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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第三章
74/141

拾玖

 それからのことは目まぐるしくて、何から説明すればいいのか分からないが。

 地面が割れるという、魔族との戦いの際にも起きなかった自然災害に見舞われたことについて後に知ることになったのは、このような現象が他でも起きたということだ。魔族の地にある活火山のガァルバーナ火山がほぼ同時刻に大噴火したそうで、噴石やら溶岩やらが周辺へと迫ったものの、魔法族や魔族双方の協力で難を逃れたという。


 その他にも各地で自然災害が起きたことで、幻想界の人々は大きな衝撃を受けることになった。

 精霊の存在を信じる幻想界において、自然は精霊そのもの。精霊に何かが起きて世界で同時に災害が起きたのだろうと推測されたが、その原因が分からない。何故なら、使い魔達も精霊達も、この事に関して沈黙したから。

 精霊達ならばいざ知らず、主に忠実な使い魔達ですら語らないことはあり得ないこと。困惑するのは当然のことだった。

 結局原因を特定することは難しく、被害状況と事態の収拾に追われることになる。



 因みに俺はというと、その後すぐに学園へと戻ることになった。幻想界の中ではどこよりも安全だからという意味らしい。

 こんな状況なのにもかかわらず、翌日には普通に授業が行われるというのだから驚かされる。まぁ、状況が状況なだけに授業内容はかなり簡略化され、かつ実用的なものを主に行う傾向に変えたらしいけど。少しでも早く、俺達に身を護る方法を身に着けさせようという意図なのだろう。


 只今、授業再開の初日の初授業なのだが……俺のお隣にはブランシェとタイタン。さん付けで呼んでいたら、呼び捨てでいいと言われたため呼び捨てだ。

 で、この状況で俺は授業を受けるというのか? てか、タイタンは一体いくつなんだ。俺達と授業を受けるというのだから、同学年辺りってことか?


 授業が普通に始まってしまったので、疑問を投げかけることも出来なくなる。というか、今更感があって聞くに聞けない。

 ユニコーン、ドラゴン、ウェアウルフに囲まれつつ、校長先生の魔法術学が始まる。


「君達も知っての通り、魔法には7つの属性がある。これは、我々の魂そのものに刻まれたもので、生まれながらに決められている。では何故、7つもあるのか。分かるかね?」


 今更の様な授業な気がする。何故ならこの授業は、一年生の時に習うことだから。どうして今更またこんなことをと思っていると、生徒の1人が発言した。


「精霊の属性と相互関係にあるからです」


 彼が述べた通り、精霊の属性と相まって魂の属性も決められていると教わった。つまり、この世には本来7つの属性があるのだということだ。

 しかし校長先生は、顔を横に振った。違うのだと安易に示している。そんな訳がない。だって、そうなのだと教えてくれたのは他でもない校長先生なのだから。


「実は君達には分かりやすいように、そう教えている。しかしそうではないのだ」


 教室内がざわついた。今まで教えられていたことが違う? では、何だというのだろう。

 皆が固唾を呑んで見守っていると、校長先生が俺達の方を見た。正確には、タイタンを。彼は何を意味するのか分かっているかのように、席を立って校長先生の隣に立った。

 この状況で彼が校長先生の所へ行く意味が何かは分からないが、俺が知る限り無属性であるという事実が関係しているのではないかと推測する。そしてその予感は的中した。


「皆も聞いているだろう。彼はウェアウルフ族で、タイタン・アックス・ウルフくんだ」


 授業が始まる前から皆の視線を集めていた彼を校長先生は皆に紹介する。本来ならばアイガン先生がやるべきことなんだけど、授業の簡略化のためホームルームも無くなっているので、彼を皆の前で紹介するのは実はこれが最初だ。

 因みに家にホームセステイすることになった際に自己紹介された時に聞いたことだが、ウェアウルフ族には苗字はないんだという。だけど、人と話す際に便宜上必要になる場合のみウルフという苗字を使うのだそうだ。


 だからかぁと思い当たるのは、アイガン先生の自己紹介時のこと。アイガン・ウルフだと名乗ったので本来ならばウルフ先生と呼ぶべきところを何故か先生はアイガン先生と呼べと言って来たのだ。教師を名字で呼ぶのは生徒にとっては普通のことのはずなのだが、何故名前の方で呼ばせるのだろうかと疑問に思い続けていたことが今解決する。

 単に親近感を持たせるためなのかと思っていたが、そうではなかったらしい。


 じゃあ何故、タイタンにはミドルネームがあるのかというと、タイタンというのは親が付けてくれた名前なのだが、アックスというのはウェアウルフ王がくれた名前なのだという。

 でもそうならば、どうしてウェアウルフ王はそっちで呼ばないんだろう。あのウェアウルフ族の王宮に行った時もタイタンと呼んでいたし。まぁ、考えても俺には分からないことだけど。



