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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第二章
51/141

二十

 俺に用なら仕方ない。諦めて挨拶する。


「お久しぶりですコンラッドさん」

「あぁ、あの日以来だな」

「あの…どうかなさったんですか?」


 この方達は一体? じっと、探るよな目で見つめてくる御三方。中でもコンラッドさんのお隣にいる人なんて、じっくり見すぎて穴が開くんじゃないかと思うほど凝視してくる。

 何なんですか一体と困惑していると、コンラッドさんが彼等を紹介してくれた。


「ここにいる三人は、ヴァンパイア騎士団の者達だ。急で悪いが、用件だけ伝えておく。今後、何かあれば彼等から君に伝達することになる。顔と名前だけでも覚えておいてくれ。すまないが、私はこれからすぐに発たねばならない。詳しいことは彼等から聞いてくれ」

「は、はぁ…」

「それから、シュヴァリエ。先程言っていたことだが、お前の好きなようにするといい。ただし、報告は逐一行うように。いいな?」

「分かりました。感謝いたします」


 言うだけ言って、コンラッドさんは去って行った。本当に急いでいたようだ。で、俺はどうすれば?

 困って目の前にいた人に視線を向けたら、にっこりと微笑まれてしまう。この三人の中で一番話しやすそうな人ではあるが、なんか癖がありそうな感じもする。

 それに比べ、シュヴァリエさんと呼ばれていた人は寡黙で真面目って感じの黒髪長髪の人で、彼等の後ろに空気のように控えている人も笑顔とは無縁そうだが、どことなくインテリ風の空気が漂っている。


「じゃあ、私達の自己紹介でもしておこうか。まぁ、名前だけ覚えておけばいいから、苗字は気にしなくていいよ」

「はい」


 確かに、日本人の名前でも覚えにくい名前って結構あるしな。それが外人の名前ともなると、記憶するのにかなり時間を要しそう。発音するのも難しいかも。

 まず初めにと、シュヴァリエさんを紹介される。


「彼はシュヴァリエ・ビショップ。ヴァンパイア騎士団の団員育成補佐官にして、アシュリー殿下の教育係だった男だよ。見た通り仕事に忠実なやつだけど、生真面目すぎて応用が利かないんだ。まぁ、そこのところは目を瞑ってあげてね」

「その余計な情報は、本当に必要なことか?」

「特徴を教えるって点でも必要でしょう? アシュリー殿下一筋ってところはジョナサンといい勝負だよってのもちゃんと」

「カヴァリエーレ!! 私を怒らせたいのか!?」

「はいはい。全く、これだから生真面目って扱いにくいんだよ」


 ね、なんて同意を求められても、どう答えたらいいのか分からない。えっとーって言うしかなかった。

 先程名前の出たジョナサンさんは、確かアシュリー殿下の傍にいたあの人のことだよな。確かに、二人とも生真面目って点で一致している気がする。


「次は私だね。私の名前は、カヴァリエーレ・ルーク。カヴァリエーレなんて呼びにくいだろう? ヴァルと呼んでくれて構わないよ」

「はぁ」


 呼びにくい名前なのは確かだが、愛称で呼ぶなんて恐れ多いよ。アシュリー殿下の教育係だったというからには、少なくとも100歳以上は上でしょう? 下手したら200歳は超えてるんじゃ?

 覚えられなかったらそうしますと答えると、にっこりと微笑まれた。この真意の見えない笑顔、どことなくアルテミス先輩に似ている。曲者って情報もインプットして置こう。


「現役の時は、ヴァンパイア騎士団の西軍団長だったんだよ。今は辞めてしまったけどね。それから、彼の名前はリッター・オーウェン・ポーン。ヴァンパイア騎士団の東軍団長を務めていたんだ。知力戦術に長けた男だよ。心理戦が有効とあらばそれを最大限に利用したりしてね。敵に回すと恐いんだよぉ?」


 仕舞には、気を付けてねなんて言われる始末。何を気を付ければいいのか分からないのだが。というか、それは敵になった時だよな? まさか敵じゃなくてもフェイント掛けて来たりはしないだろ?


