十九
一向に話の手を緩めることのない宮崎さんの足がようやく止まったのは、とある建物の前だった。
「じゃじゃ~ん!! ここが、宮乃院家の清明殿本堂だよ!」
そう言われましても、意味が分からないのですが。後、疲れました。
ここの庭園はこうでねぇああでねぇと解説付きで歩いていたせいで、十数分ぐらいかかった。直進できていれば、もっと早く来れただろうに……
清明殿、星形、これはまさか?
「安倍清明ですか?」
「そう! 一般の人達は知らないけど、安倍清明所縁の場所なんだ!!」
「京都の嵐山じゃなくて?」
俺、安倍清明と言えば嵐山の清明神社って記憶があるんだけど。所縁の地と言えば、そこくらいしか思いつかない。
そもそも、なんでこんなところに連れて来られたのか。宮崎さんは何事か説明してくるけど、俺にはさっぱり分からないんだよなぁ。
一番分らないのは、なんでこんなところに清明殿なるものがあるのかってことなんだけど。
「そういえば、あの星形って正式名称みたいのがありましたよね?」
「ん? あるよ! あれは」
「五芒星。晴明桔梗印ですよ」
宮崎さんの言葉に被るように、左側から声がした。その声の持ち主は、これぞまさに平安時代の人って感じの服装でこちらにやってくる。
烏帽子は被ってはいないが、ちゃんといた正装っぽい出で立ち。眉目秀麗な相貌で、じっと俺を凝視する。俺も大概無表情だけど、この人ほどではないと思いたい。
まるで狂言師のように姿勢がいいし、凄い威圧感。本人的にはこれが通常運転なんだろうけど、こっちにしてみたらかなりのプレッシャーだ。
上から下まで視線を動かし、最後に胸元辺りで止まる。すっと目を細めて見つめたその場所は、クウィンシーがハンカチに扮している場所。
いやいやまさか、そんな馬鹿な。クウィンシーの存在に気付いちゃったとか、まさかそんなわけないよな?
彼の視線がクウィンシーを捉えたはずがないと自分に言い聞かせ、逸る鼓動を落ち着かせる。視線が俺に戻ったところで、感情のない真顔のまま聞かれた。
「君が、基春の後輩の子だろう?」
「え、はい…」
「何故君が基春に気に入られているのか、分かる気がするよ。君はとても不思議な人のようだからね」
「はぁ…」
俺のどこが? そもそも気に入られてるとか、非常に迷惑な話なんですけど。
「悪い感じはしないが、純粋な中に深いものを感じるね。暗い色を放っているのに、決して闇ではない。とても不思議だ」
一体この人は、何を言っているんだ? なんちゃって占い師に占われている気分になってくる。ここで俺はどう切り返すのが正解なのか、宮崎さんに視線を向けてみるが……何固まってるんだこの人?
驚愕したように目を見開き、目の前の男の人をじっと見つめている宮崎さん。そのあまりの驚き方に、こっちがびっくりしてしまう。
やっと口を開いた彼の声は、少々枯れていた。
「影、雪…様?」
様? この人、そんなに凄い人なの? 様付けで呼ぶような、それなりの地位の御方との遭遇ということなのだろうか。
それにしても、影雪だなんて凄い名前だなぁ。その名前を付ける親の度量が試されるお堅い名前だ。現代に通じる名前じゃない。その出で立ちと相まって、平安時代にタイムスリップでもしたのかと思ってしまう。
一瞬宮崎さんを見た彼は、視線を俺に戻して自己紹介してくれた。
「私の名前は、宮乃院影雪。本名は宮田基明だ」
「あ、俺の名前は高崎大介で……ん? 本名?」
つられて俺も自己紹介しようとしたが、名前を二つ言われた気がして止まってしまう。本名と芸名って、彼は役者なのだろうか? 格好も、ある意味ではそれらしいと言えなくもない。
なるほど、あの宮田先輩が役者なのもそういうことだったのか。名前が芸名っぽいのはそういうことかと、勝手に完結し始めた俺に否定が降ってくる。
「宮乃院は代々、宮の名を持つ親類縁者の中から才能のある者を養子に取り、宮乃院一族の当主に据えてきたのだ。歴史の表舞台にその名を残すことがないようにと、形式だけの養子という形にしている。だから私の戸籍は宮田家にある。本名と言ったのは、ここでは影雪と呼ばれているからだ」
「そうなんですか」
間抜けな返答しかできなかった。なんで表舞台に名を残しちゃダメなんだとか、なんでこの中だけでそう呼ばれているのかとか、色々と気になることはあったが聞けるような立場にないから止めた。
とにかくなんかすごい人、という認識でいいんだろうか? 宮崎さんの驚き方から察するに、まさかこんなところで遭遇するとは思っていなかったようだし。
ていうか、さっき宮田って言わなかった?
