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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第三章
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 そうは問屋が卸さねぇ、ですよね。そう都合よく夢が見られるわけがなかったわけで……誠に勝手ながら、肩透かしを食らった気分であります。そもそもこっちの都合も関係なく見ていたわけだから、心構えが出来たからって都合よく見られるとは限らない。

 それに関してはただ、仕方がないと諦めることにして、もう一つの危惧すべき問題の方はどうなったかというと。


 まず、未だ『潤しの源泉』が消失した状態ではあるが、夢現界との情報交換は出来ているらしい。今の所向こう側の状況には何の変化もなく、ブランシェも無事だとか。俺の家族にも事情説明を済ませてくれているようで、取りあえずは良かった良かったと胸を撫で下ろしたのだが。

 もう一つ伝言があると、伝達担当の方が話してくれたのだが、その内容は……

 いや、うん。言われてみれば、なんであの人なかなか現れないんだろうって、別に自意識過剰じゃないけど思っていた。こういう時、頼んでもいないのに何処からともなく現れるあの人が、いくら経っても一向に現れないんだから何でだろうって疑問には思っていたよ。

 でも、さぁ。何も、こんな形で出張って来なくてもいいんじゃ?


 僕がいなくて不安だろうけどとか、怖い思いをした君の傍にいてあげられないなんて恋人失格だねとか……何、伝達担当の人を介して事実無根な人間関係を吹聴しまくってくれてんだアルテミス先輩!! 伝達担当の人も、恋人と引き離されて可哀相に……みたいな顔しなくていいから! ホントに、そんな事実はないんです!!

 それを聞かされた時の精神苦痛が一体どれほどのものだったか……本気で、拷問だと思った。

 誰かあの人を止めてくれないか? 割と本気で殴りたいんだが。

 しかし、報復の方が怖くて出来そうにもないけど。


 幻想界と夢現界を繋ぐ道の整備は着実に進んでいるようだ。このままでいくと数日中には開通出来るのではないかという事ではあるが、思いのほか安全確認に時間がかかっているみたいで、もう少し時間がかかる可能性もあるらしい。俺としては家の事が心配だし早く帰りたいんだけど、安全確認が出来ないと無理だという気持ちも分からないでもないから我慢するしかなかった。

 今か今かと開通の知らせだけを待っていることしか出来ない俺は、医務室に軟禁状態だったりする。力のコントロールをしてくれるはずのブランシェがいないから、魔力が暴走しないようにと行動を制限されているためだ。

 先生か誰か、傍にいてくれるのならばいいんだけど、先生方も出払っている上に魔族さん方も忙しいらしく、日がな一日、友人達が訪ねてくる以外での人との接触は、夕方にエンシェントの所へ伺うぐらいしか出来ていなかったりする。つまり、最強につまらない毎日を過ごしている真っ最中というわけだ。



 夢のことを調べたくても出来ないから、生徒達がいない以上授業も行われない今、俺の代わりに友人達が人物名鑑やら文献を読み漁って探してくれていた。しかし人物名鑑って……そのタイトル聞いた瞬間、なにそれタレント名鑑かよと思っちゃったけど、どうせ純一以外には通じないし口にはしなかった。

 今日も、いつものように分厚い書籍をいくつも抱えて尋ねに来てくれた友人達と一緒に読んでいると、蒼実が何か思いついたかのように声を上げる。


「ねぇ。思ったんだけど、もしかしたら、幻文書図書館にならあるんじゃない?」


 幻文書図書館という聞いたこともない図書館の名前。夢現界出身の俺にはなんのことやらと首を傾げるしかないのだが、俺とは裏腹に、皇凛を始めとする幻想界出身者達は、あぁなるほどと納得している様子で頷いた。


「あぁ、そうだよね! あそこには、それこそ世界中から集められたありとあらゆる珍しい書籍が寄贈されてるし、世界一古い書籍だって置いてあるもんね!」

「確かに、何処よりも情報収集するには打ってつけの場所ではある。しかし……」

「で、でも……あ、あそこの図書館って、誰でも入れる所、じゃ……ないよ、ね?」


 皇凛は同意したものの、純一やシャオファンは同意しつつも不可能であると結論付ける。聞いたところによると、元々から要人だけにしか開放されていない図書館だそうで、そもそも図書館とは呼ばれてはいるが、実際は重要書類の管理・保存・修復を主に行っている文献管理事務所なのだという。

 それってつまり、俺みたいな一介の学生相手に便宜を図ってくれたりなんて絶対に有り得ないことなわけで……夢の解明のためにどうこう出来るほどの権力、俺は持ってない。八方ふさがりかぁ。

 やっぱ無理だよねぇな雰囲気が漂う中、純一が一応エンシェントに聞いてみてはどうかと提案してくれて、まぁ、駄目元で聞いてみるのもいいかと気安いエンシェントの性格ならば聞くだけ聞いてみるのも悪くはないかと頷いた。