「今は名誉除隊してるけど、三人共、まだ騎士団所属扱いなんだ」

「じゃあ、御三方とも、籍だけ騎士団にあるということなんですか? なら、今は何をさているんです?」

「う~ん。分かりやすく言えば、フリーターかな?」

「フリーター」


 いい歳した男三人が、フリーター……今のはジョークなのか、はたまた本当か、どう反応したらいいのか判断できない。

 何が正解か、頭を巡らせてみるが答えが出ない。悩み込んでしまった俺に、リッターさんが助け舟を出してくれる。


「ヴァンパイア族としての仕事は確かにそうだが、人間社会の中ではちゃんと仕事をしている。それに、何かあればこうして招集されるのだから仕事をしていないわけではない」

「確かに、平和な昨今、騎士団なんてもう必要ないよね。でも、これからはどうなるか分からないけど」


 そう言いながら、カヴァリエーレさんは俺を見る。不敵な笑みと探るような瞳。何故か、その瞳に居心地の悪さを感じる。

 それを見たシュヴァリエさんは怯えていると感じたようで、カヴァリエーレさんを諌めた。


「そんな目で見るのはやめろ。彼を護るのも我々の仕事の一つだろう。怯えさせてどうする」

「え? 別にそんなつもりはなかったんだけど、ごめんね?」

「いえ、大丈夫です」


 本当に違ったから、なんか恐縮してしまう。そんなことより、さっきからクウィンシーの唸り声がすごいんだけど。まさに警戒していますって感じなのに、口にする言葉は……


「ウゥ~!! ゴハンゴハン~!!」


 思わずガックリ。どうやら、威嚇と空腹がごっちゃになっているようだ。さっきまでは確かに静かだったのに、なんなんだ一体。

 もう笑うしかない、そんな空気が流れた時、『潤しの源泉』から人が現れる。そこにいたのは、なんともお久しぶりなヴェルモントさん。相変わらずの神経質な感じでご登場。


「おや、あなた方だったのですか。私の仕事の邪魔をしないで頂きたいものですね」

「あはは! 久しぶりに会ってその言葉、君って本当に面白いね」

「おーい! 俺もいるぜ~!」


 カヴァリエーレさん始め、皆の視線がヴェルモントさんに向いているところへ、学園の方から歩いてくるカイザード。そういえば、あなたシュレンセ先生のとこにいたんでしたね。


「なんだクウィンシー、めちゃくちゃ警戒するから何かと思えばこいつらかよ。おりゃあ、お前のそれに毎回振り回されてんぜ」


 そう言いながら笑っているあたり、楽しんでいるようだ。その間もクウィンシーは、ゴハンゴハン言っているわけだが。


「お腹も空いている、と。しゃあねぇ、コレやるよ」


 取り出したのは鮮魚。正直、食わせたことはないので食べれるかどうか。

 クウィンシーはふんふん匂いを嗅いで、安全なものか確認する。害はないようだと判断して、腸に喰らいついて自分の方に引き寄せる。それが意味するところは、俺の服が汚れるってことなんだが。


「クウィンシー、食べるなら降りろ」

「フゥー!!」


 口に咥えているため、抗議の声が籠ってフゥーになる。梃子でも降りるかと居住まいを正し、俺の手の届かない項辺りで爪を立て体を固定。器用に前足を使って食べているようだ。