「あの、宮田っていうことは…」
「そうだ。私は、基春の兄だ」
「お、お兄さん」
に、似てない……いや、顔がじゃなくて、主に言動が。このお兄さんの落ち着きっぷりが逆に、宮田先輩のような破天荒弟を生み出してしまったのだろうか? どちらにしても、兄としてあんな弟っていうのはどういう風に映るんだろうかと気になってしまう。
俺だったら溜め息ものだが、このお兄さんだとどうなるんだろうと思っていたら、お兄さんは聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
「本当は、私よりも基春の方が才能があるんだがな」
「え?」
言っている意味は分からないが、何やら逡巡している模様。どうかなさったんですかと聞くべきか否か迷っていると、俺を呼ぶ声が近付いてくる。
言わずもがな、宮田先輩だ。
「大ちゃ~ん!! もう、こんなとこに居たの? 俺、めちゃくちゃ探したんだからね!」
「はぁ、すみません」
俺のせいじゃなくて宮崎さんのせいなんだけど、何で俺が謝っているんだろう。俺は有無を言わせず連れて来られただけなのに。
俺を見つけるついでに宮崎さんに気付いたらしい宮田先輩は、やっほ~ってなノリで宮崎さんとの再会を喜んだ。
「久しぶりだねぇ~ヒコ! 確か、カナダに留学してたんじゃなかったっけ? こっちに戻ってきたの?」
「モト君、久しぶり~!! そう、向こう行ってたんだけどさぁ~なんかぁ~」
すっかり話し込みモードのお二人。どこか女子高生っぽさが見え隠れしている会話だな。
というかあなた方、このままこちらの御方を無視しちゃっても宜しいんですか? あんた達が話し込んじゃってるせいで、こっちはめちゃくちゃ気まずいんですが!
「君」
「は、はい!」
急に呼ばれて驚き、ちょっと声が裏返ってしまった。最高に恥ずかしい……
お兄さんは、もう一度じっくりと俺の胸辺りを見、俺に視線を戻す。
「動物の持ち込みは禁止だぞ」
「え…」
「基春、今度本殿に来なさい。話したいことがある」
「はい……説教、じゃないですよね?」
宮田先輩は、若干口元を引きつりながら苦笑い。どうか後生ですからお説教だけはな空気を醸し出す。
いやそんなことよりも、なんか今凄いことを言われちゃったような気がするんだ。聞き捨てならないとんでもない言葉を!!
「いいから、来なさい」
「は~い」
お兄さんは、ちょっとの呆れを滲ませながらもう一度強く繰り返し、宮田先輩は諦めたように返事を返した。それを確認したお兄さんは、踵を返して去っていく。
いや、だから! 俺、凄いことを指摘されちゃったんだってば!! ど、動物の持ち込みは禁止って……ナ、何ノオ話デスカネ? 冷や汗が滲んでくるが、それに気付いている者は今のところいない。
強張った表情を浮かべる俺に、宮田先輩は首を傾げる。
「大ちゃん、どうしたの?」
「取り合えず、今はほっといて貰えますか」
俺は今、あんたの相手している暇はないんだから!
だってあの人、クウィンシーのこと気付いちゃってない? 何故!? 誰にも見えないように、ちゃんと魔法かけてもらったのに。しかも動物って……いや、分類的には確かに動物っぽい見た目だけど、魔族って動物なの?
