#2 来訪者
(誰だろう……)
ルクフェネは首を傾げた。とはいえ、防衛局のオフィスは市中のビルを間借りしているから誰でもやってこれる。
「どうぞ」
入ってきたのは自分より少し上くらいに見える少年だった。
少年は部屋の中をぐるりと見回した。ルクフェネに関心を向けたのはそれからで、しかも足下から値踏みするかのように、ゆっくりと視線を上げてようやく目を合わせた。
漆黒の瞳と黒髪——典型的なシモウサの民の特徴だ。背はルクフェネとそう変わりないから男子としては小柄なほうだろう。
「……。ここが防衛局ですか……?」
(いまの何!? ここが防衛局とはとても信じられないってこと!? どんなに小さくても防衛局は防衛局なのに! 他人にとやかくいわれる筋合いなんて……! それに、その司令としてわたしは相応しくないとでも!?)
ルクフェネは腰に手を添えて胸を反らした。
「わたしがその防衛局の司令、雀鷹士のルクフェネ・ティッセだ。覚えておいてもらおう。用件は?」
「これを」
相手はスマホの画面を見せてきた。それは総督カルナ・ウィーディルビルグの名前で防衛局補佐を募るものだった。
(補佐なんて必要ないのに……)
とはいえ総督の決定を一介の司令が覆せるはずもない。ルクフェネは仕方なく手首の通信機を操作した。
手の甲を覆う部分に二次元ディスプレイが浮き上がって、総督から送信されてはいた(が、きちんと見ていなかった)選考方法が表示される。それを見ながらデスクの書類入れをあさって、指定されたタブレット端末を見つけ出す。大きさはA4サイズほどでごく薄い。
それを手渡して、ルクフェネは相手に向こうのソファを勧めた。
「起動して言語を選択したらガイドとチュートリアルが自動ではじまる。それでひととおり操作は覚えたまえ。だいぶ勝手は違うだろうが、ここで働きたいのなら慣れてもらうしかない」
「はい」
ルクフェネはデスクに座って手許のスイッチに触れた。目の前に空中投影の二次元ディスプレイが立ち上がって、デスクからはキーボードが出てくる。ユーザー名とパスワードを入力してログイン、文書編集アプリを起動してからさらに別にウィンドウを開く。
そこにはタブレット端末の画面が表示されていた。同期されているのだ。チュートリアルが進んでいく。ルクフェネはそれを少し見つめて書き物をはじめる。
しばらくするとタブレット端末は説明の終了を告げた。もう一度繰り返しますか、とのダイアログで「不要」が選択されたのを見て、ルクフェネはファイルを転送した。
「エントリーシートを送ったから、指示と記入例を見て埋めたまえ」
「わかりました」
最初の氏名欄に記入された名前は『相馬圭』、年齢欄には『17歳』とあった。一つ年上ということになる。
圭がエントリーシートを記入し終えるのと同時に、ルクフェネも作成していた文章を完成させた。