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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第三章
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弐拾玖

 頭が痛い。辺りを見渡して、今の状態をぼうっとする頭で理解する。ベッドに横たわっている……ということは、また倒れたのか。でも、ここは何処だろう?

 近くに人の気配を感じてそちらを見ると、暖炉の様子を見ていた人影がこちらを向く。


「大介くん、目が覚めましたか?」

「シュレンセ先生」


 答えるように名前を呼ぶと、にっこり微笑んでくれた。その腕の中ではクウィンシーが、心地良さそうに眠っている。

 起き上がろうとしたのを制して、横になったままの俺に教えてくれる。


「熱があるので、辛いでしょう。ここは私の家なので、安心して眠って下さいね」


 シュレンセ先生の家? 割とこじんまりとした造りだなぁと思ったが、よく見ると暖炉のある左側に対して右側には部屋を区切る大きなカーテンが吊るされていた。

 部屋の造りとしておかしい気がしたのだが、どうもその違和感は正しかったようである。何故なら、カーテンを開いてラクター先生が現れた時に見えた向こう側の壁が遠くに見えたから。本当はとても広い部屋なんですね。そうなんですね?


「目が覚めたか。夕飯を作ってあるんだが、食べられそうか?」

「はい」


 上体を起こすのを手伝ってくれて、ベッドを降りようとしたのをラクター先生に止められる。そのままベッドで食べればいいと言われたけども、どうしよう、とラクター先生とシュレンセ先生を見比べながら狼狽えていたら、構いませんよとシュレンセ先生に了承を頂く。

 そうは言っても、ベッドに居ながらにしてご飯を食べるという習慣がなくて躊躇うのだが、目の前にテーブルとご飯が出現して何も言えなくなった。魔法って、本当に便利ですねぇ。

 有無を言わさぬ感じで用意されたご飯は、なんとおかゆだった。幻想界におかゆの文化があるのかぁと驚いたものだが、あえて日本人の食文化に合わせて用意してくれたものだったのと知ることになる。


「どうだ、口に合うか? 日本では、米を軟らかく煮て塩で味付けしたものを食べるのだろう?」

「はい、美味しいです。ありがとうございます」

「梅干しなるものは用意出来なかったが、おかずはどうする? 流石にそれだけでは栄養が偏るだろう?」

「いえ、大丈夫です。熱が下がったらちゃんと栄養のあるものを食べるので」


 確かに、日本人として当たり前のように白がゆを食べているが栄養的には全然足りてないよな。あくまで食べることが重要という意味で普通に病気の際に食べて来たけども。

 それにしても、よく日本のお米を用意出来たなぁと思う。タイ米みたいに細長くないその形状は、明らかに食べ慣れたお米のそれだった。


「お薬の方に滋養のあるものを入れましょうかね。とても苦くなってしまいますが」

「大丈夫です。ありがとうございます」


 申し訳なさそうにシュレンセ先生は言っていたけど、ベッドで寝かせて頂いた上にご飯も食べさせて貰い、その上薬まで調合してくれたのに文句なんてあるわけがない。むしろ有難すぎて申し訳ないくらいだ。

 あの後どうなったのか気になったので聞いてみたところ、倒れた俺を学園の医務室に連れて行くことが安全か分からないため、シュレンセ先生がお家で診てくれるということになったのだそうだ。医学の知識があるわけではないとはいえ博識だし、同じ闇属性なので何かあった際に対応できるという判断からだった。

 そういえば、ブランシェやタイタンはどうしたんだろう? 家に帰ったのか? 流石に二人もシュレンセ先生の家へ、とはならなかっただろうと思ったのだが、どうやら別室にいるらしい。夜も遅いからと、もう寝て貰っているのだとか。

 ただ、タイタンは割と夜遅くまで起きているはずなので、もしかしたらまだ起きているかもしれないな。


 雑談しながら食べ終えた直後に出されたお薬は、コップの中に焦げ茶色の液体が入っていて、傍には何故か砂糖漬けのフルーツが置いてあった。色味的に漢方か何かっぽいが、前にシロップタイプで飲んだことがあるから、苦い漢方には少しだけ耐性があるし問題ないだろう……レベルが違った! そして臭い!!

