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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第四章
97/141

12.

 日付も変わって、試験最終日。実地試験は自信がないものの、筆記問題ならば暗記すればいい、という気持ちで挑んだ試験もやっと終わりを迎える。日本式学期構成のため、入学四月の卒業三月という振り分けも、夢現界の欧米諸国方式に逆行する形なのはどうかと色々議論されているらしいが夏休みは夏休み。

 そう、もうすぐ夏休みだ。まぁ、まだ一か月も先のことだけどな。うちの学校は、期末テストを早く済ませたがるから。


 この試験さえ乗り越えれば、取り敢えず幻想界から足を遠ざけられる。ドゥルーシア学園としては中間テストや期末テスト、実力テストや小テスト等があるのだが、うちの学科だけ特殊なので一学期に一度しか評価に関わる試験がない。

 今回は特殊な状況になったせいもあって、中間テストに見せかけた実力テストが行えなかったこともあり、試験が一回に集約されてしまったのもあるのかもしれないが、その分範囲が膨大だったのはちょっと死ぬ。


 魔法術学、歴史学、薬学、救命学、神秘学、魔術実技、飛行実技、使い魔使役テストと、錬金術科は錬金術学がある。救命学は、読んで字の如く人命救助の方法を伝授するもので、サバイバル技術を教えてくれる時もある。

 これって知ってて得するんじゃないかと選択授業で選んだのだが、夢現界では役に立たない、幻想界でのみ使える魔法を行使したものだった。違うそうじゃない、俺が知りたいのは人工呼吸のやり方とかAEDの使い方なんだ…と思ったのは言うまでもない。

 この世界では恐らく、AED…自動体外式除細動器なんてものはないんだろうな。


 因みに神秘学とは、占術を学ぶ授業で、これがまた社会生活の中で一番役に立つと言われて選んだものの……ほとんどの時間をスピリチュアルな雰囲気の中過ごして終わるだけの、忍耐のいる授業だった。

 いや、確かに人相学とか手相とかタロット占いとか、ある種その系統を極めた職業の人にはとても役に立ちそうなものだったが、俺はいいかなぁって。まぁ、人相学は覚えておいて損はなさそうだけど、行動心理学とかの方が役に立ちそうだから、心理学を学びたいところ。


 とまぁ、大半の試験を終えた今、今日の試験は飛行実技と使い魔使役テストと面談だ。使い魔使役テストは免除されたので、実質飛行実技だけが課題となるのだが……俺、絶対無理な気がする。箒に乗るの、怖いんです。

 前回の授業の時でも箒から落ちそうになって、必死にしがみ付いてなんとか地面に戻った。忘れもしない、地に足が着くという安心安全感をより一層感じた出来事だったからな。

 やはり人生も、地に足の着いたものであるべきだ、うん。


 というわけでやりたくない。人間、得手不得手というものがある。不得意なものを克服しようとするのはいいと思うけど、飛行という、一歩間違えれば命がいくつあっても足りない技能って本当に必要?

 得意な人が、その才能を遺憾なく発揮していればいいと俺は思うんだが……どうか、必修科目から消えてくれますように。


 とか思っている間に俺の番が来た。死刑台に上る死刑囚の様な陰鬱な気持ちである。


「皆、箒は持ったな? それでは、飛行実技の試験に入る。支持の通りの動きをしろ!」


 横に6人がズラッと並んだ状態で、真ん中にいる俺。両サイドの方達に迷惑をかけないよう、気を付けなければ。

 いつも通りクウィンシーをシュレンセ先生に預け、箒に跨る。スタートの合図でまずは一メートルほど地面から浮かび上がり、まずはそれをキープしなければいけない。

 俺は思う。どうしてこのご時世に箒なんだ、と。箒なんて、座るところなくない? せめて自転車のサドルがあればまだしも、そんなものないんですけど。お尻とか股が、痛くなるじゃないか。本当に信じられない、この非効率的な移動手段。

 そろそろこの幻想界も、飛行機を導入するべきです。


 文句を言いつつ、なんとか高さをキープする。ここまではいい、ここまではなんとかなるんだが。

 上下逆さまになれという合図で、皆頭が下になる。血が、血が上る……足を箒に引っ掛けて、何とか俺もクリアする。今のところはな。

 そのままで3メートル進めと合図され、皆3メートル前に進む。何故、何故この体制のままなんだぁ。上下逆さまになった状態でどれだけ箒にしがみ付いていられるかを試しているのだろうけど、お願いだから重力のことを考えて。地面に引っ張られている力を考慮して。

 耐えろ、耐えるんだ俺の握力、脚力よ。重力に負けるなぁ。


 やっと、元に戻れと言われて元の体制に戻る。俺以外は息を切らせつつも平然としていたが、俺一人疲労困憊していた。どうしても付いて来れなければ棄権もできるので、無理ならば辞められる。当然、無理だったら速攻辞めるつもりだ。本当は、命さえ天秤に掛けられていなければ魔術学園だって辞めたいんだがな。

 って、なんか愚痴になってきた。


 この後の試験は、試験最大の癒しなんだから頑張ろうと必死に食い下がる。それが功を奏したのか、取り敢えず全部乗り切れた。

 もう、ホントこれ嫌い。






 飛行実技が終わり、待ちに待った使い魔使役テストが行われる。スヴェンを呼べない俺は、ドッグショーさながらの癒しイベントを見て疲労を回復させようと思う。大丈夫。この日のために、双眼鏡は持って来た。

 皆も同じなのか、双眼鏡だったり望遠鏡だったり、観客気分な人達がちらほら。これが試験であるとは俄かには信じられないムードである。

 隣に座っていた皇凛が、何故か不服そうにしていた。


「大介、準備いいね。試験に参加しないからってさ」

「別にいいだろ。何か問題があるか?」

「あるよ!! 俺は、大介の使い魔が見たかったのに!!」


 いや、幻想界で呼び出しちゃ駄目なんだからしょうがないだろ。それどころか、夢現界ですら呼んだら駄目みたいなんだぞ? そんな俺に残された手段は、この試験を傍観者として楽しむことだけ。

 そうかそうですかと適当に返事していたら、皇凛に揺さぶられる。やめろ、酔うから。限られた視界なのに揺さぶられたら、気持ち悪いだろ。


 少しぐらい楽しんだって構わないじゃないか。試験という憂鬱な時間の最後なんだぞ? 試験期間終了の晴れやかさと相まって、荒んだ心が穏やかになる。

 ランナーズハイ状態のおかしな思考回路になっている自覚はあるが、俺は疲れているんだ。色々あったからな。

 せめて現実逃避ぐらいさせてくれ。

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