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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第四章
86/141

1.

 劇的な出来事が起きてからというもの、俺の周りでは変化が起きていた。まず一つ目の変化は、授業中にも護衛が付いたこと。主にヴァンパイア族の方の護衛が、幻想界内では四六時中になってしまった。

 ドラゴン族の方は相変わらずカイザードだったりヴェルモントさんだったりだから四六時中ということではないものの、初対面の時に自らフリーターだと公言しちゃっていたせいかカヴァリエーレさん率がやたらと高い。

 一番厄介なのは、カイザードとカヴァリエーレさんがセットになった時である。あの二人は、日常に娯楽を求めてSPの格好を欠かさない。わざわざインカムという小道具まで仕込む念の入りようだ。迷惑すぎる。

 たまたまその姿を目撃したヴェルモントさんの彼等への侮蔑の視線は、一生忘れられないだろう。完全に彼等のおもちゃと化した俺の心労を溜め息一つで逃がし、憐れみの視線を送っただけで注意してくれなかった。お願いだからこいつらを止めて!!

 ウェアウルフ族もタイタンがいるからなのか、特別に護衛を寄越してくるようなこともなく何事もない日常が過ぎて行った。


 いや嘘、変化はあった。あの日以来、アルテミス先輩が姿を消したのだ。家にも帰っていないという。

 無事だろうか、と後輩として心配するぐらいには交流があった人の行方不明だ。気がかりでないわけがない。

 自分で決めたことだから心配しないで、のメモだけを残して行方を眩ませたアルテミス先輩のことを皆が心配している。勿論、俺の身に起きたことの一端を担っていた事実は取り消せないけど、何か事情があるのならばちゃんと言ってくれれば出来ることもあったかもしれないのに……殺させるのだけは勘弁だがな。

 ディクテリア先輩と組んでいる以上、俺殺害コースが濃厚だけど、アルテミス先輩的にはどの程度加担するつもりだったのだろう。本人を問い質したくとも、その本人がいないんじゃどうにも出来ない。

 未だにタイタンは、あの二人の話題が出た途端コロスを連呼するので、いい加減いない人のことは忘れろと諭し続けるのも面倒になってきた。


 幻想界は事変の後、慌ただしいままだ。新たな災害は起きてはいないが、魔法使いの往来が激しくなった。学園の警備を強化するため、隠された転移のルートを探りに土日祝日を使って行われているらしい。平日は幻想界中の警備を行っていたりと、休む間もなく働いていた。

 色々な人達の努力の結晶か、夢現界と幻想界を結ぶルートの安全を確立できたとの一報が届いたのはつい昨日のことである。『潤しの源泉』があるから大丈夫だとしても、再び同じことが起きた際に困るからと、ずっと試行錯誤をして人が通れるほどの安全を追及していたことが功を奏した形だった。

 あくまでも念のためのものとしてそのまま管理されることになったというが、果たして使う日がやって来るのかどうかは分からない。異世界を結ぶためには、精霊の協力が不可欠だ。『潤しの源泉』は水の精霊だったけどもう一つの道はどの精霊なのだろうか、という疑問には先生方も口を閉ざしている。まぁ、知らないものは答えられないんだろうけど。



 あんなにも色々あったのに、最近は平穏すぎて不気味だった。むしろ平穏すぎたからか、カイザードからの伝言でドラゴン族王宮への訪問を打診されてしまう。忙しかったせいで忘れていたけど、そういえば以前ヴァルサザーからそんな話を聞かされていたような気がする。