 もう勝手にしてくれと諦めながら、なんでカイザードは鮮魚なんて持ってたんだと疑問が浮かぶ。


「さぁてと、取りあえずこれで納まったろ! 俺戻っていい? ガトーショコラ食べてる途中だったんだよ」

「全く……相変わらずお気楽なご身分ですねぇ貴方は。同期という事実が本当に悔やまれますよ」

「そう言うなよ。まぁ、仲良くしようや!」

「嫌です」


 相変わらずの切れ味の良さでバッサリ斬っていくヴェルモントさん。この掛け合いも、見ている分には楽しいんだけどさ。

 そう思ったのは、どうやら俺だけではないようだ。


「ホント二人って、いいコンビだよねぇ。水と油だから、見ていて楽しいよ」

「元はと言えば、あなた方のせいでしょう。大方、貴方がクウィンシーを驚かせたんでしょう?」

「お、鋭いねぇ~」

「そんなことをするのは貴方ぐらいですから」

「信用ないんだなぁ」


 酷いよねぇと俺に言われましても。

 ヴェルモントさんは俺の傍までやって来て、ついでですから送りますと言ってくれた。しかし、クウィンシーの食い散らかしでとんでもないことになっているマントを見やり、目を眇められてしまったが。そりゃそうだろうなぁと、苦笑するしかない。

 さぁ行きましょうかと、ヴェルモントさんに促されるままに歩き出したところで、ふと疑問に思ったことを口にする。


「あの、ドラゴン族の皆さんだけでなくヴァンパイア族の皆さんまで俺の護衛ってことは、まさかウェアウルフ族の方々にまで護衛されるなんてことにもなっちゃうんでしょうか?」


 予期しない質問だったからか、皆さんの動きが一瞬止まる。まさに、え、なにそれって感じの顔であった。実際、皆さんが口々に有り得ないと否定するのだからそうなのだろう。


「あのウェアウルフ族がそんなことするはずがないよねぇ」

「こう言ってはなんだが、彼等は娯楽にしか興味がない。こういった護衛のような仕事は、彼等の性質上やりたがる者などいないだろう」

「はっきり言ってやれシュヴァリエ。奴等は忍耐力がなく、忠誠心というものがない。己の欲望に忠実な奴等なのだ。魔族三大種族などと呼ばれていても、彼等だけは別格だ」

「確かに、彼等は非常に即物的ですからねぇ。理性よりも本能が優っているせいか、良識というものがありませんから」

「ルールに縛られないってのはなんか面白そうだけどなぁ~。でもやっぱ、規律があってこその自由だろ! なのに、そもそも規律がないんじゃあなぁ」


 なんだか酷い言われようである。しかし、彼等がそう言わざるを得ないほどウェアウルフ族というのは自由人らしい。ならば、別段危惧することもないということだ。

 一安心だな……そこでふと、ある人物を思い出す。魔術学園の中でもたった一人しかいない、ウェアウルフ族の教師のアイガン先生。彼はどう見ても、真っ当な人に見えるのだが。


「でも、アイガン先生はとても普通に見えるのですが」

「そりゃあ、どこにでも例外っつーのはあるからなぁ。例えば、うちの上司とか?」


 カイザードの言葉に妙に納得する。確かに、ヴァルサザーはファイアードラゴンなのに生真面目だ。真面目一徹が災いして、ベネゼフの言動にいつも苦慮させられている。近いうちに胃に穴が開くのではないかと、何度気を揉んだことか。

 例外、そうだったのか。俺が知っているウェアウルフ族っていうのがアイガン先生だけだったから、一族全体もそんな気質だとばかり思っていたけど、どうやら違うようだ。


「まぁ、だから安心しろよ! 奴等が何かしてくるとは考えにくいからさ」

「そうだねぇ。まぁ、面白いことがあるようなら分からないけど?」


 カイザードの快活さにほっとしたのをカヴァリエーレさんの不敵な笑顔で突き落とされる。

 俺!? 俺が何か!?

 クウィンシーも、カヴァリエーレさんが出す不穏な雰囲気にクゥークゥー唸る。


「ニクゥ~!! ニクゥ~!!」

「クウィンシー、お前……」


 お前も大概即物的だぞ、と項垂れたことは言うまでもない。

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