#1 カルナ・ウィーディルビルグ
2. セグレンデの二つ耳
防衛局のオフィスに戻ると、ルクフェネはソファに倒れ込むように眠ってしまった。
(すごく疲れてる……。『これくらいの相手』とはいってたけど、やっぱりたった一人で守っていくって大変なことなんだ……)
圭は着ていたジャケットを掛けてあげた。春も終わりかけだけど夜はまだまだ冷えるから。
圭はデスクに座って手許のスイッチを操作した。目の前に空中投影の二次元ディスプレイが立ち上がって、デスクからは流麗な曲線で構成されたキーボードが出てきた。
キートップに印字されているのは当然セーグフレードの文字だ。キー配列もアエレ型と呼ばれる独特なもので、言葉のとおり翼のように両側へ広がる。
圭は、教えてもらっていた情報を入力してログインした。キートップの文字を確認しながらぎこちなくタイプしていく——が、じきに慣れてあとはブラインドタッチでサクサクッと入力していく。ルクフェネからは、明日でいい、といわれたものの、簡単な事務作業を片づけておきたい。
——と、着信音が鳴って自動的に通信アプリのウィンドウに切り替わった。
現れたのはルクフェネと同じ蒼穹軍の制服に身を包んだ女性だ。
歳は二十代後半だろうか。鮮やかな菫色の髪は長く、画面からはわからないがおそらく腰まで届くほど。菖蒲色の双眸といい鼻筋といいキリリとした印象で、それでいて口許には大人らしい落ち着きをたたえていた。
防衛局補佐の募集要項の中で写真を見て圭も知っている。このシモウサの総督カルナ・ウィーディルビルグ、その人だった。
「ウィーディルビルグ総督! は、はじめましてお目にかかります! 本日付でティッセ司令に任用していただいた、相馬圭です!」
圭は背筋を正して座り直した。ただ当の総督は急に表情を崩して、だい〜ぶ気さくな感じで話しはじめた。
「ハイハーイ、そんなにかしこまらなくていいよ♡ あたしのこともカルナでいいからね〜♥ 圭クンのことは、エントリーシートと試験結果がこっちに来てるから知ってるよ♡ これからよろしくね〜♥」
「は、はい……。あ、ティッセ司令なんですが、いまお休み中なんです。戻ってからすぐに横になってしまって。あ、戻ったというのは侵入者の撃退からで」
「慌てなーい、慌てない♪」
画面の向こうで、どーどー、とカルナは落ち着かせる。
「情報は把握できてるし、損壊した鉄道施設のことも関係者と調整できてるから、だいじょうぶ♥ なんか老朽化してたけ予算が取れなくて困ってたんだって♪ だから総督府が新しくする分も負担するっていったら、すごく喜んでたよ♪ そういうわけだから心配なく♥ いま報告書書いてたの? 明日でいいからね♡ ルクフェネはそのままでいいよ、圭クンに挨拶しときたかっただけだから♥ でもそっか、戻ったとたんに倒れたか〜、う〜ん、そっか〜♪」
カルナは感無量といったふうに、ウンウン、と頷く。
「?」圭はよくわからないので、気になっていたことを質問する。「あの、アルテリウアというのはこれほどまでに消耗するものなんですか?」
「ぶっちゃけ、ひとそれぞれなんだけど、ルクフェネの場合は極端かな。無茶することは滅多にないし、悪くないんじゃない?」
「はあ……そうですか……?」