色々あった宮田家パーティー。また一つ、大いなる悩みを抱える出来事となった。
そのことを友人達に話すと、色々な憶測が飛び交うこととなった。これといって明瞭な答えを導き出すことはできず、結局、見抜いていたんだろうということしか分からなかった。
ひとまず、シュレンセ先生のところに行ってみよう。俺の不手際で正体がばれそうになったわけではないにしても、こういうことがあった場合は一応担任に報告するのがこの学園での義務だしな。
それなのに、こういう時に限って担任のはずのアイガン先生が居ないんだから困ったもんだ。
放課後シュレンセ先生のところへ行くと、シュレンセ先生とラクター先生、何故かカイザードがいた。ちゃんと仕事してんのか疑問に思ってしまうぐらいの遭遇率だな。
昨日起きたことをすべて話すと、特に表情も変えずにでしょうねぇな反応をされた。まるで、こうなることを予期していたかのよう。
「どういうことです? 先生はこうなることが分かっていたのですか?」
「えぇ、彼等の一族のことはよく知っていますから」
「安心しろ。彼等は決して敵じゃない。ただ、そういう特殊なものを持っている一族なんだ」
どういうことだかさっぱりだが、シュレンセ先生とラクター先生が言うのだから大丈夫なんだろう。特殊なものを持った、ねぇ。安倍清明所縁のなんちゃらって建物があったくらいだから、第六感的なものを養う力を持っているのかもしれない。
例えば超能力、とか……いや、この場合霊感体質って方が一番それっぽいか。前に、宮田先輩も霊感体質なんじゃないかって思うようなことがあったし、もしかしたら一族的にとういう人が多い家系なのかも?
どっちにしても、特に問題ないならこのままでいいかと報告だけ済ませて、さっさと帰ることにした。
お腹が空いたのか、しきりにゴハンゴハンと連発しているクウィンシーを連れ、『潤しの源泉』に向かう。やっとご飯が食べられるぞと嬉しそうなクウィンシーに、呆れを含んだ笑顔が浮かんでしまう。
これは早く帰らなきゃなぁと視線を『潤しの源泉』に向けたところ、上から下までほぼ真っ黒な姿の男性達が門の前に立っていた。その内の一人はコンラッドさんだったのだが、何故こんなところにいるんだろう? 他の魔族に比べて、ほぼ夜間にしか活動しないヴァンパイア族の方がどうして?
その疑問は、コンラッドさんと目が合うことで解決される。あぁなんか、俺に用があるっぽい? 視線が交わった瞬間、用件の主要人物が俺であると 一向に話の手を緩めることのない宮崎さんの足がようやく止まったのは、とある建物の前だった。
「じゃじゃ~ん!! ここが、宮乃院家の清明殿本堂だよ!」
そう言われましても、意味が分からないのですが。後、疲れました。
ここの庭園はこうでねぇああでねぇと解説付きで歩いていたせいで、十数分ぐらいかかった。直進できていれば、もっと早く来れただろうに……
清明殿、星形、これはまさか?
「安倍清明ですか?」
「そう! 一般の人達は知らないけど、安倍清明所縁の場所なんだ!!」
「京都の嵐山じゃなくて?」
俺、安倍清明と言えば嵐山の清明神社って記憶があるんだけど。所縁の地と言えば、そこくらいしか思いつかない。
そもそも、なんでこんなところに連れて来られたのか。宮崎さんは何事か説明してくるけど、俺にはさっぱり分からないんだよなぁ。
一番分らないのは、なんでこんなところに清明殿なるものがあるのかってことなんだけど。
「そういえば、あの星形って正式名称みたいのがありましたよね?」
「ん? あるよ! あれは」
「五芒星。晴明桔梗印ですよ」
宮崎さんの言葉に被るように、左側から声がした。その声の持ち主は、これぞまさに平安時代の人って感じの服装でこちらにやってくる。
烏帽子は被ってはいないが、ちゃんといた正装っぽい出で立ち。眉目秀麗な相貌で、じっと俺を凝視する。俺も大概無表情だけど、この人ほどではないと思いたい。
まるで狂言師のように姿勢がいいし、凄い威圧感。本人的にはこれが通常運転なんだろうけど、こっちにしてみたらかなりのプレッシャーだ。
上から下まで視線を動かし、最後に胸元辺りで止まる。すっと目を細めて見つめたその場所は、クウィンシーがハンカチに扮している場所。
いやいやまさか、そんな馬鹿な。クウィンシーの存在に気付いちゃったとか、まさかそんなわけないよな?
