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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第一章
24/141

23

 その後の彼等の話から、決定的な出来事の後王子様達がそれぞれ王宮を去っていったのだという。

 しかしそれに関しては明確な答えを言わず、口籠った。きっと、口外できない事情があるに違いない。

 ヴァルサザーやベネゼフ、そしてアイガン先生やアルスター先生の神妙な表情から、内情までは察することはできないとはいえ口を挟む余地がないことは明白だった。

 再び舞い降りた重い空気の中、校長先生が続ける。


「少なくとも、事の発端はランヴォアールでの失踪事件なんだ。もう随分とそんなことは起こっていなかったとは言え、我々も警戒を怠っていた責任は大きいね。今回は無事に戻って来れたからいいものの、かつてのように君も消息を絶ってしまっていた可能性は高いんだ。だからこそ、こうして君が無事に戻って来れたということに心底ほっとしているよ」


 話が俺の方に修正されたことと視線が集中したことに多少の居心地の悪さを感じたが耐えた。心配していたということがありありと感じられる視線だったからだ。

 あの闇は一体なんだったのかと問おうとしたのだが、後ろの扉がノックされて止める。


「コンラッドかい? 入ってくれ」

「失礼する」


 重厚な扉が開くと、昨夜のコールディオン周辺で出くわしたあのヴァンパイア王の側近がいた。脱走した皇凛達を保護してくれた…というより、皇凛に捕獲されたコンラッドさんだ。

 何故彼がと思ったが、俺が失踪しかけたことを考えれば、皇凛達だってそうなっていてもおかしくはなかったはず。

 保護した経緯とか、状況を聞くためなのかもしれない。


「コンラッド、昨日ぶり。王子様達には会えたかい?」

「愚問だ」


 ベネゼフの質問を即座に跳ね除け、ベネゼフの隣の席に腰かけたコンラッドさん。

 一瞬、この二人は仲が悪いのだろうかと思ったが、コンラッドさんからはベネゼフを嫌っている雰囲気はなかった。多分、本当に愚問な質問過ぎて相手に出来ない、と思ったのだろう。

 しかし、その視線が俺に一点集中していることがいささか気になる。何の感情も見せない瞳でただ見つめられたら、さすがの俺も内心ドギマギするのだが…

 なまじよく知りもしない相手である。真意の読めないその瞳に気圧されても致し方ない。

 どういう意図の視線なんだと困惑していたら、校長先生がコンラッドさんに話しかけた…って、あれ?

 今思えば、ヴァルサザーやベネゼフのことを呼び捨てなのに、なんでコンラッドさんは敬称が付いてんだろ? ちょっとそんな関係ないことをふと疑問に思う。


「君は昨夜、そこにいる李くん達を保護して下さったそうだが、その時変わったことなどはなかったかい?」

「いや、私が知る限りではない。人がいることは気配で分かっていたが、どうやら未熟な魔法使いのようだからと放っておいた。そうしたらなんの警戒もなしに近付いてきて、血がどうの研究がどうのとマントに縋りつかれたのだ」


 その発言を受けて推測されるのは、青白い光の正体を探りに行ったくせにヴァンパイアを見つけて急遽目的を変えた、という皇凛の姿である。

 いや、そうだとは思っていたけど、その推測を完璧に裏付けられた感じだ。しら~っとした視線を皇凛に向けると、ビクッと身を縮めて李先輩に強くしがみ付いた。

 どうやらわざわざ説教しなくても、すでに悪いことをしたという自覚を持って罰は受けているようだ。ならば、もう少しこれで皇凛を反省させてから許してやろう、と視線を校長先生に向け直した。


「では、『魔神の后土』の辺りに出現した青白い光は見ていないのかい?」

「残念ながら知らないが…なんだそれは」


 『魔神の后土』という言葉に、コンラッドさんは眉を顰めて校長先生に尋ねた。しかし、その答えはベネゼフが語る。


「私とヴァルサザーはね、その光を上空から見てそれであの周辺にいたんだ。そこで、君が保護した脱走者君達を探しているという彼等に会って、光のこともあるし、我々が同行する方がよいだろうと彼等の捜索に加わったんだよ」

「それで私と出くわした、ということか」


 納得したように頷いたコンラッドさんだったが、今度は青白い光というものの正体を知りたがった。


「それで、その光とやらは何だったのだ」

「それが分からなかったんだよ。というか、探る前に彼等と遭遇してしまったのでね」


 苦笑を漏らしたベネゼフに、なんとも申し訳ない気がした。俺達が…というより皇凛が脱走しさえしなければ、光の正体を探れていたかもしれないのに…

 俺達のことを優先して不審な光の追求を止めてしまっただなんて、あの時追求しておけば、なんてことにならないことを祈るしかない。

 しかし、それであの周辺に彼等がいたことに納得がいく。目下警戒中、という状況で見つけたことだったから地上に降りていたんだろうな。

 そうでなければ、闇夜にドラゴンの姿のまま地上に降りている意味などないだろう。地上にいるよりも上空の方が警戒しやすいはずだから。

 ベネゼフの答えに興味をなくしたのか、コンラッドさんは追求を止め、また俺に視線を向けてきた。俺を見ているようで実は隣の皇凛を見ている、ということであってほしいと心の底から思ってしまった。

