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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第四章
96/141

11.

 謎多き皇凛のお父さんという言葉が頭を過りつつ、いつものように大所帯で帰路に着く。ところで、ここ最近の出来事で一つ気になることがあるのだが……時々、ロイドの視線を感じる。奴が蒼実以外に目を向けることなんてほぼほぼないのに、どうして?

 お世辞にも友人だとは言い難い関係なので、恐らく知り合いぐらいの認識しかされていないはず。正直、無言で見つめてくるタイタンの視線よりも得体が知れなくて恐ろしい。

 タイタンに至っては、ハンカチを返してくれたあの時以来態度は普通。カヴァリエーレさんが護衛の際にちょっかいを出して聞き出そうとするも、黙秘を貫く強靭な精神の持ち主ぶりだ。って、そういえばなんでハンカチを持っていたんだろう。聞くタイミングを失ってそのままなんだけど……まぁ、いいか。今更聞いてもねぇ。藪を突くことになったら嫌だし。


 初対面の時のあの反応や、その後のアルテミス先輩とのやり取りから、これは突っ込んじゃ駄目なやつだと学んだ。タイタンも何も言わないんだから、俺も何も言うまい。むしろ、言わないままでいてくれ。






 夢現界に戻って来て早々、ヴェルモントさんが現れた。いつもの如くSPな二人には何も言わない。関わるのが面倒だと顔に書いてある……ですよね。


「彼等は私が送りますので」

「あ、そう? じゃあ頼むね」

「何で毎回毎回、俺等は幻想界でだけの護衛なんだろうな?」


 普通じゃないからじゃない? とは言ってはいけないのだろうか。まぁ、真相は恐らく、ヴェルモントさんには夢現界でのお仕事があり、車での送迎が出来るから、だと思う。シュヴァリエさんについては分からないけど、彼も一日中の護衛は避けたいみたいだからだろう。送迎だけなら限られた時間だから、というのが理由な気がする。

 てことは、二人は相当暇な部類だってことだ。いや、護衛の仕事は暇だからやるってわけではないんだろうけど。幻想界での護衛は、彼等二人であることの方が圧倒的に多いんだよな。タッグを組むのは大変迷惑なので、できれば遠慮願いたいけども。


 じゃあねばいば~い、なカヴァリエーレさんと、また明日な、なカイザード。明日もかよ……やっぱり暇なんかな?



 送迎されている間、夢現界での暮らしが長いヴェルモントさんにスヴェンの言葉で生じた疑念を聞いてみることにした。


「夢現界では、どの程度の魔法の使用が許されているんですか?」

「急にどうしました? 使いたい魔法でもあるので?」

「えっと、実は……」


 スヴェンに言われた言葉をそのまま伝えると、一瞬思案した後、答えてくれた。


「基本的に、移動の魔法・老化の魔法・言語の魔法以外は使用を制限されています」


 移動の魔法とは、読んで字の如く移動手段として使われる魔法だ。カイザード辺りがクウィンシーの警戒に気付いて俺の所に来るまでに使っているのが恐らくそれ。夢現界においては、急に密入国してきた感じになるとは思うが、こっそり戻れば多分大丈夫なはず。

 老化の魔法とは、正蔵さんが使っている魔法のことだ。魔法族は老化が緩やかだから、どうしても夢現界で暮らしていくには魔法で老化現象を起こすしかない。若さを保ちたい人達には喉から手が出るほど羨ましがられそうな魔法族のこの特徴だが、実際は人より長く生きる代償の様なものなので、心中複雑なものがある。

 そして最後の言語の魔法とは、俺に施されている魔法のことだ。英語と幻想界語の二つを理解出来るように魔法を施されている。非常に便利ではあるものの、三つ以上の言語を理解できるように魔法を使うかどうかは理解力のキャパシティーを考慮されるので、基本的に二つまでとされている。

 以上の三つは、夢現界で生活する上で最低限必要なものとして考えられているのは知っているが、それ以外の魔法はどの程度制限されているのか。俺の家の部屋数は魔法で増やされているし、そもそもクウィンシーに魔法がかけられている。それを考えるに、限定的な使用が認められている感はあるが?