彼の視線がクウィンシーを捉えたはずがないと自分に言い聞かせ、逸る鼓動を落ち着かせる。視線が俺に戻ったところで、感情のない真顔のまま聞かれた。
「君が、基春の後輩の子だろう?」
「え、はい…」
「何故君が基春に気に入られているのか、分かる気がするよ。君はとても不思議な人のようだからね」
「はぁ…」
俺のどこが? そもそも気に入られてるとか、非常に迷惑な話なんですけど。
「悪い感じはしないが、純粋な中に深いものを感じるね。暗い色を放っているのに、決して闇ではない。とても不思議だ」
一体この人は、何を言っているんだ? なんちゃって占い師に占われている気分になってくる。ここで俺はどう切り返すのが正解なのか、宮崎さんに視線を向けてみるが……何固まってるんだこの人?
驚愕したように目を見開き、目の前の男の人をじっと見つめている宮崎さん。そのあまりの驚き方に、こっちがびっくりしてしまう。
やっと口を開いた彼の声は、少々枯れていた。
「影、雪…様?」
様? この人、そんなに凄い人なの? 様付けで呼ぶような、それなりの地位の御方との遭遇ということなのだろうか。
それにしても、影雪だなんて凄い名前だなぁ。その名前を付ける親の度量が試されるお堅い名前だ。現代に通じる名前じゃない。その出で立ちと相まって、平安時代にタイムスリップでもしたのかと思ってしまう。
一瞬宮崎さんを見た彼は、視線を俺に戻して自己紹介してくれた。
「私の名前は、宮乃院影雪。本名は宮田基明だ」
「あ、俺の名前は高崎大介で……ん? 本名?」
つられて俺も自己紹介しようとしたが、名前を二つ言われた気がして止まってしまう。本名と芸名って、彼は役者なのだろうか? 格好も、ある意味ではそれらしいと言えなくもない。
なるほど、あの宮田先輩が役者なのもそういうことだったのか。名前が芸名っぽいのはそういうことかと、勝手に完結し始めた俺に否定が降ってくる。
「宮乃院は代々、宮の名を持つ親類縁者の中から才能のある者を養子に取り、宮乃院一族の当主に据えてきたのだ。歴史の表舞台にその名を残すことがないようにと、形式だけの養子という形にしている。だから私の戸籍は宮田家にある。本名と言ったのは、ここでは影雪と呼ばれているからだ」
「そうなんですか」
間抜けな返答しかできなかった。なんで表舞台に名を残しちゃダメなんだとか、なんでこの中だけでそう呼ばれているのかとか、色々と気になることはあったが聞けるような立場にないから止めた。
とにかくなんかすごい人、という認識でいいんだろうか? 宮崎さんの驚き方から察するに、まさかこんなところで遭遇するとは思っていなかったようだし。
ていうか、さっき宮田って言わなかった?
「あの、宮田っていうことは…」
「そうだ。私は、基春の兄だ」
「お、お兄さん」
に、似てない……いや、顔がじゃなくて、主に言動が。このお兄さんの落ち着きっぷりが逆に、宮田先輩のような破天荒弟を生み出してしまったのだろうか? どちらにしても、兄としてあんな弟っていうのはどういう風に映るんだろうかと気になってしまう。
俺だったら溜め息ものだが、このお兄さんだとどうなるんだろうと思っていたら、お兄さんは聞こえるか聞こえないかの小さな声で呟いた。
「本当は、私よりも基春の方が才能があるんだがな」
「え?」
言っている意味は分からないが、何やら逡巡している模様。どうかなさったんですかと聞くべきか否か迷っていると、俺を呼ぶ声が近付いてくる。
言わずもがな、宮田先輩だ。
「大ちゃ~ん!! もう、こんなとこに居たの? 俺、めちゃくちゃ探したんだからね!」
「はぁ、すみません」
俺のせいじゃなくて宮崎さんのせいなんだけど、何で俺が謝っているんだろう。俺は有無を言わせず連れて来られただけなのに。
俺を見つけるついでに宮崎さんに気付いたらしい宮田先輩は、やっほ~ってなノリで宮崎さんとの再会を喜んだ。
「久しぶりだねぇ~ヒコ! 確か、カナダに留学してたんじゃなかったっけ? こっちに戻ってきたの?」
「モト君、久しぶり~!! そう、向こう行ってたんだけどさぁ~なんかぁ~」
すっかり話し込みモードのお二人。どこか女子高生っぽさが見え隠れしている会話だな。
というかあなた方、このままこちらの御方を無視しちゃっても宜しいんですか? あんた達が話し込んじゃってるせいで、こっちはめちゃくちゃ気まずいんですが!