 なんとか飲み込みはしたが、これはせんぶり茶ですかと聞きたくなるぐらい苦かった。すぐに砂糖漬けのフルーツを食べていなければ、むせていたかもしれない。シュールストレミングとまでは言わないものの、なんて強烈な臭いだ。涙が出そう。

 いや、せんぶり茶もシュールストレミングも実際に口にしたことはないけどな。


 漢方とは総じて苦いものだし、残りを飲むのは勇気がいったが頑張った。どうやら、この幻想界では薬の苦みは誤魔化さずそのままにしておくのが普通らしい。だから子供には不評なのだとか。そりゃあなぁ、これじゃあなぁ。

 だって、異臭で目覚めたクウィンシーの苦悶の表情ったらなかったもん。飲んでないのにまるで飲んでいたかのように逃げていった。そういえば、嗅覚は犬以上でしたよね。可哀相に……

 周りの臭いは何とか消してもらえたものの、内から滲み出る臭いはどうにも出来ない。その臭いだけで目が回りそう。薬を飲んでから30分もすれば、臭い消しのシロップを飲んでもいいと言われて安心したけど、それまでこの臭いと向き合わなければならないとは本当に苦痛だ。


 苦痛の時間も終えれば、熱も下がって体も軽くなる。即効性のある薬だとは聞いていたけど、こんなにもすぐに体調が戻るとは思わなかった。もしもこの薬を夢現界で売ることが出来れば、億万長者も夢じゃないとか思ってしまう。勿論、幻想界の物を夢現界で販売することは禁止なので無理だけど。

 いつもシュレンセ先生から分けて貰っている軟膏も、クウィンシーに爪を立てられて傷が出来た際に塗るものなのだが即効性があるのですぐに治る。本当に瞬く間に治ってしまうので、これを売れればいい商売になること間違いなしだと何度も思ったが、逆に劇的に治りすぎて怪しいので胡散臭がられる可能性もある。

 そもそも、治り方が皮膚の再生速度を遥かに超えているから、科学的根拠で成り立つ世界では絶対に使っちゃ駄目なヤツなんだよな。美容業界や医療機関が黙っていなさそうな画期的なものではあるけども、魔法的過ぎて駄目っていう悲しいサガなのである。

 これをお金に見立てちゃ駄目なのは分かってはいるけど、そういう観点から見てしまうとお金に見えてしまう不思議。まぁ、俺は平凡に生きたいから、変に注目を浴びかねないそういう分野には手を出したくないけどな……平凡は、果たしてお金で買えるものだったか? もしお金を出したら買えるものなら、俺の人生と平凡な人の人生を取り換えさせて欲しい。


 って、無理か。だってクウィンシーが、臭いが消えた途端に遊ぼうって言いながら飛び掛かって来たもんな。ドラゴンが、顔に飛び掛かって来るんだぞ? オマケに爪を立ててな。

 日に日にひっかき傷の箇所が増えていく。軟膏を塗れば一発で治るとはいえ、痛みがないわけではない。ドラゴンに懐かれちゃった人生を代わりに体験したい方募集。米印で小さく、ひっかき傷及び物損をいとわない方限定で、と書いて。

 そもそも、クウィンシーが懐いてるのが俺なので、どっちにしても俺以外は無理なんだけど。


「ダイスケェ~」

「はいはい」


 室内なんだから暴れるなよと諭しながら、まるで猫と遊ぶみたいに親指サイズのネズミのぬいぐるみを上に飛ばす。それを飛翔なしに飛び上がってキャッチする様は、正に猫。知能の高いドラゴンに対して行う遊びとはとても思えない遊びでごめんなさい、ヴァルサザー。何故か、ドラゴン族というより、ヴァルサザーに謝ってしまいたくなった。

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