 とは言え、そう気軽に聞けるわけでもない。要人にしか開放されていない図書館であることを幻想界の人達は勿論知っているわけで、そこに来て俺が聞いちゃってもいいものなんだか悩む。

 まぁ、俺はここの出身じゃないし、ついぽろっと言っちゃっても知らないから仕方ないって思ってもらえるかもしれないけど……いや、そもそも幻想界の人間じゃないんなら、なんで幻文書図書館の存在を知っているんだってなっちゃうくらいにはメジャーではないらしいからなぁ。

 悩んでたって仕方ないから、単刀直入に聞いてみることにした。こういう時、面倒くさがりな性格が功を奏してるような気がする。


 いつものように、友人達を見送ってからエンシェントの元へ向かって、しばらくの間ただの世間話をした。内心そわそわしながらも、本題をぶつけてみると……


「幻文書図書館に行ってみたい、じゃと?」

「はい」


 しばしの沈黙の後、エンシェントは一度深く椅子に腰を掛けてから思案する素振りを見せた。

 これはまさか、駄目ってこと? とても難しい相談だったのだろうか?

 不安に駆られつつもエンシェントを見つめていると、エンシェントが真剣な眼差しで尋ねてくる。


「それは、どうしてもお主にとって必要な事なんじゃな?」

「はい」


 そうかと、再び沈黙が訪れた後、エンシェントは少し身を乗り出すようにして向き合って、俺の両手を取り、しわくちゃだけど温かい手で包み込みながら言った。


「いいじゃろう。儂から話しておいてやろう」

「あ、ありがとうございます!」


 いつものような、孫を溺愛するお爺ちゃんのような温かな眼差しで笑顔を向けてくれる。

 そこでふと、エンシェントは思いついたようにそうだそうだと微笑んだ。


「儂は今からちょっと遠出するんじゃが、お主も来るか?」

「え? 俺も、ですか?」

「そうじゃ。ついでに幻文書図書館にも寄ろうと思っとったんでな。話をつけるには調度良かろう」


 え、えぇ~!? そ、そんなすぐ!? 全然、心の準備が出来てないんですけど!

 友人達の話では、そこの司書長さんはめちゃくちゃ厳しい人らしい。規律やマナーに厳しい人だから、言動に注意しないと目の敵にされるって言ってたのに。そんな人に会ってすぐ嫌われたりしたら、例え許可が下りようとも、入館させてもらえるかどうか怪しいのでは!?

 葛藤する俺に気付いたのか、エンシェントは心配はいらんと言ってくれる。いやでも、本当に大丈夫なのか!?

 そんな心配を余所に、俺の外出許可をさくっと貰ってしまったエンシェントは、竜体となって背中に乗せてくれる。


 しばしの間、今までドラゴンの背中に乗せてもらった際の乗り心地を思い出して躊躇してしまったんだけど、意を決して乗ったところ……今までのドラゴンとは違って、乗り心地はとてもよかった。

 低空飛行な上に、両翼の羽ばたきによる上下運動がほとんどないというのはどういうマジックか、夕暮れ時の風の冷たさも心地いいと感じるほど、穏やかな乗り心地である。って、そんなこと言っちゃったらヴァルサザーや他のドラゴンの乗り心地が最悪みたいに聞こえちゃうけど、他にもたくさんの人が乗った状態か一人かの場合では重さも変わるわけだし比較するのはおかしいだろうと結論付ける。

 しかし、低空飛行だということは気流に乗れていないということなのに、なんでこんなにも羽ばたきが少ない状態で飛べているんだろう? よくは分からないから、年の功だと結論付けて置く。



 エンシェントが通り過ぎようとする森の下では、小さな小鳥たちがドラゴンの存在に驚いて飛び去っていった。羽ばたきによる風圧で木々がしなりざわめいて、その度に小動物の鳴き声が森の中に響く。

 警戒の意味を含んだその声に、それもそうかと思う。ドラゴンの低空飛行だなんて滅多にないことだし、そもそも、ドラゴンがこの近辺を飛行していること自体皆無なんじゃないだろうか。

 『魔神の后土』の件もあって、西の森の方は要警戒地域になっていて魔族がごろごろいるけど、この辺りは平和そのもの。居るはずのない魔族のご登場に、そりゃあみんな驚くに決まってる。


 いつの間にか森を抜け、森を大きく引き裂くように存在することで有名な落差800mのディアン渓谷に出た。崖の間から地下水が漏れ出し滝となり、そのうち半分は霧となって渓谷を滞留していて、その落差を感じることなく恐怖心も感じない。

 そんなディアン渓谷を上流に遡るようにしてエンシェントは飛んでいく。霧の上をまるで船のように突き進んでいきながら、その上先程よりも羽ばたきを減らし、霧が吹き飛ばされないように身長深く羽ばたいていた。