「君」
「は、はい!」
急に呼ばれて驚き、ちょっと声が裏返ってしまった。最高に恥ずかしい……
お兄さんは、もう一度じっくりと俺の胸辺りを見、俺に視線を戻す。
「動物の持ち込みは禁止だぞ」
「え…」
「基春、今度本殿に来なさい。話したいことがある」
「はい……説教、じゃないですよね?」
宮田先輩は、若干口元を引きつりながら苦笑い。どうか後生ですからお説教だけはな空気を醸し出す。
いやそんなことよりも、なんか今凄いことを言われちゃったような気がするんだ。聞き捨てならないとんでもない言葉を!!
「いいから、来なさい」
「は~い」
お兄さんは、ちょっとの呆れを滲ませながらもう一度強く繰り返し、宮田先輩は諦めたように返事を返した。それを確認したお兄さんは、踵を返して去っていく。
いや、だから! 俺、凄いことを指摘されちゃったんだってば!! ど、動物の持ち込みは禁止って……ナ、何ノオ話デスカネ? 冷や汗が滲んでくるが、それに気付いている者は今のところいない。
強張った表情を浮かべる俺に、宮田先輩は首を傾げる。
「大ちゃん、どうしたの?」
「取り合えず、今はほっといて貰えますか」
俺は今、あんたの相手している暇はないんだから!
だってあの人、クウィンシーのこと気付いちゃってない? 何故!? 誰にも見えないように、ちゃんと魔法かけてもらったのに。しかも動物って……いや、分類的には確かに動物っぽい見た目だけど、魔族って動物なの?
色々あった宮田家パーティー。また一つ、大いなる悩みを抱える出来事となった。
そのことを友人達に話すと、色々な憶測が飛び交うこととなった。これといって明瞭な答えを導き出すことはできず、結局、見抜いていたんだろうということしか分からなかった。
ひとまず、シュレンセ先生のところに行ってみよう。俺の不手際で正体がばれそうになったわけではないにしても、こういうことがあった場合は一応担任に報告するのがこの学園での義務だしな。
それなのに、こういう時に限って担任のはずのアイガン先生が居ないんだから困ったもんだ。
放課後シュレンセ先生のところへ行くと、シュレンセ先生とラクター先生、何故かカイザードがいた。ちゃんと仕事してんのか疑問に思ってしまうぐらいの遭遇率だな。
昨日起きたことをすべて話すと、特に表情も変えずにでしょうねぇな反応をされた。まるで、こうなることを予期していたかのよう。
「どういうことです? 先生はこうなることが分かっていたのですか?」
「えぇ、彼等の一族のことはよく知っていますから」
「安心しろ。彼等は決して敵じゃない。ただ、そういう特殊なものを持っている一族なんだ」
どういうことだかさっぱりだが、シュレンセ先生とラクター先生が言うのだから大丈夫なんだろう。特殊なものを持った、ねぇ。安倍清明所縁のなんちゃらって建物があったくらいだから、第六感的なものを養う力を持っているのかもしれない。
例えば超能力、とか……いや、この場合霊感体質って方が一番それっぽいか。前に、宮田先輩も霊感体質なんじゃないかって思うようなことがあったし、もしかしたら一族的にとういう人が多い家系なのかも?
どっちにしても、特に問題ないならこのままでいいかと報告だけ済ませて、さっさと帰ることにした。
お腹が空いたのか、しきりにゴハンゴハンと連発しているクウィンシーを連れ、『潤しの源泉』に向かう。やっとご飯が食べられるぞと嬉しそうなクウィンシーに、呆れを含んだ笑顔が浮かんでしまう。
これは早く帰らなきゃなぁと視線を『潤しの源泉』に向けたところ、上から下までほぼ真っ黒な姿の男性達が門の前に立っていた。その内の一人はコンラッドさんだったのだが、何故こんなところにいるんだろう? 他の魔族に比べて、ほぼ夜間にしか活動しないヴァンパイア族の方がどうして?
その疑問は、コンラッドさんと目が合うことで解決される。あぁなんか、俺に用があるっぽい? 視線が交わった瞬間、用件の主要人物が俺であると察した。




