#10 声
それは防衛局司令の任命式のこと。
ルクフェネは蒼穹軍の階級でいえば最下級の雀鷹士だ。しかし職位と階級は連動しないから、雀鷹士が防衛局司令を務めてもいいし、そもそもがそういう制度になっている。ただ実際にあり得るのかとなれば、話は違う。そもそも16歳で入隊したことが前代未聞のことだった。
「どうせ特別扱いされたんでしょ?」
どこで誰かのつぶやく声が聞こえる。陰口ではない。わざわざ聞こえるようにいっているのだから。
「こっちはまだ職位無しだっていうのに、やんなっちゃう」
「どういうことだ?」
「やだ、気づいてないの? 襟元の紋章、見なさいよ」
「ん……? ああ」
やっかみの理由が自分の生まれにあることをルクフェネは知っている。
「王族か」
「何の苦労もせずに出世できるんだもの、羨ましい限りね!」
違う、と反論したい。
これはルクフェネ自身の力で、むしろ特別扱いなんてされたくないからこそ努力に努力を重ねて得た結果なのだから。
特別扱いなんてされたくない。ほかのどのようなことでもなく、ただ自分が自分であることで認められたかった。
でも、少し良いところがあるくらいでは誰も相手にしてくれないだろうから、だから、ひとよりもずっと優れていようと士官学校には一年早く入学して、二年早く卒業した。
16歳で蒼穹軍に入ったのも、即、司令の職位を得たのもルクフェネにとっては当然のことだった。
必要な学位も資格も持っていたわけだから。どちらもたゆまぬ努力の果てに実力で得たものなのだから。
だから「違う」と反論したい。
でもどうせ相手はまともに取り合わないことも、不愉快な思いをするのは結局自分のほうだということも経験からよく知っている。
結果として何も変わらなかったのだ。それでもこれまでの時間が無駄だったとは思わない。ただ、これからも変わらないと思うと絶望的な気分になるのだ。
あのときの重く鈍い臭気。
「ルクフェネ!!」
圭の声にルクフェネは呼び戻された。
(——!!)
はっとして、とっさにロクティーレを投げ捨て素早く指先で紋様を描く。
(風のように隼のように)
大量の光弾がルクフェネを貫く。けれどもそこにルクフェネはもういない。残像になって消えたルクフェネは一体目の足下に現れた。
あまりの速さにグレイルはルクフェネの姿を追い切れない。光弾を放つのをやめて周囲を探る——が、そのモノアイから見える景色がとつぜん真っ二つに割れた。
跳躍したルクフェネは真上からフォンティニーレを振り降ろしていた。
一刀両断。返す刀で二体目のグレイルに急接近する。
光弾が向かってくる。ルクフェネはそのすべてをよけ切って相手の真横に現れると、蛮刀を握る二本の腕を薙ぎ払って本体を蹴り飛ばした。高く跳び上がる。
(いま火と鋼の力を解き放つ、ロクティーレ)
再び右腕に収まったガトリング銃が咆哮すればグレイルは白い光に包まれる。ルクフェネが地面に降り立ったとき、もとはメタルに輝いていたそれは真っ黒焦げになっていた。
大剣で薙ぎ払う。上下に分離したグレイルは一瞬の静寂のあと爆散した。激しくスパークしていた一体目も同時に爆発する。
「ふう……」
一息ついてルクフェネはすべてのユーグネアを解いた。フォンティニーレもロクティーレも虚空に消える。