 ともかく、彼を紹介した校長先生の意図が気になる。そして、教わった属性と精霊の関係性の何が違うと言うのかが。


「彼には属性がない。所謂無属性というものだ」


 再びざわつく教室内。既に知っていた俺やブランシェは、特に何の反応も返さない。それが返って、皆に真実味を与えたようだ。

 次に何を言うのだろうと、視線が校長先生とタイタンに向く。中には、無属性って何だという疑問まで聞こえてくるので、無属性を知っている者と知らない者がいるようだ。

 まぁ、俺も知らなかった人間の一人だけど。


「無属性とは、全ての属性を宿しているということであり、またそのどれでもないという意味でもある。そしてこれが意味するものは、魂の魔力と精霊との関係が相互であるという概念が間違っていることを意味する」


 今までにない衝撃だった。それは魔法のあり方すらも変えてしまう事実だった。

 魂にはそもそも魔力が備わっていて、その性質は属性で別けられている。魔力の大小はあれど、全ての人が等しく有しているものだと教わって来たのに……相互関係がない。とするならば、どうして属性という方法で分類しているのだろう。

 そしてそれが事実ならば、使い魔や精霊との関係性は一体どういうことになるのだろうか。


「驚いたことだろう。私が1年前に君達に教えたことだからね。嘘を教えてしまい申し訳ない。ただ真実はあまりにも複雑で、若い君達には理解できないだろうと、本来ならばもう少し年齢が上がるまでは明かさない真実なのだよ」


 つまり、いずれは事実を教えて貰えていたということか。だけど状況がそれを許さなくなった。早く伝えなければならなくなったのだ。

 各地で起きた自然災害を見れば、その深刻さは明らかである。相互であるならば、この状況を語らない精霊達の反応に疑念が生じる。確かに、今話さなければならないことのようだ。


「精霊と我々の関係を簡単に言い表すならば、信頼関係を結ぶ友達だと言えるだろう。ただし、それは精霊達側に危害が及ばない場合に限る。彼等に危害が及べば、彼等はすぐにでも我々を見限れる。信頼を勝ち得るかどうかが、我々の課題なのだよ」


 信頼を保ち続けなければ、精霊達は俺達を見捨てることも辞さない。例え使い魔とはいえ、一生を捧げてくれる相手だという期待を持ちすぎて傍若無人に振る舞えば、反旗を翻される可能性があるということではないか。

 確かに、そんな不安を抱きながら使い魔を使役することなど、若い俺達には無理かもしれない。だって、もし万が一自分の身に危険が及んだとしても、使い魔が必ずしも助けてくれるとは限らないのだ。

 勿論ながら全力は尽くしてくれるだろうけど……どこまで盾となってくれるのか、皆目分からない。


 皆の不安が最高潮に達しかけた時、意外なことにタイタンが口を開いた。


「怯えることはない。彼等は君達の傍にありたいと思ったからこそ傍にいるのだから。君達が彼等を友と思っている以上に、彼等は君達を友と思っている。君達を幼い頃から傍で見ていたのだから」


 友として傍にあり続けたいと思わない限り、契約に縛られることを知りながら使い魔になるわけがないとタイタンは言った。

 確かに、契約は契約だ。書類があるわけじゃないとはいえ、魂と魂を見えない糸で繋いだような関係であるはずだ。その情報に嘘がなければ、だけど。


 使い魔が、俺達の心の機微に敏感なのはそういうことなのかと納得がいく。幼い頃から見ているから、どんな時でも寄り添ってくれるのか。

 だとするなら、俺の使い魔は一体何処にいるのだろう。というか、そもそもまだ使い魔としての契約をしていない気がするので、この場合は使い魔というよりも闇の精霊というべきなのだろうか。


「もう一つ、私がついていた嘘で気になることがあるだろう。そう、何故属性は7つなのかということだ」


 あ、そう言えばそれもあった。すっかり、使い魔と精霊のことに頭が行ってしまい忘れていた。皆もホッと胸を撫で下ろせたことで満足して、そっちの話なんてすっかり抜け落ちていた顔をしている。


「本来は四大元素と呼ばれる、火・土・水・風があるのが普通だが、何故かそこに緑が存在することに疑問はないかね?」


 と言われでも、魔法の知識など皆無な俺にしてみればこうですって教えられたことがすべてだから、常識的に見てどうなのかと問われてもそもそもの常識が分からない。現に、そういうものだと思って生きて来た彼等からすれば、疑問にも思わないことだろう。

 まぁ確かに、ファンタジーものに疎い俺でも、四大元素云々の話は聞いたことはある。知識として知っているということではないけど。


「前世界までは、この四大元素がすべてだった。だけど、創世された後のこの世界では、緑も光も闇も存在していた。その理由までは私にも分からないが、どうやらそれは我々の魂と深く関わっているらしい」


 その理由を突き止めることが出来たら、ローディウス賞も夢ではないのだがねと校長先生は言った。ローディウス賞って確か、幻想界におけるノーベル賞みたいなやつだった気がする。

 とかいうマメ知識は置いといて、前世界というのは魔王ダークスター時代の世界のことだ。つまり、ダークスターの前の魔王の時代のことでもある。下手をすればそれよりも前の世代の話ともなるわけで……そんなに前から存在した概念が覆されることって、普通あるのだろうか?

 考えれば考えるほど謎が深まるようで、むしろ考えたところで分からない。


 とても重要な気付きだったような気もするが、驚くような事実を知ったことで疲れてしまい、これ以上は許容量オーバーだ。これ以上の驚きは、正直勘弁願いたいところである。

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