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幻想夢現遊戯  作者: らんたお
第一章
11/141

10

 さてどうしたものか。バトルの渦中に立たされている俺達には、逃げ場はありません。最悪だ…

 今朝の講堂でのキャストのままで繰り広げられる壮絶バトル。今朝よりも人目がない分、白熱しそうな予感。


「大方貴様は、ウィリアス様の血を目当てに教師に志願したのだろうが、そのような不純な動機で教鞭をふるうなど言語道断。しかも、己の欲望も制御できない貴族だなどと…いくらそれがヴァンパイアの本質とはいえ、恥知らずではないのか。こんな強行を許すとは、王家の求心力も高が知れている」

「な、無礼者!! 王を侮辱するなど、あってはならないことだぞ! 私のことを“貴様”などと、なんたる暴言か!」

「貴様など、貴様で十分。それより、己の言動が一番、王家を侮辱していることに気付いたらどうなんだ」

「なんだと!?」


 とこのように白熱したバトルが展開され、周辺の空気も緊迫していく。あまりの緊張感に耐えられなかったシャオファンは、プルプルと怯えていた。

 それは友人達も同じことで、この殺伐とした雰囲気に耐え難いものを感じて息をつめる。


 さっさとこのバトルを終わらせて下さいませんかねぇと、緊迫感のある中で余裕があるのは俺ぐらいか。後、ロイド。

 しかし彼等の戦いは終わらないようで、取り乱した気持ちを一旦落ち着かせながらも、嫌悪感をあらわにアルスター先生は冷たく吐き捨てた。


「ふん…全く、下賎な逸れヴァンパイア如きが、このヴァンパイア貴族様に楯突こうとは不届き千万。私達魔族の未来が危ぶまれるよ」

「別に魔族のつもりはないからな。それに、遊楽に浸るぐらいしか能がないお貴族様よりはマシだ」

「!? どこまでも侮辱する気か!!」


 さすがに血管が切れたのか、一気にヴァンパイアの戦闘態勢に入るアルスター先生。傍にいるだけでその気配に押しつぶされてしまいそうな圧力を感じ、俺達はどんどん苦しめられていく。

 かっと見開かれた瞳には、完全にヴァンパイア特有の色が宿っていた。

 瞳孔の開いた瞳に金の色を宿すのがヴァンパイアの能力の発動だが、それが朱色に染まると戦闘開始の合図。まさか、こんな場所で戦いが勃発するっていうのか。

 より一層身を縮める俺達だったが、そこでシュレンセ先生が仲裁に入ってくれる。


「お二人共。大変仲が宜しくないことはよく分かりましたが、曲がりなりにも教師である以上生徒達の前では模範でいて下さい。教師にとって一番大事なのは、自戒すること。中立と義を貫けないならば、教師でいる資格はありませんよ。さぁ、こちらにおいで。怖がらせてすみませんね」


 厳しく両名を諌めた後、恐怖で体を震わせ怯えるシャオファンを抱きしめるシュレンセ先生。こんな厳しいことを言う人だとは知らなかっただけに少々驚いたが、誰よりも生徒を大事にする人だからこその真っ当な言い分だった。

 怒られた直後はさすがに息をつめて驚いていた両名だったが、シュレンセ先生が何を思ってそう言ったかが分かったようで一気に空気が和らぐ。


「いやはや、すまなかったね君達。どうにも、ヴァンパイア貴族と知っても尚楯突く輩がいたもので、つい我を忘れてしまったよ。しかし逸れ者如きに熱くなるとは、私もまだまだ未熟だ」


 端々に棘を挟みつつ、アルスター先生は嘆くポーズでオーバーに憂えて見せる。なんていうか、悪い人ではないのだろうけど、どうにもこの人は信用できない。内に獣を飼っているように思えてならないっていうか…

 無論、ヴァンパイアなのだから獣の本性を持っていて当然なんだけど、どこか自分にとって不利益になる者には容赦しない獰猛な部分が見え隠れしていているっていうか、ね。それがヴァンパイア本来の姿なのだとしても、どうにも相容れないものを感じずには居れない。