「決して他の魔法を使ってはいけないというわけではありませんが、一般人に気付かれない程度の小さなものであれば使用は許されています。ただし」

「ただし?」

「貴方の魔力は増大の一途を辿っています。今は彼がいるおかげで止められているようですが、このままでは小さな魔法ですら増大されて発動してしまうでしょう」


 ブランシェがいるから今は大丈夫だと、ヴェルモントさんは言う。つまり、あのブラックウルフの状況は正にそれだったということのようだ。もしも魔力をコントロールする術がないままならば、今後どうなってしまうのか。

 だからスヴェンは、ああ言ったのだろうか。小さな魔法の使用ですら、増幅されてしまうから? とすると、今はスヴェンとのコンタクトを取りようがないということだ。いやそれ以前に、スヴェンを呼ぶことすら危険だとするなら、このまま何もしなかったら俺……爆発でもしてしまうのでは?

 特撮とかでありがちな小爆発しか想像できなかったけど、そんな感じの爆発が脳裏を過る。身の危険を感じて血の気が引いてしまうのは当然だった。

 それを感じ取ったのか、ヴェルモントさんが補足してくれる。


「明日は確か、試験の後に面談がありますよね? その際に、シュレンセ様に魔法の訓練をお願いしてみてはどうでしょうか?」

「魔法の訓練ですか?」

「えぇ。貴方の場合は待ったなしの状況ですし、個別授業をお願いするのがいいでしょう」


 通常の授業だけでは修練に時間がかかりますから、とのこと。確かに、ブラックウルフを呼び出しただけであれだからな。それにしても個別授業かぁ……放課後の時間を使うってことだろう。慎介にまた白い目で見られる未来しか想像できない。

 個人授業だなんて、不安だなぁ。そもそも、どんなことをするものなんだろう。

 授業だと、大人数を一度に教える分、どうしても個別の熟練度にまで目を向けられなくなるから一般的な課題になるのは分かるんだけど、個別の授業だとどんなことをするんだろう。慎介に家事の負担を強いるからには、早くこの問題が解決してくれないと困る。


「因みになんですが、早期に魔力のコントロールを身に着ける訓練ともなると、どのようなものがあるんですか?」

「早期に、ですか。恐らく、魔力の流動のコントロールが主なる訓練になるのではないかと思われます。中でも、瞑想というのはいい訓練になるでしょう。日本人に馴染みのある言葉だと、座禅でしょうか。ただ一つ違うのは無になるだけではなく、その先の魔力の流動を感じ取る訓練が加わるところです」


 魔力の流動のコントロールとは、ヴァンパイア族以外の魔族が人型の姿になる際に使うだけじゃなかったのか。よくよく考えれば、魔法を使うには己の魔力を使う必要があるんだから、当然魔法族だって覚えて然るべきものなんだけど。

 それにしても、なんとも大変そうな訓練のように聞こえる。しかし、瞑想って……


「瞑想、座禅……無心になることが難しい場合は?」

「思考を止めるのが難しいのは分かりますが、訓練として一番いい方法です。それが無理ならば、前世の記憶でも思い出してみてはどうでしょう? 一歩間違えば君の記憶が消えてしまうかもしれませんが」

「……瞑想、頑張ります」


 記憶が消えるって、俺じゃなくなるってことですか。それはもう、瞑想するしかない気がする。

 でも、瞑想って難しいよなぁ。クウィンシーが居たんじゃ絶対に無理。というか、思考を止める術が分からない! 何も考えない時間って、逆に苦痛じゃない?

 眠いならまだしも、起きているのに無心になるのはかなり大変だ。できるのかなぁ俺。

 まぁ、まだそういう訓練になるとも限らないし、他の方法があるかもしれない。その望みに未来を託すとしよう。

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