表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第四章
99/141

14.

 試験を終えて、他の授業の合間にシュレンセ先生の個人授業を受けることになった。やはりと言うべきか、ヴェルモントさんの言った通りの瞑想の授業が主なものになる。

 正直、瞑想はとても難しい。初めは静かな部屋で行っていたが雑念が取り払えず無理だった。

 静か過ぎて考えを振り払えないというのであればと、雑音は聞こえるが心を落ち着けるのに有効だと森の入り口で瞑想をすることになる。そんなことを数日行っていれば、いつの間にか自習の授業を抜け出した友人達に見守られることも出てくるようになるのだが。


 ブランシェやタイタンは分かる。しかしなんでまた、蒼実とロイドなんだろう? 蒼実は確かに、瞑想に大層興味を抱いてはいたけども。

 今日の護衛はリッターさんだ。この人もこの人でただ無言で立っているだけなのでどう接したらいいのか分からないが、うまい事気配を消してくれるのでいない者と思って接している。まぁ、カイザードとカヴァリエーレさんの面倒くさいコンビじゃなくてよかったと思うべきか。

 いつものようにクウィンシーをシュレンセ先生に預け、先生の言葉に従い集中する。


「それでは、ゆっくり深呼吸をしながら瞼を閉じて自然の音に耳を傾けてください」


 深く深く、ゆっくりゆっくり……

 木々が揺れて葉っぱが擦れ合う音。風が吹き抜けていく音。小鳥が鳴く音。音一つ一つに集中していくと、聞こえてくる音が徐々に増えてくる。

 水が流れる音。小動物が草花を踏みしめる音。話し声……ん? 話し声?


『ねぇねぇ聞いた?』

『何々?』

『なになに?』

『寒い山の鳥が、獣がみんな山を下りていったって言うんだ』

『ほんとう?』

『どこいったの?』

『それ知ってる。あったかい方に向かったんだって森の青い鳥に聞いた』

『青いのって、大きい水たまりの近くに住んでる鳥だ』

『寒いとこの獣なのに、なんであったかいとこ行くの?』

『おかしいね』

『へんだね』

『あったかいとこ、怖い生き物いっぱいいるとこ』

『燃やされちゃう』

『食べられちゃう』

『行っちゃ駄目なとこ』

『寒いところの獣は、僕らを食べないよ』

『紫の石を食べて生きてる』

『ごはんどうするのかな?』

『お腹すいた』

『ごはんごはん』

『あっちの美味しい実食べに行こう』

『そうしよう』

『そうしよう』


 ……なんなんだこれは? 鳥の囀りと共に聞こえてくる声に集中力を持って行かれてぐったりする。何だったんだ今の? 鳥の囀りと呼応するように会話が聞こえるんだが……いやまさかそんな、きっと気のせい気のせい。


『あ、うんちでちゃった』


 という言葉と共に、頭上を通り過ぎて行った鳥から落ちて来た黒い塊が俺の肩に落ちて来た。おい、鳥よ、それはないだろう?

 ていうか、今どうなっちゃってんの俺? 他にも小動物の声まで聞こえてくる気がする。集中して耳を傾けていないからぼんやりと聞こえてきている感じだが、下手をしたら咀嚼音まで聞こえて来るから頭がおかしくなりそう。

 ぐわんぐわんと、頭の中で音が共鳴する。さすがに頭がパンクしそうで、シュレンセ先生に助けを求めた。


「先生、あの……さすがに限界なんですけど、どうすれば止められますか?」

「止める? 今の大介くんの魔力は安定していますが。何か異変でも?」

「えっとそれが、なんか声が…痛て!」


 急に頭をはたかれて思わず声が出た。何今の。誰!?

 振り返ると、そこには何故かロイドが……え!? 対して仲良くもなかったのに最近ではジトっと見られる状態で、遂には叩かれる関係にまでなったと?

 驚いて固まっていたら、ロイドは踵を返して蒼実の隣に立つ。蒼実に至っては、ロイドの行動に驚きつつも何をしてるのと怒っていた。一方、言われている本人はしれっとしていて悪びれなし。何なのあいつ?

 ブランシェも目を丸くしているし、タイタンもリッターさんもいつも通り無言。7人中4人は感情表現が乏しいってどうなの。俺を含めて、随分と不愛想な集団だなぁおい。


 それにしても、俺は一体いつ奴を怒らせるようなことをしたんだろうかとぐるぐる考える。そこでふと気付いた。さっきまで聞こえていた声が、一切聞こえなくなっていたことに。

 一体どういうことなのかと考えるが、もしかしたら頭が真っ白になるほどの衝撃のおかげで聞こえなくなったのかもしれない。だとしたらロイドのファインプレーということになるが。

 あんなの、芸人のツッコミよりも痛くないし。頭が割れそうだったのを思えば全然マシだ。しかし、ロイドにそういう意図があったか分からないので感謝していいものか分からない。もしかしたら、知らぬ内に怒らせていた可能性だってない訳じゃないし。


 まぁ、一先ず。


「えっと、取り敢えず声は止まりました」


 目の前で起きた暴行に驚いていたシュレンセ先生に報告しておく。






 結局、あの後実はこういう状態になっていましたと説明したら、シュレンセ先生に大いに驚かれた。まぁそりゃあね、鳥の声が聞こえたとか誰だって驚きますよね。俺だって驚いている。

 どうしてそうなっていたんでしょうかと尋ねたところ、シュレンセ先生は深く悩んでしまい、答えてはくれなかった。ただ、明日からは別の方法を用いましょうとだけ。

 俺には合わないやり方だったのだろうか? いやでも、声が聞こえてきたのは今日が初めてだけど……そもそも、あの会話は何だったんだろう。とても重要なことを言っていた気もするが、脱糞にすべてを持って行かれた。

 夢現界であってもスヴェンを呼ぶのはハイリスクかもしれないが、聞いてみたい気がする。どうにかできないものか…


 因みに、そのことを簡単に友人達に話せば、皇凛が今度からは俺が殴り飛ばしてあげるねととんでもないことを言い出したので、瞑想じゃない方法になるから必要ないと説き伏せた。

 こいつはマジでやりかねないからな。今からちゃんと伝えておかないと大変なことになる。無防備な人間をマジで殴り飛ばすだろうから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