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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第四章
89/141

4.

 まさか宮田先輩ってそういう系の人なのか? こんな、霊符だか護符だかを書けちゃうような。この世に陰陽師って本当にいるのかしかも身近にと感心していたら、宮田先輩曰くそうではないようで。


「俺はただ、書き方を知っているだけだよ? 素人が書いたものでも本人の気持ち次第でどうとでもなるものだし」


 病は気から、みたいな感じなのか? 確かに、気持ちが沈んでいたら何にも上手くいかないものだし。ただ、魂うんちゃらは俺自身の気合でどうにかなるレベルの話ではないけど。

 呪いではないなら、貰って置いても問題なさそうだな。しかしこれ、何に聞くおまじないなんだろう。


「この御札はどういう効力のあるものなんですか?」

「交通安全、無病息災かな? まぁ、身に着けておいて損はないから!」


 ただの紙だしな。いや、意味のある紙だけど。しかし、人の形のやつはどんな意味があるんだろう? それを聞く前に、宮田先輩に指摘される。


「ところで、後ろの方はどなた?」


 シュヴァリエさんを観察しながら。そう言えば、シュヴァリエさんに夢現界で護衛してもらうのは実は初めてのことで、ここに来るまで気配を殺していたため気付かなかったが人の姿のままだった。

 カイザードはもう面倒くさくなったと言ってハンカチになるのはやめたし、ヴェルモントさんはナチュラルすぎて誰も不思議がらなかったから良かったものの、この状況をどう説明すれば納得してもらえるのか。シュヴァリエさんって実直って感じだから嘘とか言わなそうだよねという危惧も、徒労に終わる。


「おや? シュヴァリエじゃないか!」


 現れたおじさまは、どこかで見覚えのあるお方だった。いやバッチリ覚えておりますけども。


「叔父さん!」


 ブランシェがそう呼ぶのだから確定である。確か、ドゥルーシア学園で生物を教えているという、アルフレート・ヴァルトさん。おぉブラン坊も居たのかい、と破顔する。

 いつも思うけど、俺以外の人達の顔が整い過ぎてて居たたまれない。出来ることなら俺を一人にして置いてもらいたいのだが。

 美形に囲まれ、否応にも注目を浴びる。縮こまって空気になるしか己を守れない。実際には守れてないけど。

 嫉妬の視線が突き刺さるのはいつものこと。俺のせいじゃないけど。そんなに羨ましいなら、俺と代われよと言いたい。


「ところでシュヴァリエ、もしかして教師になったのか? 君は教育者としての素質があるからと、前々から打診されていただろう?」

「断りました。ただ、非常勤講師で週に一度だけならば引き受けますと伝えています」

「じゃあ、同僚だな!!」

「まだ決まってはいません」


 いやもう決まったも同然だろうとヴァルトさん。そう言わしめるほど教育者向きだったんだなやはり。

 だとすると、魔術学園の教師になるということだろうか? 一応ドゥルーシア学園の教員として名が連なることになるんだろうけど。教師の中途採用だなんて、産休の教師がいない限りなさそうなのに凄いな。

 恐らく、学園の安全強化のための一環なんだろう。しかし、週に一度だけとは、条件が厳しい。

 俺の護衛にも度々しか現れないし、終始何事か考え込んでいる素振りである。護衛に乗り気じゃないというより、心ここにあらずって感じなんだよな。もしかしたら、それが教師を引き受けたくない理由と関係しているんだろうか。


「お前がブラン坊を指導するなら、百人力だろうな!」

「彼の父親が聞いたら卒倒するのでは?」


 卒倒というより憤怒しそう。幻獣である彼が、息子を魔族に託すとは考えにくいよ。ただ、俺達の担任はウェアウルフ族だけどな。しかもタイタンもウェアウルフ族。既にお怒りが沸点を越えている可能性すらある。

 だとしたら、そもそもブランシェを魔術学園に入れるはずがない。彼が駄々をこねたからと言って許可してくれるほど寛容でもない気がするし、一体どんな理由があるのだろう。


 今の魔法族は魔族との関りが強い。魔術学園も例外ではないのだ。彼ほどのプライドの高さなら当然避けて通りそうなものだが……何か、理由がある? うぅ~ん、謎がまた一つ増えたな。





 今日も今日とて色々あった。取り立てて大きな問題はなかったけど、試験の準備を済ませなくてはいけない。そのためにまず行うべきことと言えば……


「ちょっと聞きたいんだけど、スヴェンって人の姿が使い魔としての姿なのか? 動物の姿じゃなく?」

「はい」


 マジか。そうかぁ。ほんの少しの可能性に賭けていたんだが無理だったか。

 家に帰ってすぐに部屋にスヴェンを呼んで聞いてみたところ、即答。清々しいまでに簡潔なお答えだった。

 授業内容は使い魔がいる限り同じ課題を出されるので本人に確認する必要があったのだが、一縷の望みも絶たれた形となる。悪あがきで、仮の姿でもいいから小動物に成れないかと聞けば、出来ないことはないらしいが、本当に仮の姿としてということになるようだ。本人曰く、それ以前にその試験には出たくない様で。


「主…ダイスケがお望みならば従いますが、危険が増す恐れがあります」

「危険? どんな?」


 度々現れる主呼びは無視して、危険というワードに重点を置いて聞けば、幻想界ではスヴェンの存在自体が俺の身を危険に晒し兼ねないのだとか。どういうこと?


「スヴェンが傍にいると、何か問題があるのか? 以前、使い魔召喚の儀式の時も、スヴェンが狙われているからどうのと言われたけど」


 だとしたら、こうして夢現界でなら大丈夫だろうと思って呼び出していることもリスクが高いのだろうか。でもそれは、スヴェンが夢現界でなら会うことは可能ですって言ってたし。


「ダイスケの魔力はまだ不安定です。完全に魔力を取り戻したわけではないので、私の力も不完全なのです」


 不完全な使い魔を消すことが出来れば邪魔者がいなくなるので好都合なのでしょう、とのこと。想像以上に、ヤバいことになっている気がするのだが?

 消すっていうのもどうかと思うが、邪魔者がいなくなって好都合っていうのは、完全にアルテミス先輩とディクテリア先輩の裏切り案件のことで裏付けられた形だ。あの時スヴェンがいなかったら、いくら魔獣騎士団がいたとしても永遠にあの空間から逃げられなかっただろうから。

 ということは、不安定な魔力を安定させるのが先決ってことか。でもまずは、試験が最重要課題なんだけど。


 なんか、鶏が先か卵が先か問題だな。命が優先か学生の義務が先か……重みが違い過ぎて比較にもならない。先生に相談して、使い魔の試験を免除できないか聞いてみよう。

 って、今後授業で使い魔を使役することも控えなければならないということだろうか。もしかしたら、毎年7月に行われる使い魔対抗試合も無理かもしれない。

 アレ、何気に楽しみにしている行事の一つだったんだけどなぁ。観戦できればいいから、参加しなくてもいいんだけど。

 小さい生き物達がもふもふな体で押し負いへし合いしながらコロコロと転がりつつ対抗するという癒しイベントである。正直、これを嫌う人がいたらおかしい。

 たまに、動物虐待とか言われないかなとハラハラしつつも、ケガをするようなものでもないのでギリギリ許可されている。使い魔の運動会だと言えば、想像しやすいかもしれない。

 使い魔使役テストのトーナメント版みたいなもので、とにかく見ていて可愛いので癒される。ただ、当然ながら小動物のオンパレードなので、スヴェンは参加できないんだけど。

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