コインランドリーの主
本題から言っても誰も信じないだろうから、起こったことを最初から話すことにする。
俺は田舎から東京に出てきたばかりの大学一年生だ。引っ越したばかりで洗濯機がなかったのでコインランドリーに通っていた。
そこには主がいた。くたびれたOLのような風貌で、ベンチに座っている20代後半くらいの女性だ。
これだけだと別に普通の人だと思うかもしれない。何が変かというと、ずっとそのコインランドリーにいるのだ。朝に行っても昼休みに行っても夜中に行っても、ずっとベンチに座ってスマホを見ている。そして彼女の目の前にある洗濯機は常に回っている。俺が洗濯機を回し始めてから、使い終わって服を取り出して帰る時もずっとだ。
一度、夜中に洗濯機を回してコインランドリーで寝落ちしたことがあった。朝になっても彼女はいた。俺の洗濯機は止まっていたが、彼女のやつは回っていた。
流石に気になって声をかけた。下心もあったかもしれない。上京したてで浮かれていた。だが彼女はこちらに一瞥も与えずにスマホを見ている。
どれだけしつこく話しかけても彼女は一貫して無視を続けた。肩を叩いても揺さぶっても何も言わなかった。軽く胸を揉んだがそれでも無視だ。
そして一つ気づいた。彼女のスマホの電源は切れていた。真っ黒な何もない画面をただ眺めていたのだ。怖くなった俺はその日は逃げ出した。
再びあのコインランドリーに行くと、まだ彼女はいた。もはや怪現象の域だ。でも彼女は俺を襲ってきたりするわけではないので恐怖より好奇心の方が勝った。俺は一つ検証することにした。彼女は何をしているのだろうと。
俺はリュックサックいっぱいに食べ物と水を入れ、どんな隙も見逃さないためにビデオカメラを持ってコインランドリーに向かった。そしてひたすら彼女を監視した。
それで恐ろしいことがわかった。36時間監視し、トイレに行くときもカメラをおいて確認したが、彼女はあのベンチから一歩も動かなかった。食事もトイレも睡眠も取らない。ただ真っ黒な画面を見続けている。そして洗濯機も止まることは無かった。どう考えても異常だ。
これをテレビやインターネットに投稿したらどうなるだろうと想像を駆け巡らせた。いろんな人がこの現象に興味をもつだろう。
そのときふと思いついた。洗濯機はどうなっているんだろう。ネットに投稿したらみんなも気になるはずだ。洗濯機はドラム式だったので横から中を覗きこんだ。しかし中は暗くて何も見えない。俺はスマホでビデオを取りながら洗濯機の扉に手をかけた。
ここでやめておけばよかった。
洗濯機を開けると事故防止機能のせいか、回転は止まった。少し開けただけで凄まじい異臭がモワッと広がった。中を覗いてみると赤い水にいろんなものが浮いていた。布切れ、電子基板、腕時計、白い破片、黒く細い糸、歯、水でぐずぐずになった皮膚……
人間のなれのはてだった。
洗濯機に気を取られていて、背後からの視線に気が付かなかった。振り返るとあの女がこちらを見ていた。彼女はスマホなんて最初から見ていなかった。ずっと洗濯機の中を見ていたんだ。俺はパニックになって固まってしまった。
女は複雑な表情でこちらを見ていた。怯えというか、哀れみというか、なんとも形容しにくい表情だった。
ハッと正気に戻って、彼女に弁明しようとした瞬間…………女が洗濯機に吸い込まれた。扉が閉まり、回転し始めた。俺は意識を失った。
次に目が覚めるとコインランドリーのベンチに座って、回り続ける洗濯機を見ていた。その中にはさっきの女がいた。生きたまま、洗濯機にかけられている。時々骨がへし折れるような音が聞こえてくる。
逃げ出そうと思ったが動けない。声も出せない。動かせるのは目と指先だけ。ビデオを撮ろうとしてスマホ越しに洗濯機を見ていたのが良かった。かろうじてスマホを使える。……彼女も同じことをしようとしたのだろうか。
さてようやく本題に入ろう。これを読んでいる人がいるなら助けて欲しい。冗談じゃないなら警察や消防に連絡すべきだと思うだろうが、もう既にしている。声が出せないのでイタズラとしか思われなかった。無駄なことで電池を浪費してしまった。
親は実家にいる。東京にくるのにはずいぶん時間がかかるだろう。メールを送ったが真剣には受け取って貰えなかった。母は電話を何度もかけて来たがこちらは何も言えない。
新入生だからまだ友人もいない。ほんの少し話した程度の連中は助けを求めても、わざわざコインランドリーまでは来ないだろう。
今はとにかく人目の触れる場所にこれを投稿している。物好きな誰かが見にくると信じて。
もし誰か来てくれたら何をしてくれても構わない。財布を抜こうが、服を剥がそうが、ネットに晒そうがなんでもいい。できれば助けるか、スマホを充電してくれると嬉しいが、多くは望まない。でも洗濯機の扉だけは開けないでくれ。
時々くぐもった叫び声が聞こえてくる。洗濯機の駆動音にかき消されてほとんど聞こえないが、間違いなく苦痛の声だ。時々扉の窓からこちらを見られているような錯覚に陥る。錯覚だと思いたい。
大事なことを言い忘れていた。場所は東京都ひ




