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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第三章
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「大介くん、おはよう! 朝だよ!!」

「クゥ~!!」

「ん……うわっぷ!」


 痛い! 痛いから、顔にぶつかってくるな!!

 クウィンシーの奇襲で危うく死にかけるという、散々な目覚め。毎回毎回、無期限の心臓耐久レースをしている気になってくる。

 頭を掻きながら状態を起こし、最初の声の人は誰ですかと疑問に……は思わない。クウィンシーを引っぺがし、ドアの前にいる彼を見る。

 その顔には、僕は仕事をやりきったと書かれてあった。


「おはよう、ブランシェ」

「うん! おはよう!!」


 えへへ、と笑うのだった。うん、相も変わらずブランシェはいい子だ。なんで家にいるのかというと、俺の魔力制御のためなんだが。

 俺の、平穏……





 今日からブランシェくんも魔術学園の生徒だよという衝撃のまま一緒に教室に行き、クラスメイト達に紹介されるブランシェくん。


「よしお前等、注目!! つっても、すでに注目しているとは思うが、今日からお前等と一緒に勉強することになる、ユニコーンのブランシェ・ピュンターだ」

「よっ、よろしくお願いします!!」


 皆からの興味津々な視線をどう受け止めたのか、ブランシェくんは慌てて頭を下げる。いやうん、そんなに恐縮しなくても大丈夫だと思うよ。ここの連中はいい奴等だし。

 ただ一つ、皇凛の視線だけが他のと違うけど。嬉々としてブランシェくんを見つめるその視線……まさかお前、まだ何かユニコーンの所持品が欲しいって言うんじゃないだろうな? 前はユニコーンの涙が欲しいと言っていたし、気を付けて見ていた方がいいかもしれない。

 考えている間にも、アイガン先生はブランシェくんのことを紹介していく。飛び級試験を合格してるだとか、すでに精霊を所有しているだとか、人の姿になるとユニコーンの姿の時は乙女じゃないと触れないというのはなくなるだとか、諸々。

 そもそも、大人のユニコーンには誰でも触れるそうなのだが、ウロヴォロスさんが人間嫌いなので駄目っていうことにしているらしい。何故、一族を巻き込んで掟にしちゃったんだろう。そこまで人間嫌いなのかぁとあの厳しい視線を思い出して身震いする。


 ブランシェくんの情報が飽和状態になるほど飛び出してくる中思うのは、聞きしに勝る魔力だなということ。才能があるんだなぁ。だけどあのお父さんだから、説得するのは大変だっただろう。情熱よりも掟を重視しそうだし。

 勉強や素質の面で上回っていても、日常生活ともなるとそうもいかないと、面倒を見てくれ的な流れで校長先生に任されるままにブランシェくんと共に行動することになる。しかし彼は、思った以上に夢現界のことを知っていた。なんでそんなに詳しいのか聞くと。


「え、叔父さんが夢現界で仕事をしている?」

「うん。元々人間の世界に興味があったらしくて、その中でも夢現界が一番好きなんだって。だから今は、夢現界で教師をしてるの」

「へぇ、それは凄い」


 だから、俺と純一が話している時事ニュースにも加われるってわけか。因みに皇凛の方は。


「そうなんだぁ。俺はよく分かんなかったなぁ~、チキュウオンダンカ? イジョウキショウ? 何それ?」


 地球温暖化と異常気象をそんな片言で言う人に初めて会ったわ……ていうか、俺等なんでそんなワードが出てくるような話になっちゃったんだっけ? 最近不安定な天気だよなぁっていうただの世間話が、どうしてここまで広がった?

 にしても、ブランシェくんがこんなにも夢現界の事情に詳しいだなんてビックリだ。


「因みに叔父さんって、どこに住んでるんだ?」


 日本の話題が分かるってことは、もしかして? ていうか、うっかり聞き逃していたが、教師って言ってなかった?


「ドゥルーシア学園で生物を教えているんだよ」

「ドゥルーシアで」


 マジですか。素朴な疑問として、教員免許はどうしたんだろうかと思ってしまう。魔術学園の方ならいざ知らず、夢現界では確実に必須なんだけど。教員免許を取得するためには色々な難関が待ち構えているはずだが……いや、うん、皆まで聞かないでおくよ。

 頭が爆発しそうだ。



 放課後になって、さぁ帰ろうかとなった時に事は起きた。


「あぁそうだ。大介、ブランシェ、ちょっといいか!」

「はい」

「はい!!」


 アイガン先生に呼ばれ、俺とブランシェくんは先生についていく。連れられて行った先には、どこかで見たことがあるような……な叔父様がいらっしゃった。

 はて、何処で見たんだろうかと思った瞬間、ブランシェくんが声を上げる。


「叔父さん!」


 叔父さん……彼が? なるほどイケメン。

 基本、幻想界の人達って美形だから今更物珍しくはないけども、毎回毎回、俺の中の何かがぽっきり折れる。人として、男としての何かが、な……

 ブランシェくんは美形叔父様の元に駆けて行き、熱い抱擁を交わす。って言っても、普通に外人さん同士がよくやるハグのことなんだけど。美形叔父様はひとしきりブランシェくんを抱きしめた後、俺に視線を寄越し微笑んだ。


「おや? もしかして、君が大介くんかな?」

「あ、はい。こんにちは、初めまして」

「こんにちは大介くん。うちのブラン坊をどうかよろしく頼むよ」


 にかっと、屈託のない笑顔の美形叔父様。凄い……裏がない!!