「それで、日取りはいつがいいんだ?」

「俺が決めていいんですか?」

「あぁ、そういう風に聞いてるぜ? だってお前、そろそろ試験があるだろ? こっちの都合に合わせてたら、最悪追試だぜ?」

「なるほど」


 俺がテストでいい点が取れない言い訳になってくれるわけか。だからと言って追試は免れないとは、確かに最悪だな。是非とも試験に影響のない所で決めたいかも。

 とはいえ、ドラゴン族の王宮だろう? 当然ドラゴン王に会いに行くわけで、一般人の、ましてやこんな未熟な魔法使い相手に下手に出る必要性がどこにあるのか。

 まさか、行くのはちょっと、と遠慮したら取り止めてくれるとでも言うのだろうか? そんなことはないんだろう? 俺に拒否権がない以上、いつになっても俺に降りかかる精神的負担は変わらないような気がするのだが。まぁ、さすがに試験中はやめてほしいけどな。


「試験期間以外ならいつでもいいです」

「そうか。じゃあ俺が決めるな?」


 いつがいいかなぁと、指折り数えて考える素振り。しかしどうも、考えるふりだけをしている気がしてならない。証拠に、もう面倒くせぇから二週間後でいいか、と最終的に投げやがった。別にいいけど。

 もうその週の土曜日とかでいいよな、とサクッと決めたカイザードに反論しない。頃合いとしては確かに丁度よかったから。

 ただその後で、ああそれと、とついでのように言われた言葉に驚愕する。


「なんか、ヴァンパイア王もウェアウルフ王も来るらしいぜ? 珍しいよな、御三方が魔族領内で一堂に会すの」


 なん、だって!?


「ヴァンパイア王は、ウェアウルフ王に呼ばれたからじゃないかな? あの方は基本無関心だから」

「クールだもんなぁ、お前んとこの王様は」

「威厳が服着て歩いているような御方だから」


 カイザードの軽口にも、平然と受け答えするカヴァリエーレさん。自分のところの王様のことをそんなラフに表現しちゃっても大丈夫なわけ? 威厳が服着て歩いているなら、恐らく駄目なんじゃないか。

 というか何? 魔族三大種族の王様と会うの? 以前、エンシェントの用事に付き合ってお目にかかって以来のご対面ってこと!? 荷が重い、重すぎる……

 愕然とする目の前で、更に軽口をたたく彼等。まぁ、いないところだからこそ言えることなのかもなぁなんて思っていたら……どなたかの存在を視界に捉えてしまう。これは、非常にヤバいやつ。


「カヴァリエーレ、王族への忠義をどこで捨てて来たのだ? 死にたいのか?」

「あはは~、シュヴァリエじゃないか。久しぶり~」


 ちょっ、その重低音の威圧相手にお花を飛ばさんばかりにチャラく返すな。マジで流血沙汰を目撃しかねないだろ!?

 シュヴァリエさんの殺意は、周囲の空気をどんどん凍らせていく。これは決して比喩でもなんでもなく、マジに窓に霜が降りていてだな!

 なんで体現するほどに空気を凍らせることが出来るのか、その疑問を思いがけずカイザードが教えてくれる形となった。


「おいおい、無意識に魔法を使わないでくれよな。いくら水属性の中でも氷結系の魔法が得意だからってよぉ。凍えちまうだろ?」


 ドラゴンは寒いの苦手なんだから、と震えるジェスチャーをして見せる。まぁ確かに、ドラゴンの大部分は寒いのは苦手だけど、全部が全部ってわけじゃなかったような。ただ、さっきからクウィンシーが俺のマントの中で暖を取っているのは確かである。

 言われてハッとしたシュヴァリエさんは、すまないと素直に謝罪した。というか、なんで詠唱してないのに魔法が使えるんだろう。


「シュヴァリエは、激昂した時よりも冷淡に怒ってる時の方が魔力が溢れちゃうからねぇ。さすが、冷氷の貴公子!!」

「私をからかっているのは分かっているぞ、カヴァリエーレ」


 一介のヴァンパイアに過ぎない私に貴公子という名称が付くわけはないだろう、とお怒りだ。本当にこれ以上刺激しないでもらいたいんだが。そして俺は今すぐ家に帰りたいんだが?

 授業も終わってやっと帰れるって時間になったのに、なんで無関係な争いに巻き込まれなきゃならないんだ。帰らせてくれ!!

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