんに言われたのは「とにかく結婚前の妊娠だけは気をつけて」とのこと。
ムギさんはその言葉を聞いた途端、顔を真っ赤にして
「ま、まだ、そんな事は・・・」
と、いつもの様に恥ずかしがっていた。
北森さんも、TAKUYAも田淵レオナもそんな顔を真っ赤にするムギさんの姿を見たことがないらしく、しばらく3人はポカンとしていた。
家に帰る頃には既に辺りは薄暗くなっていた。
ムギさんはクリスマスもお仕事らしい。だからその代わりという事でケーキと、シャンパンと、オードブルを買って帰ってきていた。
「ただいま〜、って寒い!エアコンエアコン」
「ユイ、暗くて危ないから気をつけて」
2人でガヤガヤ言いながら料理を並べてシャンパンを開ける。
「乾杯」
「ちょっと早いけどメリークリスマス!」
グイッとグラスを傾ける。
ふぅー、ちょっと奮発して良いやつ買ったから美味しい!
「ムギさん、クリスマスプレゼントはまだ用意出来てないから、ムギさんのクリスマスの仕事が終わったら渡すね!」
「そんな、ユイが私と付き合ってくれただけで人生で最大の贈り物だ」
「ムギさんは大袈裟だなぁ!でも私てっきり田淵レオナみたいな人とムギさんは付き合うもんだと思ってたよ!」
「そうだよね、やっぱり私なんかがユイと付き合うなんて烏滸がましいよね」
「ん?何言ってるの、ムギさん。流石にそこまで言うと逆に失礼だよ」
笑いながら言う私にムギさんは不思議そうな顔を向けた。
「でもユイは私にはレオナみたいな人がお似合いだって言うんだろう?」
「うん、まぁみんなそう思うんじゃないかな」
「レオナには悪いけど、不細工には不細工がお似合いってことだよね・・・。はぁ、やっぱり慣れてるとはいえ傷付くな」
「え・・・あの、ムギさん何言ってるの?」
「だから、こんな事言ったらレオナに申し訳ないけど、私みたいな不細工な男にはレオナみたいな不器量な女性がお似合いって事だろう?私なんかにはユイみたいな人が勿体無いのは分かってる。
ユイは綺麗だから悩まないかもしれないけど私は見た目がずっとコンプレックスだった。だからユイみたいな綺麗な女性にそう言われるとやっぱり傷付いてしまう」
「・・・」
これは・・・もしかして・・・
「あの、ムギさんの元いた世界って、どんな女性が綺麗って言われるの?」
「?もちろんユイみたいな女性だけど」
「ほらもっと具体的に!体型、とか。顔の造作、とか!」
「ユイみたいにふくよかで背が低くて、目が糸の様に細く、口が小さくて鼻が低くて、下膨れの女性かな。私は個人的には黒髪の女性が好きだ。ユイみたいな」
「じゃ、じゃあほら、男性は?格好良い男性はどんな人?」
「そうだな、男性もそんなに変わらない。あっちの世界でもこっちの世界でもユイほど綺麗な人は見たことがない。まさに私の理想だ」
「・・・」
「私みたいな不細工な男がこんな幸せを得られるなんて、しかもこんなに優しくて、前向きで、思いやりに溢れている、そんな完璧な女性と結ばれるなんて。本当に神様に感謝だな」
そう言ってムギさんは嬉しそうにシャンパンを飲み干した。
ムギさんのいた世界の美男美女って、聞く限り平安時代の価値観だ。そして私の顔はザ・源氏物語絵巻の登場人物、といった感じだ。
私はそっと頭を抱えた。
なんてこった。ムギさんは単純に美的感覚が現代日本と真逆の世界の住人だったのだ。
それならムギさんが私と目を合わす度に真っ赤になったり、テレビで綺麗な女優さんと共演しても全く平気そうだったりしたのにも納得がいく。
それは単に、ムギさんにとってドキドキする様な綺麗な人というのが女優さんではなく、私だったというだけだ。
私は今日1日の中で、ムギさんとの噛み合わなかった会話を思い出した。それも全て、原因はこの価値観の違いにあったに違いない。
「はぁぁあ、ムギさんの世界でもこの世界でも見たことないくらい私が綺麗って・・・どんだけ私こっちの世界でブスなのよ・・・」
「ユイ?どうかした?」
「う、ううん、大丈夫!」
「そうか。クリスマスプレゼント、ユイは何が良い?」
「・・・えっと、ムギさんと一緒に使えるものが良いかな〜」
真相はちょっぴり切ないけれど、この容姿のおかげでムギさんと出会い、結ばれる事となったのだ。
そう思えば悪くない。
そう自らを慰めながらこれからムギさんと歩んでいく明るい未来に想いを馳せた。