 何言ってんだと言われるかもしれないが、俺の傍には裏のありそうなというか、一筋縄ではいかない強者が多いので、ついつい値踏みしてしまったというか……いや、すみません、これからは自重します。

 物凄くいい人といった感じの叔父様は、あぁ自己紹介がまだだったと改めて挨拶してくれた。


「私の名前は、アルフレート・ヴァルト。ドゥルーシア学園で生物を教えているんだ」

「あ、俺は、高崎大介と申します」

「知っているよ」


 ニコニコニコって……シュレンセ先生や蒼実やブランシェくんみたいに澄んだ笑顔。心が洗われるようだ。そんなに俺の心は荒んでいたのか、なんか悲しいな。


「君には本当に感謝しなくてはいけないな。ブラン坊を預かってもらうのだからね」

「……はい?」


 寝耳に水といった俺の表情に、おやとアルフレートさん。隣にいたアイガン先生に視線を向ける。

 すると先生、あぁそうだったと今更ながらに俺に報告。


「悪ぃ悪ぃ! ご両親には許可取ったんだけど、お前に言うの忘れてたわ!!」


 今日からブランシェは、お前ん家に留学生ってことで住み込むことになったからと……ちょっとこの人、殴っていいか。

 ていうか、は!? なんでそんなこと、急遽決まっちゃってんだよ!? しかも今日からって。俺の許可もなく……

 いや確かに、俺の魔力の暴走を止められるのは彼だけなのかもしれないけども、なんでそんな重大なことをうっかり忘れちゃうんだよ! もう、呆れるやら怒るやら以前に、開いた口が塞がらない。


「おい、大介。大丈夫か?」


 と聞かれても、俺にはもう返答する力はなかった。





 そんなこんなで、現在に至っていたりする。

 あの後、用事を終えて戻ってきたシュレンセ先生に魔力を抑える魔術を解いて貰ったのだが、解いて貰ってからというもの、なんとなく前よりも疲れを感じにくくなったような気がした。勿論気のせいかもしれないけど。まさにそう、力が漲って来るというか……本当に漲っているわけではないけどな、表現をオーバーにすれば、まぁそんな感じだ。

 正直、有難い。それ自体は有難いのだが……校長先生、俺の私生活を邪魔しない程度にって言ってませんでしたっけ? まぁ、ブランシェが邪魔になることはなさそうだけどさ。


 我が家の人間、特に母さんは大喜びで、父さんも慎介も了承したら、あっという間に内に溶け込んだブランシェ。いやはや、人徳なのか何なのか、光の速さで打ち解けた。

 何故なのかは分からないが、彼はこっちの世界の勉強も出来るみたいで、慎介に尋ねられるままに宿題まで手伝ってやるという理想的家族ぶりまで発揮。いやホント、俺には真似できないほどに甲斐甲斐しくよく家の仕事をこなしている。

 そんなこと言うと、俺がダメダメ兄貴みたいだけどな。ちょっと黄昏れた……


 家に来るにあたって、他人行儀過ぎるしとくん付けをやめてみたのだが、ブランシェの方は癖みたいで、くん付けが取れなかった。まぁ、蒼実だってくん付けで名前呼んでるし、別に強要するつもりもないから俺だけ直したんだけど。時々、思い出したかのようにハッとして言い直そうとしている仕草がなんとも可愛らしいと、うちの家族に大人気だという事実は本人には内緒だ。

 行ってきます、いってらっしゃい、のいつもの挨拶を交わして、ブランシェと共に学校へ向かった。



 毎日、ブランシェやクウィンシーに起こされることにも慣れてきた。

 ブランシェが傍にいるおかげか、俺の魔力が暴走するという事態はなかったし、とても穏やかな日々を過ごしている。ここ最近は、はっきりとした幻視を見ることもしばしばあったけど、それを先生方に報告するということが頻繁になったというだけで特に変わったことのない日々だった。

 その度に何かの予兆かもしれないと騒ぐ周りに対して、俺の方は変な感じもしないからと楽観視していたのだが。





 幻想界に入った途端、笑顔で出迎える皇凛に突撃される。後から入って来たブランシェが、俺達に押し返されて向こう側に戻ってしまったその瞬間、耳の奥で、スピーカーからマイクのプラグを抜いた時のようなブツリとした音が響き、視界がどす黒い色の赤に染まった。

 一体どれぐらいそうしていたのか、何処からともなく這い上がって来る苦しみに、呼吸も忘れて耐えていると、無音の世界の中で、唯一と言っていいほどの音が段々と近付いて来て……

 それが、数十万という子供のような幼い声のユニゾンだと認識した途端、何かに背中を押されるように『潤しの源泉』から弾かれた。やっと息ができる、そう思った俺の耳に、皇凛の息を呑む声が聞こえる。背後に迫る悪寒に振り返ると……

 『潤しの源泉』が、淀んだ水へと変化して、おぞましいまでの邪気を放ちながら消滅してしまった。


 一体、何が起こっているのか。恐怖から、しばらくその体制のまま動くことが出来ない。

 少しずつ、己の置かれた状況を認識できるようになった頃。あのユニゾンの正体が、水の精霊だったのではないかと思うようになった。

 邪悪な何かに引きずられかけた俺を助けてくれたのではないか、と……

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