#3 語らい
香取神宮、社務所内特別応接室。
「お茶をどうぞ」
「若葉さん、ありがとうございます。ここも急に使わせてもらって」
「いえいえ、お安いご用ですよ。今日は来客の予定がないので自由に使っちゃってください。ルクフェネさんもゆっくりしていってくださいね」
ルクフェネは軽く会釈して、お茶に口を付けた。
(いい香りがする……)
大きな窓から杜の木漏れ日が射し込む応接室だ。装飾は最小限で部屋全体に杜の大気がそのままに漂っているかのようだ。
ひととおり話を聞いて、カルナは喜怒哀楽とあと五、六個の感情がごちゃまぜになった表情を見せた。
「……えーと、整理すると、急に動悸が激しくなる、急に顔を火照って自分でもわかるくらい熱くなることがある、なんだかずっと落ち着かなくて、そわそわして、気もそぞろで浮ついて集中できない、だけど不愉快かといえばそんなことはなくて、どういったわけかウキウキする、神経過敏なのかひとの接近が異様に気になって仕方がない……。こんな感じでいいかな?」
「うん、そんなところ。でも調べても病気じゃないって判定が出るし、弱っちゃった」
「いますごくリラックスしてるよね?」
「そうなの。不思議ねえ」
「……。えーと、いまの症状はぜんぶ仕事中だよね? 近くに誰がいた?」
「誰がって、圭しかいないじゃん、防衛局。屋上にはリバもいるけど」
「最後の神経過敏の件だけど、たとえば圭クンから何かを受け取ったときとか、ルクフェネのことだからよくずれてるケープを治してくれたときとかじゃない?」
「よくわかるねえ、カルナ」
「五階の自分の部屋に戻ったら、上の空以外の症状は治まったりしない?」
「するする。それで気がつくと明日のオフィスのことばっかり考えてる。このわらび餅、おいしい♥」
「誰かに相談は……?」
「いましてる、カルナに」
「圭クンには……?」
「してない。何だか本能みたいのがそれは違うよって訴えてくるの。ほかのことはなんでも相談できるのにおかしいと思わない?」
(……。……。これだけ証拠が出揃ってるのに本人にまったく自覚がないってどういうこと!? 現役合格どころか普通より一歳早い入学と飛び級でまわりは全員年上ばかり、そもそも本人に友達をつくる気がない弊害!! 恋のお話ゼロの悪夢!!)
「あ〜おいしかった♪ いいトコだね、香取神宮。こころがすごく和んで安まる感じ。昨日までの不安が嘘みたい。頻繁に来よっかな。そうだ、圭も連れて来よう、来たことあるかもだけど」
「その場合は安らぎの効果はないかと……」
「そうなの? どうしてかな?」
「どうしてだろね……。上の空のことだけど、自室でついつい考えちゃうのって、本当にオフィスのこと?」
「うん。カルナ、お茶どう?」
(本当に気になって仕方がない対象を本能的に隠そうとする本能……!?)
「でもオフィスのことばかりなんて、仕事中毒だったらどうしよ……」
「あのデバイス、それも判定できるから……」
「おおっ、そっか、ならよかった♪」
「ところで今日は髪がよく整ってるし、シンプルながらよい香りがいたしますが……?」
「気分的にそうしたほうがいいと思ったの♪ カルナはいろいろガミガミいってくるけど、やっぱり自主性に任せたほうがいいと思うよ、きっと。あ、生意気なこといっちゃった。あらためて、今日は話を聞いてくれてありがとうございました。お陰でなんだかスッキリしました」
「それは何よりだけど。でも戻ったら再発するよ、平気かな?」
「『再発するかもしれない』じゃなくて『再発する』なの? カルナは何でも知ってる。認めたくないけど、やっぱりすごいな〜」
「お褒めにあずかりまして……」
「大丈夫かな、このまま防衛局司令を続けて……?」
「それは心配しないでほしいな。任務遂行不可能でルクフェナが現在の職位に相応しくないと判断したら、あたしは容赦なく降格させるから」
「うん、そこはすごく信頼してる。でも何かアドバイスが欲しいな」
「圭クンとリバ、コンビネーションの特訓中でしょ? だったら二人の成長を見守ってあげたら? しばらくは〈セグレンデの二つ耳〉の練習はお休みして」
「なるほど! それなら圭と適度な距離を保てるから、おかしなミスで怪我させたりしないで済む!」
(心臓バクバクになったり、顔が真っ赤になったり、体が触れて猛烈に照れたりしないで済む……では!? やっぱり何だろ、この本能的に正解は絶対に避ける本能……)




