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シナリオの本

作者: 萌黄

懐古録      アクア・×××(文字の上に線が引かれている)メーディウム


 一度目はただただ愚かだった。馬鹿正直に、無理矢理水神に近付こうとして、村人に見付かって殺された。そのときはただ、水神に会えるかもしれない、ということが嬉しかったのだと思う。三歳


 二度目は少し学習した。だから、村人に見付からないように夜遅くに神殿に忍び込んだ。足音を忍ばせていたが、たまたま起きていた巫子に見付かって、悲鳴を上げる間も無く殺された。三歳


 三度目は懲りなかった。あの時あの巫子があそこにいたから悪かった。見付かりさえしなければ、会えるはず。しかし、それは甘かった。見付からないないように隠れながら進んだが、結局朝になっても水神を見付けられず。しかも早く起きた巫子が物陰で眠りこけた己れを見付けて、己れが眠っているうちに息の根を止めてしまった。四歳


 四度目は流石に懲りた。なのでどうすれば良いか必死で考えた。しかし考えすぎて答えは見つからず、歳を食って病で死んだ。四十二歳


 五度目は早々に諦めた。森に入って遊んでいたら、罠に掛かった狼を見付けた。今日の夕飯は狼の肉か、と思っていたが、側に子供が心配そうに寄り添っているのを見て気の毒になった。罠を外してやると、狼たちは己れに鼻先を擦り付けてから何処かへ行った。五十三歳


 六度目は何故だかやる気に満ちていた。こっそり祭祀の日に湖に近付こうとしたが、新月の夜はあまりに暗く、鳥目の己れは躓いて転んだ。たまたまそこに岩があって、頭をぶつけてあっさり死んだ。五歳







 二十二度目にしてやっと思い付いた。巫子になれば、すんなり水神に近付ける。しかし、どうすれば巫子になれるのだろう。巫子になりたい、とあざとく強請れる年齢はとうに超えてしまった。次から、巫子になる努力をしてみよう。四十三歳





 三十一度目、やっと巫子の見習いになれた。しかし、巫子になるまでにあと何年かかるかわからない。万に一つでも己れより今の巫子が長く生きてしまえば、己れが巫子になることはない。二十二歳




 今回で六十を数えた。今回の己れの髪は銀で、瞳は蒼。初めと同じだ。珍しい。そうだ、丁度今日、やっと巫子になった。これで、水神に近付ける。三十二歳



 六十三度目。そういうことだったのか。贄の目的は、そういうことか。己れが終わらせなければ。きっと、己れが廻るのは、己れにこの力があるのは、水神の誤ちを正すためなのだ。四十歳


 六十四度目。今回、巫子にはなれなかったが、村人に隠れてひたすらに弓の腕を磨く。何故か森の狼が己れに懐いている。行動からみるに、村の警備を行ってくれているらしい。三十九歳


 六十五度目。巫子になった。水神に攻勢を仕掛ける。弓で死ぬだろうか。十五歳


 六十六度目。流石に真正面からは駄目だった。しかし、水神の近くの子供に接触することは出来た。あの子供は蒼い勾玉を後生大事に持っている。あの勾玉が、打開策になるかもしれない。十六歳


 六十七度目。やはり、あの勾玉だ。とにかく、あれを調べなければ。祭祀の日は水神の目が子供から離れる。その日に、無理矢理奪おう。十四歳


 六十八度目。六十七度目の結果を一言で言えば失敗だ。なんだあの子供は。素早すぎる。捕まえるより先に己れが水神に捕まって殺された。今回こそは追い付く。十八歳


 六十九度目。追い付けなかった。今回こそは。二十一歳


 七十度目。前回は追い付けたが、勾玉を奪った途端に子供が溶けて、水になった。その水が顔を覆ってくる。溺れ死んでしまった。今回はその対策を練る。呪い破りでどうにかなれば良いが。三十二歳




 八十一度目。呪い破りが完成した。しかし、それから逃げても直ぐに水神がやってきてしまう。次はそれの対策だ。二十八歳



 八十八度目。前回は子供に追い付けなかった。十二歳



 九十三度目。前回は愚かにも呪い破りを取り落として溺れ死んだ。二十歳


 九十四度目。前回でわかった。やはり、水神は勾玉の気配を辿っている。持っていない状態で逃げても追って来ない。あの勾玉に宿るものは、もしかしたら己れ自身かもしれない。二十二歳


 九十五度目。村人に蒼い勾玉を配った。代々受け継ぐよう釘を刺したし、次で上手くいかせよう。三十四歳


 九十六度目。大丈夫。きっと、上手くいくはずだ。十九歳


 九十七度目。駄目だ。勾玉を奪ってから仕掛けを発動させるまでの時間を稼げない。二十歳




 百十三度目。一人では完遂できない気がしてきた。十六歳






 百六十八度目。一人では無理だ。己れ含め、二人以上は確実にいる。しかし、村人に協力は仰げない。となれば、たまに訪れる旅人を巻き込むしかあるまい。十七歳


 百六十九度目。前回の旅人は協力してくれたが、あの旅人は子供に追い付けなかった。仕方なく己れが捕まえたが、怪しい動きを見られて諸共殺された。十五歳



 百七十三度目。考えていなかったが、もし、水神が怒りに任せてまたあんな大雨を降らせたら、協力してくれた旅人まで流れてしまうのではないか? それだけは避けなければ。十八歳



 百九十九度目。結果変わらず。そういえば、不思議な子供に会った。左右の目で色が違う子供。その子供は己れを一目見るなり「可哀想な人だ」と。その子供は村に入らず、東に向かった。十六歳



 二百三度目。三度目の銀髪と蒼い目。親しくなった占星術師に、「巫子の悲願は二人組の旅人によって達成される」との預言を貰った。この占星術師、外さないと評判だそう。良かった、これで全て終わる。やっと、幸せになれる。


 しかし、ここに来て何故か、惜しくなった。成功するのは今回だけなのかもしれないのに、死にたくないと思った。それ程、あの占星術師に絆されているらしい。しかし、リントヴルム村の巫子として、最期まで孤高であらねば。


《ここから先は白紙である》

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