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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第一章
27/141

26

 一瞬冷や汗をかくような気持ちになるも、無事に俺達は夢現界にやって来た。俺的には、今すぐにでも回れ右して返りたい気分である。

 正直、俺がこんなこと思う時点で驚かれるだろうが、夢現界ビギナーな彼等をこの世界に連れて来ることの方が胃が痛いんだからしょうがない。去年の大変さ再びってことにならないとも限らない。


「ねぇねぇ大介!」

「なんだ」


 人が考え事をしているってのにそれを邪魔して声をかけてきた皇凛。浮かれてますと顔に書いてある表情のまま、不機嫌そうな俺の態度も気に留めず、とんでもないお願いを…


「こっちでは俺等、初心者じゃん? だからさ、自由行動の時は大介が引率してよ!」

「…は?」


 何か今、激しく面倒な役回りをやれと要求しなかったかこいつは。というか、自由行動なんていうのがあるのか?

 なんかそれ、学校行事の一環で海外旅行に来た外国人学生が、集合場所に戻れなくて迷子になっちゃったっていうケースを容易に連想させるんだけど。

 魔法使いだとばれないように気をつけてるっていう割には、そういうとこがアバウトなのは謎だ。欧米ナイズされているっていうか、無計画すぎるっていうか…

 そこに来ての彼等の要求。そりゃあ確かに、日本語が分からない或いは日本語が分かっても生粋の幻想界育ち、な彼等からしたら俺が頼りなところはあるんだろうけど…どうして俺?

 他にだってほら、純一とかいるわけだし…


「僕も大介に引率してほしいなぁ…してくれるよね?」


 笑顔による明らかなる脅迫。アルテミス先輩の高圧的な言葉は、俺に逃げ道が存在しないことを悟らせる。

 まさかとは思うが、この先ずっとこの調子で嫌々ながら引き受けなきゃいけなくなっていくなんてことには…ならないだろうな?

 最近、頓に逆らえなくなってきている気がする。いや、気をしっかり持って闘わなくては!

 そうは思っていても、後が怖すぎて逆らえない。結局そうなる気がする。





 学園から出るまでの道すがら、授業中にもかかわらず教室からは物凄い視線を感じた。好奇な視線を寄せる生徒達からは、とても授業中とは思えない歓声や奇声が上がる。

 その度にわざわざ校長先生は手を振って見せるもんだから、中には狂喜乱舞で失神しているのもいた。

 こういう時、特別クラスの校舎が正門から一番遠いところにあることを非常に恨む。中庭を抜けて校舎に向かうのに、この制服の特徴と合わさって視線が突き刺さることはしょっちゅうだ。

 今回は一般生徒達が憧れる特別クラス生徒総出ということもあり、野太い歓声を一心に受け止めるのは非常に不愉快だった。

 因みにここは男子校舎。女の子のいる校舎は遙か遠くである。

 残念すぎる事実に一気に疲れが増すのだが、更にこの状況で聞き覚えのある人の力強い声が木霊するではないか。


「だぁ~いちゃぁ~ん!!」


 なんだろう、幻聴? それにしても本当、聞き覚えのある…


「高崎大介く」

「はい、なんでしょうか!?」


 フルネーム呼びされ、思わず大声で答えてしまう。日頃から俺と宮田先輩の親密さに嫉妬している奴等にフルネームを覚えられるのは嫌だと思い答えたが、もう手遅れだった。

 その上、俺が反応したことに大喜びな宮田先輩のはしゃぎように激しい頭痛を覚える。もう一つ、頭痛の種となっているのは…


「あんなの無視すればいいのに…」


 ぼそりと呟かれたあのお方の言葉。不機嫌を声色とオーラで語る、俺の背後に居る人。決して、後ろを振り向いてはいけない。今振り向いたら、確実に悪魔と遭遇するから。

 そんな葛藤など露知らずな宮田先輩は、尚も手を振って自己アピール。


「だいちゃ~ん!! 今日の放課後暇~?」


 その疑問はまさに、今日の放課後用事があると言わんばかりの言葉であったが、宮田先輩が聞いてきた直後、背後から暗く重たい張り詰めた空気が立ち昇る。その重苦しいものの発生源は、俺の後頭部に痛々しい視線を突き刺した。

 僕との約束はどうしたの、どうしてすぐに断りの言葉を言わないの、まさか放課後は暇だって言う気じゃないだろうね、そんなの絶対許さないよ、分かってるの、ねぇ大介?

 オーラでそう俺に語りかけてくるアルテミス先輩の言葉に、勿論ながら今の俺が勝てるわけはない。

 実際、今日は昨日のこともあってアルテミス先輩の言うことを聞くって不本意ながら約束したんだし…

 しかしどうやって宮田先輩に断ればいいんだ? こんなに離れてるんじゃ、俺の言葉を適切に聞き取れるとも思えないんだが…


「お困りのようだね大介!」

「は…?」


 なんか踏ん反り返りながら腰に手を当てて目の前に現れた皇凛。アルテミス先輩じゃあるまいし、人の心を読んで言った言葉ではないだろうけど、何かを企んでいる顔である。


「声帯拡声薬ぅ~!!」

「いらん」


 人体実験できるかもと思い、瞬間的に考察力の上がった皇凛に間髪入れず返し、嬉しそうに取り出した瓶を撥ねつける。そんなものを飲むなんて、冗談じゃないぞ。


「えぇ!? 即答!?」

「お前の持ってきたものなんて、怖くて口に出来ない」

「酷い! 困ってるかと思って出したのに!」


 そんな押し付けがましい親切はいらないと俺が更に畳み掛けると、皇凛は李先輩に泣き縋った。なんか昨日も見たなこれ。

 それはさて置き、このまま何も答えを出さないのはこの事態を見守っている面々の心証が悪すぎる。最も、俺が特別クラスの時点で理不尽な逆恨みを向けていた人達の心証はどっちに転んでも同じだろうが…