 何故俺を見るんですかね。そう思ったのはどうやら校長先生もだったようで、そのことを尋ねた。


「大介くんがどうかしたかい?」

「いや、随分と強い闇の力を持っている子だなと思ってな。昨日も思ったが…」


 強い闇の力? まさか…力の発動が不安定な俺が、強い魔力なんて持っているはずがない。

 しかしそんな否定も、シュレンセ先生やヴァルサザーやベネゼフの言葉にただただ驚かされるばかりで…


「よく気付かれましたね。私が施した魔封じは効いていませんでしたか?」

「いや、よく効いているが、さすがに我々のような高位に位置する魔族には分かってしまうだろう」

「私達も、未熟だから気配を殺せなかったというのも含めて、彼の魔力でその存在に気付いたんだよね」

「あぁ、随分と優秀な闇属性だ。魔力の練り方を修練すれば、高位の魔獣を呼び出すことなど造作もないだろう」


 褒められても嬉しくない。いや、確かに魔獣を呼び出してしまったけどね。一昨日の二時限目に…

 しかしあれは不可抗力なものだったし、全然俺の言うことを聞くような代物じゃなかった 何より、暴走したブラックウルフほど恐ろしいものはないと思い知らされたばかりだ。呼び出せる技術が身についても呼び出す気はない。

 それにしても、魔封じってなんの話だろう? 疑問を感じ取ったシュレンセ先生が話してくれる。


「君とロイドくんは、闇属性の中でも非常に強い魔力を持っています。しかしまだ未熟ゆえ、君達には魔封じをかけているんです。それは蒼実くんにも言えることですが、君達3人は、特に魔封じを施さないといけないほど力が強すぎたんですよ」

「未熟なまま魔力が高いと、本人の意図せぬ力が暴走して溢れ出す恐れがある。それを防ぐためには、一時的に君達の力を抑制する必要があったんだ。君達が己の力を自らの力で屈服させるまではと思い、私とシュレンセ先生とで力の暴走を止めているんだよ」

「それが返って君の力を不安定にさせているのは分かっていたのですが、君達の潜在能力は今の君達では扱いきれないんです。ですから君達には何も言わず、勝手に力を封じていました」


 心底申し訳ないといった表情のシュレンセ先生と校長先生。でもそれは俺達のことを思ってのことなのだから、別に申し訳ないことでもない気がする。むしろ、感謝こそすれ責める理由はないような…

 それにしても、ロイドや蒼実が強い魔力を持つのは分かるけど、どうして俺まで? 俺なんか、本当に普通の家庭の生まれだし、特別変わった祖先を持ったということも聞いていないんだけど…


「祖先や生まれは関係ありませんよ大介くん」


 タイムリーな返答に、本当にシュレンセ先生には心が読まれているんだなと思った。

 アルテミス先輩にも若干読まれている気がしないでもないけど、それがシュレンセ先生だと思うと恐れがないのはやはり人徳の差、か。

 それにしても、この一連の問題が一つに繋がっているのだとしたら、それは一体何を意味するのだろう。湖畔で会ったスヴェンに関しても、何かこの件に関係があるのか。

 何かしらの意図を感じながらも、その繋がりが一切見えてこないことがなんだか不気味だ。

 俺が難しい顔をしてしまったからか、校長先生は話をコールディオン岩壁とランヴォアール湖の件に戻した。


「ところで、君は突風に押されて崖へと落とされたと言っていたが…それはどんな風だったんだい?」

「衝撃波、のような?」


 自信なさげに言うと、今度は皇凛に話しかけた。


「君も隣にいたのだろう? その風の影響は受けなかったのかい?」

「えっと…それがぁ…」


 言いにくそうに言い淀む皇凛。チラリチラリと視線を送って来ながら、なにやらモジモジしている。


「俺は、そんな風は感じなかったんで…」


 一瞬何を言っているんだと思ったけど、確かに一瞬だけ見た皇凛にはなんの変化もなかったような気がする。 いや、突如のことなんで自信はないが、それでも俺が風に落とされたのは事実だ。

 なのに何故? そんな時、お隣からの呟きが聞こえた。


「風属性の高等魔法の一つですね。『閉切』と『突波』の複合技である『静風激波』」

「なんですかそれ」


 聞き慣れない単語に疑問を投げ掛けると、アルテミス先輩は至極真面目な顔で説明してくれた。


「閉切とは空気の流れを遮断する技で、突波とは強い風を一転集中でぶつける技だよ。そしてそれを複合した技が静風激波。一方は強い風により弾き飛ばされるが、もう一方はそれを何かに弾き飛ばされたように吹き飛んでいったとしか認識できない技だ。本来空気の流れは繋がっているけど、それを閉切されているせいで空気の動きを感じられない。だから君が風に吹き飛ばされたのを、皇凛くんは気付かなかったんだ」

