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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第四章
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6.

 合同魔術試験が行われる直前になって戻ってきた皇凛の嬉々とした顔と、げっそりとした李先輩の顔。お前は鬼か。

 極端な彼等の表情に思わず溜息が漏れるが、今は彼等のことを考えている場合ではない。


 学年混同で行われる詠唱呪文の試験は、属性毎に行われる。物によっては、個別ではなく複数人で一つの魔法を使うというものもあるのだが、人数が増えれば増えるほど安定させるのが難しくなるのでやりたがる人はあまりいない。

 とはいえ魔法の出来次第で評価が上がるので、当然難しいものをやりたくなるのが人の常というもの。難易度よりも完成度が重要視されることを忘れ、高難易度のものをやろうとする輩というのは一定数いるもので……愚かにも、高難易度に挑んで失敗している人が散見される。


「彼等は馬鹿なのか?」


 思わず出てしまった言葉だったが、それを否定する人はいなかった。たった今目の前で繰り出そうとしていた魔法も、水の精霊との盟約が必要とされるもので、明らかに彼は盟約していない。これは、オーラを見る能力のおかげで分かったことだ。

 最近使いこなせるようになってきて、大変重宝している。

 因みにこの力を使って母さんを見ると、淡いピンクのオーラに太陽の黒点の様な黒い点が無数にある感じだった。それがずばり何を意味しているのかは分からないものの、料理を手伝おうとする度に黒点が大きくなるので、恐らく欠点を意味するのだろうと思われる。或いは、廃棄物を生み出す能力値が上昇していたのかもしれないが。


 ともかく彼は、オーラの色的に精霊と盟約出来ていない。盟約を交わせている人のオーラというものは、とても濃いものなのだ。

 闇や光以外なら余程のことがない限り盟約は出来るので、いずれはあの魔法も使いこなせただろうに……まさに時期尚早だった。実力に伴わない魔法を選んだことが、今回の敗因だろう。

 彼は悔しそうに地団駄を踏み、肩を怒らせながら戻って行く。隣の人物が彼を慰めていたけど、それに対してもいじけたように振り払う。

 魔法選びも試験の一つなので、己の能力に見合ったものを選べなかったことは自身のミスだ。誰も責められない。チャレンジ精神を持つことはいいことだが、試験当日に行うのはハイリスクすぎる。

 ただ彼だけは、他の愚か者とは違う意気込みだった。見たことのない顔であることから、恐らく新入生。無謀と知りつつ挑んだのだろうが、やり遂げなければいけないんだという強い信念が見えた気がした。

 オーラの色を見るに、才能はありそうなんだけど、残念だな。


 次に出てきた水属性の中にシャオファンがいた。彼は水柱を出現させ、それを凍らせて氷柱にする。実は水属性の中でも凍らせる魔法はとても難しい部類に入っていて、彼の歳でそれが出来るのは稀だ。

 同じ質量の物を別の物に変換することを得意とする錬金術では、物質変換は必須能力。冷やしたり温めたり、出来て当たり前でなければならない。柔らかいものを硬化させたり、逆もしかり、形ないものに形を与えるのも錬金術の能力である。

 とは言え、物質変換は物質を正確に理解し、現象や変換過程を完全再現しなければならないのでとても難しい。それを考えるに、そんな難しいことをいとも簡単にやってのけたシャオファンはさすがだと言わざるを得ないな。

 因みに李先輩も水属性なのだが……うん、まぁ、やり遂げてはいた。終始顔色が悪かったけど。


 次に行われたのは火属性。さっきからクウィンシーがソワソワして、後ろ足だけで立ったかと思ったらふらついたので俺の頭に前足を乗せて更に身を乗り出している。やめろやめてくれ、頭に爪が食い込むから!

 さすがファイヤードラゴン。火に目がないらしい。ふんすふんすと鼻息も荒いのだが、一体何に興奮しているんだかは謎。

 純一とサンダース先輩が、火の魔法をそれぞれ使っている様を大興奮で見つめるクウィンシーに痛めつけられる俺。どういうことだよ。


 続いて行われたのは風属性。俺の知り合いの風属性と言えばアルテミス先輩だったわけだが、当然ながらここにはいない。ただ、あの時俺を崖から突き落とした魔法は高等魔法なので、かなりの実力者だったことは確かだ。


 土属性の番になってシルヴィーが現れる。面倒くさいことに、彼は俺達の方に視線を寄こすと、ウィンクして見せた。気持ち悪い……

 ハロン組の錬金術専攻科だから、同じく錬金術専攻科で顔を合わせるロイドに突っかかるだけでなく、蒼実に気があるから困る。今の瞬間、ロイドのオーラが見ようとしなくても濃くなったんですけど? どう責任取ってくれんの?

 因みに、終わった直後に再びウィンクして来たわけだが、そんなことをしてもロイドを不機嫌にさせるだけで、蒼実に伝わることはない。憐れ。


 次に行われたのは緑属性で、皇凛とブランシェの番だ。学園開校以来初めての幻獣の生徒ということもあって、ブランシェへの注目度はかなりの物。そんな中皇凛は、無難に葉っぱでも出すのかなぁと思っていたのだが、怪物みたいなうねうね動く巨大食虫植物を出した。なんでだ。

 なんか、こう……怪獣映画で見たことあるなぁあんなの。どんどん進化して、怪物になっていく花だろアレ。

 皇凛のことは放って置くとして、ブランシェの方はと言うと……これまた某アニメ映画みたいに、いくつもの芽が寄り集まって大木になる様を見せてくれた。幻想的ではあるのだが、妙な既視感というものがあってだな。

 他の皆みたいに、おぉーとかすげーとか、声が漏れることはなかった。いや、凄いものを見せてもらったことには違いはないんだけど。いかんせん、もふもふな生き物が頭を過って感動どころではなかった。


 そして遂に、俺達の番になる。本来ならばもう一人、闇属性がいるはずなのだが。あの人は俺の命を狙った上に、アルテミス先輩と同じように学園に来ていない。今どこで何をしているのやら、ディクテリア先輩。別に会いたいわけではないけども。不気味だし。

 実技訓練の授業の時のように、闇属性と光属性は一緒に行われるのだが、その前にクウィンシーをシュレンセ先生に預けて置く。俺といる時は落ち着きがないのに、預けた途端大人しくなるのが解せない。

 俺とロイドと蒼実という並びで皆が見守る前に立つと、それぞれが披露し始める。

 ロイドは、さながら鎌を持っていない死神みたいな黒いマントの浮遊体を出した。これはかなりの高等魔法で、見た者に絶望感を与えるという魔法である……よく考えれば嫌な魔法だなおい。

 逆に蒼実は、講堂内を無数の光を散りばめて、その名の通りの輝く星々を生み出した。見た者に希望与える魔法である。なんとも両極端だなぁ。まぁ、恐らく事前に打ち合わせしていたんだろう。


 で、俺は何を披露するのかというと、既に決めてある。以前にも授業でもやったことのあるものの方がいいだろうと思い、黒炎の呪文にした。最終的にブラックウルフが出てくるんだろうけど、と思いながら呪文を唱えれば、何やら様子が……あれ?

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