#6 相馬圭
東京上空に正体不明の巨大な飛行体があらわれたのは二週間前のことだった。
飛行体は国土の割譲を要求した。指定されたのは茨城県南部と千葉県北部にまたがる一帯だ。つまりその古名が〝シモウサ〟ということになる。
総督府は香取市(元千葉県)の香取神宮に置かれ、地理的な中央に近い取手市(元茨城県)に防衛局が開かれた。
(どっち!?)
外へ飛び出して圭は左右を見回した。坂を駆け上がるルクフェネの後ろ姿はもうずっと向こうだ。
(すごい、速い……)
相馬圭は市内在住で県内の高校に通う普通の高校生——だった、数日前までは。
日本政府にあっさり見捨てられ、いまや元茨城県取手市在住のセーグフレード領シモウサ市民(領民とは呼ばないらしい)であるところの元高校生だ。
高校はやめてしまった。最大の理由はセーグフレード領シモウサとして分離された結果、外との行き来が不可能になったこと。目標にしていた都内の大学へ進学できないのなら勉強を続ける意味はない。
(違う)
圭は自分で否定した。
(伸び悩んでいた。たぶんずっとやめる口実を探していたんだ。だから、いいタイミングで国境ができて、たまたま見つけた防衛局補佐の募集に飛びついただけ。要するに逃げただけだ。それでも、もう進むことのできない途切れた道の先を、いつまでも未練がましく目を凝らして探しているくらいなら、新しく開かれた道を進むほうがずっといいはず……)
そう信じたい気持ちはあるけれど、いまの圭にそれが正しいといい切るだけの自信はない。
(僕はいま前へ向かって歩いているのかな? ずっと前の僕なら、どうしたらいいのかも決められずに立ち止まってしまって、前にも後ろにも動けなかったと思う。それよりはマシなくらいかな……)
——ここが防衛局ですか……?
圭がこう聞いたのは言葉のとおりであって、ただ確認しただけだった。
(彼女を見たときも、ああ、セーグフレードの人とはいっても自分たちと変わらないんだ、ということくらいだった。彼女は何だかすごく気にしてたけど、別に年下でも年上でも僕には関係ない。16歳なのに司令という立場にあるのは、きっと彼女が優れているからなんだ。僕はそんな彼女に必要と感じてもらえる存在になれるのかな? ……わからない。でも立ち止まってもいられない。何ができるのかいまはわからないけど、とにかく足掻くしかない)