「うん、そうだよ! とにかく、何がなんだか分からないまま大介が弾き飛ばされて行ったんだ!」


 アルテミス先輩の推測に皇凛が頷く。それが事実ならば、一体誰が何の目的でということになりそうだが…

 それこそがまさにこの事件の鍵なんだろうけど、探り当てるのは至難の業だよなぁ。


「僕達の他に魔法使いや魔族がいた、ということでしょうか?」

「う~ん…その情報だけではなんとも言えないが、少なくとも自然風ではないことは確かだね。君が飲み込まれたという闇に関与する者が、風属性の力を持つ者にいるということだ。それを踏まえると、嫌な想像が過ぎるね」

「嫌な…って?」


 思わず尋ねると、校長先生は疲れたように眉間を揉み解した後神妙な面持ちで口を開いた。


「君を闇に引き込もうとした者がいることは確かだ。けれど、それならば闇属性だけの問題として犯人を絞り込めただろう。しかし…他にも協力者がいるのだとしたら、それが属性を越えて存在するのだとしたら、犯人特定に至るまでには大変な時間を費やすことになるだろう」


 思わず息を呑んだ。つまりそれは、どの属性に協力者がいるかも分からない、ということを意味している。

 まさか一人一人探るわけにもいかないわけで、となると今のところは防衛以外に打つ手は乏しいということになる。


「500年も解決しなかった問題だ。とにかく今は、慎重な行動の上に特別な監視を怠らないようにしなければならないね。しかし…」


 それ以上は言葉が続かなかったようで、そのまま何も言わずに疲れたように革の椅子に背を預けた。 溜め息を吐いて再び眉間を揉み解し、防衛以外の方法を選べないことに嘆いているようだ。

 そんな校長先生に代わり、シュレンセ先生が落ち着いた声で続ける。


「今の状況下で出来ることは防衛以外にもありますよ。少なくとも、マオが大介くんの護衛をしながらも何者かの力によって実体を保てない状態にされたということは、大きな意味を持つと思います」

「え…マオが、実体を保てないって?」


 あの時、落ちている時にマオが弾き飛ばされて彼方上空に…と言っても、俺が落下していたからそう見えただけだけど、結構な高さがあるから消えてなくなったようにも見えた。

 だけどまさか、本当に消えていたと? そんな…じゃあ、マオはどうなったんだ? 実体を保てないって、余程のことじゃないか。

 心配する俺に、シュレンセ先生は微笑みと共に諌めて、マオは無事だと話してくれた。


「かなり消耗はしていますが、なんとか大丈夫でしたよ。君を助けようと君に力を注ぎ込んだ状態だったので消耗は激しかったようですが、少なくとも、マオを攻撃した力は闇属性。それも、深く暗く重い闇の力のようです」

「でも確か、マオは階級を取得した使い魔ですよね? そんな強い使い魔が、実体を保てないほどってのは…」


 そんなの一大事ではないか。

 階級は、魔法族や魔族などに仕えている使い魔の中でも特に選抜された優秀な者にのみ与えられる称号で、年齢や主の魔力に応じて与えられる。使い魔にとってはとても名誉ある称号で、一朝一夕に得られるものではない。

 称号を得た使い魔は他の使い魔達の模範とも目され、魔力・実力共に人格をも買われた者にのみ与えられる栄光なのだと…

 確かマオは第三級・ジェネヴァ。ジェネヴァの称号を得るということは、実質最上級の位にいるのと同じのはずだ。

 何せこの世には、第二級以上の階級を持っている使い魔は存在しないから。そんな彼が何故、実体を消失するほどのことになったんだ?


「単に力が及ばなかった、ということが大きいでしょう」


 その瞬間、マオの実力を知る誰もが息を呑んで騒めいた。マオですら敵わない相手とは一体誰なんだと、誰もがその事実に打ちのめされたようだ。

 俺もその一人だったが…


「それだけではありません。いくら君の力が封じられているにしても、マオが力を注いで君の落下を防ごうとしたのにそれまでも阻止されたということは、計り知れない闇の魔力がそこに関与しているということは間違いないでしょう。本当に、それでよく戻って来れたと、奇跡に感謝したいくらいです」


 本当に良かったと心底ほっとしている表情を前に、俺も安心すると共にあの闇を本当に怖いと思った。

 あの闇を作り出したものは一体なんだったのか。そして俺はどうやって助かったのか。

 奇跡が本当にあるのだとしたら、一体どんな奇跡によって助かったのか知りたい。知らなければならない。

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