#12 光の道
深夜の田園地帯——ただ風だけが踊る世界。
しかし東の空はもう明けはじめている。朝は確実に来ようとしているのだ。
「では圭クン、準備はいいかな?」
「はい、カルナさん、お願いします」
藍から橙へと染まりつつある空を左手に見て、カルナと圭は並んで立っていた。向いているのは正確につぐみが待っている方向だ。地平線の向こうだから見えなくても、二人は視線の先につぐみを見ている。
その後ろにはカスミちゃんとマリモちゃん、そしてコヨがいる。
「鹿島の神の暴走が抑えられて、そして精霊のみんなが天地の力を高めています。光の道はきっと〝境〟を貫くでしょう。わたしとマリモちゃんもこれより集中します。マリモちゃんのお友達が水辺にちょっと……かなり増えるかもですが、ご勘弁をいうことで……」
「わたしも、ご恩に報いるために最大限の支援をさせていただきます」
リバは邪魔にならないようにと少し離れたところに立って、つぐみを励ましていた。
「グミ、準備はいいね? 両手を高く高く上げてるかい?」
「うん、高く高く上げてる! リバくん、ちゃんと支えてくれてる?」
「もちろんさ!」
「わたし、頑張るね!」
カルナはすっと指先を空中に上げると、素早くユクルユフェーアを紡いだ。圭がそれに続く。
「鏡が導いてくれるように」
「光の道が暗闇を貫くように」
次の瞬間、二人の頭上には眩いばかり光が閃いた。一条の光の道を地平線の向こうへ伸びていく。
高台の突端では、つぐみは手のひらを上にして両腕をぐんと伸ばしていた。そこへ朝焼けの色を映した鏡が生まれる。
地平線の向こうから飛んできた光の道は鏡に当たって方向を変える。
そこを、セテュードの背に乗ったルクフェネとアヤメちゃんが猛スピードで翔け抜けた。
「あとはわたしの仕事……!!」
「ふふ、わたしもいますよ!」
「わっ、ごめん、アヤメちゃん! 援護よろしくね、なんてったって〝境〟はそのままにあるんだから!」
「お任せを、精霊はそんなものに負けませんから!」
〝境〟に激突した光は激しくスパークして、しかしそれは表面だけのことで、道そのものは突き抜ける。その開かれた扉をセテュードはくぐり抜ける。
〝境〟の中はただ闇だった。ありとあらゆる光という光が吸収されてなにも反射しない世界。ゴーグルを装着しても映し出される世界はなお暗い。
「叔父上がいなくなったおかけで機能そのものは問題ない……。まるで煙霧の中にいるみたい。アヤメちゃんは平気?」
「はい、でもルクフェネさんが見ているものとたぶん同じで、色の世界です。セテュードの羽根に粘ついた風がまとわりついてとても重そう……。セテュード、頑張って!」
「セテュードは強い子、まだ頑張れる! でもわたしからもお願い!」
セテュードは旋回しながら防衛局へ接近していく。羽ばたくことをやめない。
やがて煙霧の向こうに異質なものが見えてきた。防衛局の真上にあるのは回転する球体だ。ルクフェネの動きを封じたものと同じで、けれども遥かに巨大なものだ。
「来た! アヤメちゃん、怖かったら目をつぶってて。すぐにやっつけるから!」
「平気です!」
やってきたのはジェレンの大群だ。ブリキのおもちゃのようでいて、その見た目に反して俊敏で高速移動を得意とする。数は数え切れない。高速で突っ込んでくる。
「〈セグレンデの二つ耳〉で圭の温もりをずっと感じてる。何もいわなくても指先を合わせてくれる。では……流星よ、降り注げ!!」
モノクロの世界に鮮やかに輝く星の群れが生まれて一斉に襲いかかる。大気が沸騰する。大群が消滅するとともに煙霧が薄まるのを感じる。
「やっぱりこの方法が正しかった。カルナが鏡を創ってくれて、それをリバとつぐみが支えてくれて、コヨさんの愛しい人も無事で、精霊のみんなも神さまたちも助けてくれて、圭が道をつくって温もりをくれて、アヤメちゃんがずっと一緒にいてくれて……わっ、とても温かい……!」
「ふふ、ほんのちょっとだけですけど精霊の力を預けました。少しの間なら離れても平気ですよ」
「ありがと! ではいきますか。セテュード、蹴っちゃってごめんね! すべてを分かつ光の刃——フォンティニーレ!!」
古代の不可思議な紋様で装飾された巨大な剣が実体化する。それを両手でしっかりと握ってルクフェネは跳び上がった。
セテュードの速度も加えて巨大な球体に急接近する。
そしてルクフェネは大剣フォンティニーレを振り降ろした。
一刀両断、闇が弾けて発散する——。