「だぁ~いちゃ~ん!! 聞こえてる~?」

「聞こえてます!! 今日は無理!! 以上!!」


 肺にたくさん空気を送り込んで、渾身の発声力を搾り出した。

 俺的には叫んだのと大差ない感じだったが、この音量ならば聞こえているはずだと思っていると…


「え? ごめぇ~ん!! よく聞こえなぁ~い!!」


 な、なんだとう!? てか、あれは…


「彼、聞こえていたのに聞こえていないふりしてるね」


 ですよね。なんかあからさまに、聞こえてませんよぉ~な顔してるもんな。


「まぁ、どうやら聞こえていたらしいし、もう行こう?」

「はぁ、でも…」

「大介」

「っ!?」


 がっしりと、それはもう俺の心境的には魔物の手に掴まれたような気分で己の肩に視線を流した。

 アルテミス先輩の有無を言わさぬ意志が、俺の意思を無視して強制する。


「彼に構って時間が無駄になるなんて僕は嫌なんだよ。分かるよね?」

「……はい」


 肩に置かれた手と、耳元で囁かれた優しくも凄みのある声に従わざるを得なかった。その後もなんか宮田先輩が言っていたが、残念ながらもう俺の耳には届いていない。





 なんか学園を出るだけで疲労困憊してしまいながら、未だ肩に乗っかったままの悪魔の手に意識を集中させながら歩いていた。だからもう、何処をどう歩いていたかなんて覚えていない。

 しかし、幻想界育ちの彼等が一番物珍しいであろう場所へと向かっていることだけは分かる。

 まずは立ち寄った駅構内で見た山手線の円形の路線図を見て皆が驚き、そのまま一車両貸し切ったらしい車両に乗って秋葉原へ。貸し切るなんて、なんて非常識な…

 一体いくらつぎ込んだんだという疑問はさて置き、電車に乗るだけでも大興奮な友人達を見てうな垂れながら、俺達は電車を下りて目的地へ向かった。

 魔法を駆使すれば何でも出来る故に、電気と呼ばれるもので動く電化製品に興味があったらしい一行を連れ、何故か家電量販店に到着。

 いや、分かっている。普通の社会化見学などでは、まさかまさかに家電量販店には来ない。修学旅行にしたって、そういうケースは稀だろう。なのに…


「うわぁ~!! 見て見て! この板、映像が映し出されて動いてるよ!?」

「こっちも、なんか箱から音が出てる!」


 皇凛と蒼実は、互いに興奮気味にあれこれと指差しながら近寄って行って驚いている。頼むから、もっと普通にしててくれないだろうか。

 唯一つの救いは、俺達が使っている言葉が幻想界の言語だということ。これなら多少変なことを言っても大丈夫だが、だからと言って行動でそれを示せば意味がない。

 きっと今頃、店員達は彼等の興奮する姿に驚いているに違いない。異様なほどの盛り上がり方だからな、こいつら。


「あ、あれなんだろ…うぐ!」


 早速皇凛が離脱しかけたので無言で引き止めた。どうやって引き止めたかなんて、あえて言わないけど。


「ちょっ…首! 首、絞まって!」

「暴れるからだろ。俺はただ、制服の襟ぐりを掴んでるだけだ」

「そうだけど! いや、明らかに上に釣ってるじゃん!」

「まさか…まぁ、猫を掴むように掴んではいるけど」

「俺が言いたいのはまさにそれなの!」


 じたばたと暴れて逃れようとする皇凛。今までの言動から目を離すわけにはいかないと学んでいる俺は、梃子でも離さない。

 そのうち諦めた皇凛が、自分から俺の制服掴んでいるからと苦しげに訴えてきた。正直、その言葉を信じていいものかどうか大変迷ったが、だったらと俺と手を繋いでいることで手を打った。

 俺的にはぜっったいに嫌な行為だけども仕方ない。皇凛自らが掴んでても、こいつが何かに気を取られて手を離した直後に意味がなくなると思うからこその提案だったんだが…


「そんな…僕とですら手を繋いでくれないのに、皇凛とは繋ぐなんて…」

「皇凛は、俺がちゃんと見てるから、ね? だからそれだけは…」


 アルテミス先輩のどうでもいい発言は無視するとして、李先輩の発言に関しては反論させて頂こう。


「そう言って二人して離脱という可能性がある限り、それは駄目ですね」

「だけど…」

「一昨日と昨日のことで、もう懲りて下さいよ李先輩」

「うっ…」


 それを言われると痛いのか、李先輩はシュンと落ち込んだ。よし、これで丸め込めたようだ。


「ねぇ大介。僕のことは無視?」

「アルテミス先輩には別に、言うことないですから」

「へぇ、そんな態度取っちゃうんだぁ…」


 な、なんだ? なんか物凄く嫌な予感が…


「今日の放課後が楽しみだなぁ」


 これでもかといい笑顔で、アルテミス先輩は俺へのお願いとやらのことを安易に示して脅した。なんか、今朝言い淀んで結局言わなかった言葉よりも、もっと大変なことを要求されるような気がする!

 アルテミス先輩の一挙手一投足に怯える日々は、まだまだ続きそうである。

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