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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第四章
94/141

9.

 あの後、収拾のつかない状況になりつつも、誤解している人達に事実を教えて一先ず解散した。解散って言っても、いつも通り『潤しの源泉』の前で。その間も、何故かフェニックス君は付いて来たんだけど、もう突っ込むのも面倒で放置した。

 しかし、今回のブラックウルフの件はどうなっているんだろう。今まで通りにしたつもりなのに、なんであんなマッチョなのが出てきてしまったんだか。

 魔力が安定してきた、というスヴェンの言葉通りになっているんだとして、それでどうして筋骨隆々なのが出てくることになるんだ? 魔力は安定してきたが、魔力量を調節できていない、ということなのか。もしそうだとしたら、あの詠唱中に魔力を使い過ぎたってことになる。

 思わず両手を見てみるが、自分のオーラは確認出来ないからよく分からない。ブランシェのおかげで魔力を安定させるだけでは他力本願過ぎるし、そろそろ自分自身でコントロールする術を身に着けなくては。


 ということで、試験期間中だからと家事を免除された機会を利用してスヴェンを部屋に呼んでみる。因みにクウィンシーは、ベッドの上で爆睡中だ。


「なんでしょうかある…ダイスケ」


 気を抜くと主呼びしそうになるんですけどこの人。まぁ、いいや。今日あったことをスヴェンに話してみる。

 一瞬思案顔になった後、彼は教えてくれた。


「黒炎の化身であるブラックウルフも、精霊の一種です。名付けによって召喚者の魔力を享受し、絶対的な服従関係となります。召喚者の能力如何で個体差の激しいことが難点ですが、ダイスケ程の魔力があれば、恐らくもっと強くなっていたかと」

「え? あれ以上に成長するの?」


 充分育ち切った体躯だったけど? てか、俺そんなに魔力を込めた自覚ないのに何故? やっぱり、詠唱を最後までしちゃったのが駄目だったのだろうか。黒炎を呼ぶイメージだけで良かったのかも。


「因みに、それらを複数従える者のことを召喚士と呼びますが、少なくとも今の時代に召喚士が存在しているという事例はありません」

「確かに、召喚士って言葉は聞いたことがないかも」


 召喚系の魔法使いはいないわけではないけど、精々一体を従えるのみだった気がする。そもそも使い魔がいるので、更にもう一体召喚する意味がないから召喚系の魔法には需要がない。何より、コントロールが難しいというのが最大の問題点だとされている。

 使い魔は、契約という形で縛られているので主に忠実な面があり、それは主の意識が失われていても継続されるものだけど、召喚獣はそうもいかない。召喚者の意識なしに存在できず、下手をすれば暴走することがあるからだ。

 取扱注意という面があるので、好き好んでそれを選ぶ魔法使いは少なかった。

 顔を上げたスヴェンは、更に続ける。


「前世界以前でしたら存在しました」


 へぇ、そうなんだ。一体どんな人達だったんだろう、と完全に本題から脱線したことを考えていたら、スヴェンにじぃっと見られた。な、何ですか?


「魔王でありながら聖獣を従え、複数の精霊と化身を従えた召喚士であり、悪逆無き世界を魔界に作り出した唯一無二の存在」


 あれ? なんだろう。聖獣を従えた魔王ってフレーズどこかで聞いた気が……


「ダークマター」

「!?」


 な、なんだ? 胸がざわざわする。心拍数が上がった気がした。聞いたことがない名前なのに、何故か知っているような気がする。いや、恐らくその名は……

 急に、言葉が出て来なくなる。俺の推測が正しければ、それはきっと”あの魔王”のことだ。


「ダークスターの……前の?」

「えぇ」


 やっぱり……歴史から抜け落ちた魔王。恐らく口言にのみ伝え聞くが故に、その名を記したものが存在しないんだろうとの結論に至っていたけど。まさかここに来てその名を知ることになるとは。

 何故、彼は知っているのだろう? 伝説として語られたとしても、名前を知らないからこそ記せなかったんだとばかり思っていたのに。

 もしかして、知っている、とか? 精霊っていつから存在するものなんだろう。もしも俺が想像するよりも長く生きているのならば、会ったことがあったりするのだろうか?


 この際だ。話題が出たから聞いてみたかったことを聞くべきかもしれない。


「どうしてその魔王は、亡くなったんだ?」

「魔界における覇権争いは熾烈なものです。天界とは違いますから」


 魔界とか天界とか、またまた壮大なワードが飛び出した。俺はこれ以上、ファンタジー情報を処理出来るだろうか。


「因みに、魔界と幻想界ってどういう関係だったんだ?」

「アンダーグラウンドと地上という言い方をすれば分かりやすいでしょう。地上は神の監視もあって住み難いため、悪魔達は神の監視のない地下世界を作って、そこから人間達を操ったり自ら進軍したりして地上を攻めて神と戦っていました」


 とすると、天界は逆に天にありそうなイメージだな。しかしスヴェン曰く、天界はもっと遠くに存在していて、ここには出兵という形で神が来ていたそうだ。

 うーむ……神様が、悪魔退治に出張で来てたってこと? つまり神様って、すぐ傍にはいないってことか? よく分からないけど、そういうことなのかなぁ。それよりも、人間を操ったり進軍したりって言葉が怖いんですけど。

 操れちゃうの? 確かに悪魔って、心を操れそうな雰囲気だけども。進軍は、まぁ、言葉の通りなんだろうけどな。


 つまり、ダークマターという魔王は、魔界に平穏を与えていたっていうことなんだろうか。果てはそれが、地上の安息だったのだろうけど……それを快く思わない悪魔がいた、ということなのか。

 すぐに、クーデターという言葉が思いつく。謀反を企てた者によって亡き者になったとして、何故歴史から消えることになったのか。


「書物に名前が載っていないのはなんでなんだ?」

「分かりません。書を読まないので」


 そうですね。書かれていない理由なんて知るはずないですよね。こればかりは、スヴェン以外に聞くしかないか? いや、名前が分かった以上、これ以上は探る必要はないかも?

 そうだ、あの夢についても聞いてみよう。


「俺が見ている夢についてなんだけど、あれって何なんだ? やっぱり、誰かの記憶なのか? 何時ぞや会った悪魔は、俺のことをアフィロディアと呼んだけど」

「ダイスケは特殊な能力があります。ただ、その根本的な能力がどういったものなのかは分かりません。それはダイスケ本人にしか知ることは出来ないでしょう。ただし、他者の記憶を見る能力というのは元来存在する能力だったと思います。それをダイスケも有しているかどうかは自分でご確認下さい」


 ご確認する術が分からない場合はどうすれば? まぁいいや、そういう能力がこの世に存在していることは分かったんだし。

 あの悪魔が俺のことをアフィロディアと呼び、夢の中で魔王が出て来たからからには、俺も少なからず悪魔だという証拠だ。後もう一つの夢の方は、光神アルメシアの名前が出て来たし、話の内容的に魔界だろう。それが一体誰の記憶だったのかが定かではないが、誰かの記憶を見ていたことは確かだ。

 夢が複数あると混乱してしまうなぁ……この”夢”が、将来の夢、みたいな明るい意味のものだったら良かったのに。悪夢だから始末に負えない。

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