#9 機転
「すごい……」
圭はまた感嘆の声を漏らした。
試験問題を解きながら得た知識によれば、セーグフレードの防衛組織である蒼穹軍にも蒼穹士としてアルテリウアが所属する。
優秀なアルテリウアは新しく開拓された領土——特に辺境の領土に配置されることが多いという。なぜなら〈宇宙の扉〉が安定するまで人的にも物的にも補給は限られ、辺境となればなおさらだから。
アルテリウアなら身ひとつでいい。まして能力が傑出していれば、ちょっとした部局くらい一人でこなしてしまえる。
(つまり、ルクフェネにはそれだけの力があるってことになる。しかも16歳という若さで。運良く採用してもらえたけど、そんなルクフェネにとって、僕は必要と感じてもらえる存在になれるのかな……?)
——と、ゴーグルに表示される数値に圭は引っかかるものを感じた。
(ブレが大きい……)
お互いに動き回っているから各種計測値は常に変化する。それでは不便だから、ゴーグルに表示される数値は平均値なり中央値なり、あるいは何らかの補正をした近似値になっていて、基本的に一定の範囲から逸脱することはない。
しかし圭にはそのブレが大き過ぎるように思えた。
主観が入っていることは否定しない。事実、異常な値であるのなら計器自体が警告を発するはずだから。
(どうする……)
悩んだけれども迷いはなかった。
圭は右耳の通信機に触れてメニューを表示した。ルクフェネが装着する通信機のスペアである以上、デフォルトでは本体と常に同期する。圭はその設定を変更してペアリングを解除した。本体と切り離されて単独で動作するようになる。
すかさず視線を走らせる。
いま見えているグレイルとルクフェネを結んだ線の先、グレイルが見たルクフェネのその向こう。
その一点を視覚にとらえて圭は叫んだ。
「ルクフェネ!! もう一体いる!! 真後ろ!!」
「!?」
考えるより理解するより速く体が反応する。急速に接近した新たな敵を、ルクフェネは振り返りざまに大剣で受け止めた。新たに現れたグレイルを弾き返し、跳び上がる。
「ずっと真後ろにいたんだ! 僕らが見ていたグレイルは隠れるグレイルの存在を打ち消してた」
ヘッドフォンのノイズキャンセリング機能と同じような原理だ。しかし完全ではないから打ち消し切れなかった情報が数字のブレになっていた。
(気づかなかった……!!)
もとの一体が大量の光弾を放ってくる。不完全な体勢、しかも空中では自由が利かない。
(躱し切れない——!!)
そのとき急に鼻先へ、あの嫌な臭気が戻ってくるのをルクフェネは感じた。