3.
当面の問題は、ドラゴン族の王宮へ行くことよりも試験だ。筆記試験であればなんとかなるが、実技となると不安。特に心配なのは、使い魔使役テストだ。俺の使い魔がスヴェンであることは既に先生に伝えているのでいいとしても、使役度を測るテストにどどーんとスヴェンを召喚するのは気が引ける。
テスト内容として、どれだけ言うことを聞くのかという初歩的なテストをするのだが、本来使い魔というのは小型動物の姿で召喚されるものであり、人の姿で現れるというものではない。もはや、言うことを聞くかどうかをテストするまでもなく聞いてくれるだろうことは明白なのだが、他の生徒が使い魔にジャンプしろだの目的のものを走って取って来いだの言っている傍らで同じことをスヴェンに要求するとか羞恥プレイにもほどがある。
如何せん、それを何の疑いもなくやってくれそうなのが怖いところなんだよな。スヴェンがジャンプ。スヴェンが借り物競争。その上、名前を呼ばれたら駆け寄ってくるとか、小型動物の姿だからほんわか見れるものもスヴェン相手だとパワハラに見えなくもない。
どうしたらいいんだろうと悩んでいたら、ブランシェにどうしたのと尋ねられてしまった。そういえば、途中編入組であるブランシェやタイタンは使い魔使役テストはどうするのだろう? 使い魔召喚の儀式をしていないけど。
「そういえばさ、二人は使い魔使役テストってどうするんだ? 使い魔はいるのか?」
「使い魔? 妖精さんのこと?」
「魔族は、ほとんどの者が使い魔を使役していないぞ」
つまり、いないってことか。ブランシェは、妖精さんとはお友達だけど森の中だけしか出て来てくれないからと言い、タイタンは、眷属ならいるけどと付け加える。眷属って、どの程度の意味で使っているのだろうか。使い魔の単語に匹敵する意味で言っているなら、従者とか配下って意味で言っていそうだな。
眷属って、親族とか同族という意味でもあるから、それ以外だと目下の者に対しても使われる。魔族が悪魔の眷属だというのも、後者の意味なわけだし。
二人共使い魔がいないということなら、テストは受けられないということか。俺の場合はスヴェンが現れるまではテスト免除だったけど、今はいるからなぁ。皆がドッグトレーナー並みに使い魔に指示している傍らで、俺等だけ異様な空気を放つことになってしまうのではないか?
免除に出来るかどうか、聞いてみようかなぁ。
「そういえば、君の使い魔って人の姿なんだっけ? 精霊の姿で現れるならまだしも、使い魔となった状態で人の姿を保てるなんて凄いねぇ」
「えぇ本当に、スヴェンは凄いですね」
「じゃなくて君が!」
「……はい?」
カヴァリエーレさん、急に会話に加わったかと思ったら何を言い出すのやら。しかも、蒼実まで頷く始末。予想外のところから援護が来たものだ。
「大介くんは凄いよ! 使い魔が人の姿をしているだなんて聞いたことがないもん!」
「やっぱないのか。いやでも、俺が凄いことにはならなくない?」
「何言ってるの、大介。使い魔召喚で使われるのは俺達自身の魔力じゃん!」
「あ」
そうだったな。魔力を消費して召喚するんだった。いやでも、スヴェンの場合は俺の魔力を消費して呼び出してはいないぞ? 気付いたら傍にいて、名前を付けたら成立してた感じだったし。そもそも魔力を取られた感じもなかったんだが? 子供の頃の記憶だから、その辺のことはよく覚えてはいないけど。
「見かけた時から人の姿だったけど?」
「でもきっと、実体化は出来ていなかったんじゃないかな?」
「アレ、実体じゃなかったのか?」
あんなにリアルだったのに? マジかぁと蒼実の回答に驚いていたら、皇凛に会ってみたいとはしゃがれた。いや無理。何度も断ってるけど、ホント無理。
「ケチケチするなよ大介ぇ~」
「別にケチケチしてるわけじゃないから。好奇心を剥き出しにするな」
「じゃあ、好奇心を引っ込めるからお願い!!」
「お願いしてる時点で好奇心だろ」
遂には、もう大介何言ってるか分かんないと皇凛ご乱心。だから、好奇心を引っ込めたなら諦めろよ!
ワーギャーワーギャー騒がせながら、いつもの如く皆に見守られながら幻想界を後にする。そこでカイザードとカヴァリエーレさんとは別れ、シュヴァリエさんを伴いながら特別クラスの校舎を出た。
いつものようにクウィンシーをネクタイピンに変え、本校舎の隣を通り過ぎようとした正にその時。
「じゃじゃ~ん!! 大ちゃんにいいものあげる!!」
角から急に出て来る宮田先輩。神出鬼没なのマジ勘弁して。しかも、こちらの拒否を聞く間も与えず紙切れを渡された。なんだこれはと目をやったところ……御札? え、ナニコレ? 呪いの御札!?
なんか知らないが赤い字でごちゃごちゃ書いてある。読める文字じゃないので何と書いてあるのか分からないけど、何かしらの御札であることは間違いない。しかも人の形に切り抜かれた御札まで……怖い!!
「要りません!!」
「遠慮しなくていいよ?」
「遠慮じゃなくて、呪われたくないので」
「呪いじゃないよ? 霊符だから安心して?」
それが何なのか知らないけど、まじないの類は信じないことにしているので結構です。いらないあげるの押し問答をしていたら、生徒会長の流石先輩が通り過ぎる……いや、過ぎなかった。
「どうしたんだい?」
「ちょっと聞いてよ~、大ちゃんが御札要らないって言うんだよ? 血文字じゃないのに、別に怖がらなくてもいいのにね?」
「怖いのは、意味の分からないものだからですよ!」
もう、アルテミス先輩の件で懲りている。二度と呪いの品は手元に置かない、とな。見た目は腕時計、中身は遠隔会話・盗聴・GPSの魔法具、その名はビェーザ。西洋的か東洋的かの違いだが、得体の知れないものであることは間違いない。
しかし流石先輩、ちょっと見せてと御札を一目見た途端、大丈夫だよと根拠のない太鼓判を押す。
「護符の類だから、持っていても問題はないと思うよ?」
「見て分かるんですか?」
「あぁ、僕もよく書いてもらうから」
「書いてもらう?」
「そう、彼に」
指し示す先には宮田先輩。え、先輩が書いたの? えへんだとうだと言わんばかりの宮田先輩の顔にほんの少しばかりイラっとするが、こういうのって神主さんとかが書いたものでなくてもご利益ってあるものなのか?
しかし意外だな。こんなものを書く才能があっただなんて……待てよ? そういえば宮田先輩の家って、安倍晴明所縁のなんちゃらがあったような?