 エンシェントが、何故そうしているのかの意味を知ったのは、沈み行く夕日が霧を照らした時。夕日に照らされて、霧が七色に輝いていたことで知る。

 まるで虹の雲の中を飛んでいるかのような気にさせる、美しい光景。言葉が、出なかった。


「どうじゃ? 綺麗じゃろう」

「はい、とても綺麗です。でも、どうして七色に輝いてるんですか?」

「ふぉっふぉっふぉっ、それはのう。ここの水には、色彩虫という小さな虫の抜け殻が混じっとるからなんじゃ」

「色彩虫?」

「そうじゃ」


 聞けば、夢現界で言うところのミジンコみたいに小さな生き物で、光の当て方次第で七色に輝いて見えることからそう呼ばれているらしい。

 一生の間に10回以上も脱皮する上に、生息する場所は波の少なく光のない地下水限定でしかも大量発生型。おかげで、ディアン渓谷では夕日と日の出の時間になると光の関係でこういった現象が見られるんだそうだ。


「凄いですねぇ。皇凛が見たら喜びそう」

「ふぉっふぉっふぉっ、そうじゃのう。じゃあ、ここの水を土産にするとしようかのう」


 そう言って大きく体をしならせたエンシェントは、滝の位置まで上昇する。一体どこから出したのか瓶を渡され、それに滝の水を入れると、霧の状態じゃなくても仄かに水の色が七色に見えた。水が漏れないようにしっかり蓋をしポケットにしまうと、エンシェントは大きく羽ばたいて上昇しスピードを上げる。

 日が沈むと一気に寒くなることを分かっているからなのか、そのままのスピードでディアン渓谷を抜け、果てはカルバド海岸、シィーラ海、ノーマン島まで越えてしまった。

 一体どこまで行くつもりなのか、あれから1時間以上も経っている。遠出にしても遠出過ぎる気がすると若干の疲れを感じ始めた頃、海の彼方に人為的な光が見え始めた。目を凝らしてよぉく見ると、それはどうやら大きな大陸の明かりのようで……

 俺の脳内幻想界世界地図が正しければ、地理的な面から考えて、確かルネッソ大陸というほぼ人間しか住んでいない大陸があったはず。前に歴史学の授業の時に見たから、確かだ。



 ここ幻想界には、キリシク大陸とルネッソ大陸という2つの大陸が存在する。その周りに小さな島々が点在していて、夢現界と同じように海の割合が多い。

 2つの大陸のうちルネッソ大陸には人間達が住んでいて、キリシク大陸には魔族や神族や幻獣が住んでいた。

 当時は大陸間での不可侵条約があり、それ故か交流もほとんどなかったのだが、徐々に人口が増えてくると、人々の探求心や野心が抑えられなくなり、少しずつキリシク大陸へ入り込んで行くようになった。そうは言っても、そう簡単に条約を無視して入れるわけにもいかなかったので、交渉に交渉を重ねて少しずつ交流を持つようになっての現在、ということらしいが。

 それまで簡単な魔法しか使えなかった人々の中から強い魔力を持った人達が続出するという出来事が起こり、それに対してどう対処し、どう育成していったらいいかと困り果てていた魔法族は、魔力に関する知識に置いて右に出る者がいないとされるほど博識な神族達にご教授願おうと考え、打診したことがきっかけだったらしい。

 異種族の中でも最も保守的とされていたにも関わらず神族達はそれを快諾し、結果、魔力の強い者を育成するためにと学舎が建てられることとなった。それがそのまま残ったのが今の魔術学園ってわけなのだが、それももう何千万年も大昔の話だったりする。何千年とかならまだしも、万もついているんですがとはツッコんではいけないのだろうか。


 近年になって子供の出生率が低下しているのに伴い、ルネッソ大陸では魔力を持った子供はほとんど生まれていないが、キリシク大陸に住んでいる魔法族の子供は十中八九魔力を持って生まれてくる。夢現界の方でも魔力を持って生まれてくるケースが増えてきていた。斯く言う俺もその一人でして……

 こんなことになるなんて、全く望んでなかったんだがな。俺は普通でいたかったんだと、今更ながらも思ってしまう。乗りかかった船だし、こうなったらとことん頑張るしかないけど。



 大陸の明かりが爛々と輝くまでに近付いた頃、エンシェントは速度を下げて港に降り立った。そこにはすでに、連絡を受けて待っていたのか、大昔のヨーロッパ海軍風軍服のようなふくらはぎ位まである長い丈の軍服に身を包んだ数名が控えていて、そのうちの指揮官っぽい人がこちらに近付いてくる。


「お待ちしておりました! こちらへどうぞ!」

「うむ」


 そのままの姿で彼について行くエンシェント。でも俺、このまま乗ったままでいいのだろうか? なんか申し訳なくなったので、エンシェントに聞いてみたのだが。


「構わん構わん。お前さん一人ぐらい、なんてことはないわい」

「でも、あの建物の中に入るんですよね? 人型に戻らないといけないんじゃ?」

「着いてからでも良かろう。儂も、今から人の姿になってしまったら、その分歩かなきゃならんから大変じゃしのう」


 年寄りには、二本足よりも四本足の方が歩き易いわいと言われてしまい、言われてみればそうかもと思った。

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