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まぁ細かいことは気にしないで、なカヴァリエーレさんに対し、いい加減言葉を慎むことを学べ、と冷静に諭すシュヴァリエさん。お怒りだったのは、あくまでも王族への不敬な態度に対してだけだった模様。
ベネゼフのおバカ発言に対して一々激昂するヴァルサザーと比べると、彼の冷静さがよく分かる。別にヴァルサザーを批判しているわけじゃない。同じ苦労を分かち合う者として、彼の心痛は痛いほどによく分かっているから。
ただ、さすがヴァンパイア騎士団の団員育成補佐官をしていただけはあるってことですよ。あと、アシュリー殿下の教育係もしていたんだっけ? 教育者としての素質があるんだなぁと感心する。
いっそのこと、アルスター先生と教員を交代しても誰も文句は言わないんじゃないかなぁと思うほどだ。アルスター先生自身が不満を漏らしそうだけど。
薬学の知識さえあればシュヴァリエさんに変わって欲しいほど、アルスター先生は教育者には向いていない。でも、なんだかんだ言っても薬学の知識だけは本物だったりする。話が脱線するのが玉に瑕だけど。
正直、薬学に縁のあるタイプには見えないのだが、なんで詳しいんだろうなぁ。ヴァンパイア貴族なので、社交界での教養程度の知識さえあれば将来安泰なはずなのに。
それに比べてと表現するには大変失礼だけど、ヴァンパイア族の血筋主義の中においては、シュヴァリエさん達の地位ってイレギュラーな気がする。貴族が相応の役職を与えられるのが当たり前だったヴァンパイア族にとって、貴族ではないのにヴァンパイア騎士団のトップに名を連ねるのは大変だっただろう。
騎士団に入団するだけなら簡単でも、団長だったり団員教育を任されるような地位を確立するには相当の努力が必要なはずだ。どういった経緯で彼等がヴァンパイアになったのかは分からないけど、ここまで来るには並々ならぬ努力があったはずである。
果たして彼等がいくつなのかは分からないが、ヴァルサザーより下でカイザードとタメ口であることから、150~300歳そこらかなぁと思われる……割と範囲が広かった。
幻想界の人達の年齢って、見た目だけじゃ分からないから本当に困る。魔族に至っては、種族によっては更に判断しにくいのだ。
ドラゴン族は他の魔族よりも長寿な人達が圧倒的に多いので、1000歳とか軽く超えている。何度となく魔法族との戦いが起こっていたため、長寿な者から自己犠牲の精神で戦場に赴き戦死していたというから痛ましいことだ。戦争さえなければ、どの種族よりも長生きしただろうと言われている。
そんな彼等の人型時の姿は、美しい造りという土台に年齢を重ねた美しさが加わった年齢詐称美形。魔法族のように多種多様な人種の容貌をしていない、一貫して西洋風の美形だ。もうちょっと詳しく表現しろよと言われても、彫りの深い顔立ちということぐらいしか言えない。
ウェアウルフ族は血筋よりも実力主義かつ好戦的。己の欲望が最優先なので、常に同種族間での縄張り争いが絶えない。マウントの取り合いは俺達のステータスだ、と自信満々に言い放ったタイタンの発言は小市民的俺の感性では理解できなかったが、人間社会でも普通に起こっている争いではある。
因みに、人狼に噛まれた人が人狼化するということは非常に稀なことで、余程深く噛まれた上に生き延びでもしない限り有り得ないことらしい。それはもう、死人を蘇らせるレベルの話だというので実質不可能だとのこと。
そんな彼等の人型時の姿は、多種多様な人種だ。主に、生存域の違いで容貌が変わっているらしいが、何故そうなってしまうのかは皆目変わらない。
ヴァンパイア族は完全血筋主義。王族の命令権が、拘束具となるほど強いのが特徴だ。寄り集まって出来た種族であるため人種は様々。何より、他の種族と違って己の血を分け与えることによって同種族化出来てしまうという特徴がある。ニンニク嫌いだとか鉄の杭で殺せるとか日光や聖水は天敵だとか、さまざまな憶測が囁かれるがそんなことはない。
夜の方が活動しやすいとはいえ日の光を浴びれないというわけではなく、遭遇する度に何故聖水を浴びせられるのかいささか疑問なのだという。鉄の杭は、鉄じゃなくても心臓を一突きされたら当然死ぬだろうとのことなので、別に鉄に拘っているわけではないそうだ。
そんな彼等の姿は、西洋系を中心としつつも人種は様々。ヴァンパイア同士での出生率の少なさが彼等に同種族獲得の手段をいくつも与えたのか、とにかく見た目年齢が若く、自由に容貌を変えられる。ほとんどの人が面倒だからとそのままの姿でいるのだそうだが、中には例外もいて、男のくせに女の格好を好んでいる人がいるのだそうだ。
それ、恐らくあの人のことだよな? 第一王子のレイモンド殿下のお目付け役だと言っていた、ヴァンパイア騎士団の西軍団長のシリル・バトンさん。初対面で女性だったのに、目の前で男になっちゃったからな。
例え見た目が変わって声も変わったとて、口調はわざわざ女性口調に変えていたんだろうから最高に震える。
魔法族は緩やかに年齢を重ねていくのに対して、魔族はある一定時期を過ぎるとほぼ容貌が止まるそうだが、長寿すぎるドラゴン族だけはそれも例外だ。相応に年を取っとるんじゃからよぼよぼでいいんじゃ、とはエンシェントの言葉であるが、本当にそれでいいのか?
神族に関しては謎が多いが、最近入手した情報から推測すると、一切見た目が変わらない説がある。校長先生や正蔵さんの話が本当ならば、彼等は『光闇の戦い』後の幻想界を見守ってきた人達で、それからずっと変わらず生きて、これからも生きて行くというのだから頭が下がる。外界との接触を避けたがるのは当たり前であろう。
幻獣の人型化に関しては、とても珍しい事例だから一概に容貌を語れない。
そもそも人型化は、こういう容貌になりたいと思ってなるようなものではないのだという。魔力を消費して人の姿になった際、既に決定しているものなのだそうだ。魔力の流動をコントロールすることによって、無意識化の状況でも人型化を固定できるということらしい。
ドラゴン族って巣を作って寝ているんだろうか、ベッドで寝ているんだろうかと常々疑問に思っていたのだが、人によりけりだが人型になってベッドで寝るのが今の主流なのだという。というのも、ドラゴンの姿のままで寝るには場所を取るからなんだってさ。そんな理由かよと思わずには居れないけど、言わんとすることは分かる。
昨今の状況は戦争知らずだ。生存域が広がったわけでもないのに生存確率が上がれば、当然増えていく一方になる。その状況を鑑みるに、己の姿を小さくして生活した方が楽になるのは当然だ。
魔法族との良好な関係も一因として、人型での生活の方がより暮らしやすいのは明白だしな。
クウィンシーはまだ幼いから人型を練習するのは先の話だということだったが、いずれは覚えさせないといけない。そうなれば、クウィンシーの教育を誰がしてくれるのだろうか? 出来ればカイザードではないことを願いたい。
だって、ねぇ?
「退屈過ぎてたまんねぇなぁ。なんか事件が起きればいいのに」
こんなことを口を尖らせながら言っちゃうような大人に、うちのクウィンシーは任せられません。