 それに比べてラクター先生は、随分と人間味溢れたヴァンパイアだ。まぁ、元々魔法使いだったらしいから、純血種のヴァンパイアと違って人間味が残っていて当たり前だけど…

 それにしても、ヴァンパイアとしての本能がまったく表に出てこないってのには驚きだ。


 ヴァンパイアは、その例外なく本能が強く現れる時があり、本能に従っている時は非情な獰猛性を発揮するのだと聞いていた。だけど、ラクター先生にはそんな兆候は見られないよなぁ…何か、特殊な訓練でも行っているのだろうか?

 そういえば、アイガン先生の授業で、無理やりヴァンパイアにされたヴァンパイアを侮蔑する言葉として使われるのが『逸れ者』だと聞いた。それゆえ、彼等にとってそう言われることは屈辱的なことであり、普通ならそう侮辱されただけで彼等の逆鱗に触れるのだそうだが…ラクター先生は、至って涼しい顔をしている。

 見下されているというのに平然としているってことは、端っからヴァンパイアとしての誇りも自覚も憎しみも持ってはいないということなのだろう。


 魔族三大種族であるヴァンパイア族には、上位に王族がいる。その下に貴族がいて、その下に逸れヴァンパイア、更に下に人型のヴァンパイアと獣型のヴァンパイアがいる。

 王族や公爵・侯爵家はほとんどが純血種で、伯爵家以下は混血種なのだという。

 混血とは、その名の通りヴァンパイアと人の血を分かつ子供であることと、ヴァンパイアにさせられた人間のことであり、貴族階級の場合は主に前者、後者がそれ以下の者とされている。因みに貴族家の使用人はすべて、後者のパターン。

 ヴァンパイアにさせられた、という言い方をしたように、ほとんどの場合が自ら望んでヴァンパイアになることは稀で、望まずしてヴァンパイアにさせられた者の方が圧倒的に多いのだという。

 それもそのはず、王家に仕える使用人達の多くは貴族家から奉仕しているため、自分達貴族家に仕える者は人間を代用していたのだそうだ。しかし人間の寿命は短く、その度に人を変えねばならないなど手間がかかることと、人が近くにいると吸血本能が刺激されることを理由に、王族が使用人をヴァンパイアにすることを許可したのだ。

 だが、そのせいで人型のヴァンパイアの数が増え、しかもヴァンパイア化させる行為に快感を得た貴族達の狩猟本能が抑えられなくなり、一部の者達が勝手な行動をとるようになった。

 それは貴族達の間で行われていた、娯楽を目的としたハンティング。『狩る』ことだけを目的として人間を追い詰め、ヴァンパイア化にした挙句放置する非生産衝動的娯楽。

 そんな彼等のことを、マッドヴァンパイアと読んだ。

 今でこそその悪習は失われたけれど、その行為のせいで多くの人型ヴァンパイアが世に放たれてしまい、人々を震え上がらせることになった。


 いくら人間達との折り合いが悪いとはいえ、さすがに彼等を放置しておくことの出来なかったヴァンパイア王は、まずヴァンパイア族としての品位を損なう過ちを犯したマッドヴァンパイアを厳正に処罰し、奇行の目立つ逸れヴァンパイアに至っては改善の余地なしと判断されれば処分してよいと通達を出した。

 例え一部の者の犯行とはいえ自分達の過ちの上で生まれた者を殺すだなんて信じがたいことだが、自然の摂理に反するという理由で已む無く殺めることもあったのだという。


 とはいえ、逸れヴァンパイアでありながら奇行に走る者はその頃にはすでにほとんど居らず、しかし当然ながら当然なことにヴァンパイアに対していい感情を持つ逸れヴァンパイアはいなかった。ほとんどの者が頑なに心を開かず、自分達のことを魔族だと認めない者も多いのだそうだ。

 まぁ、それは当然だと思う。なりたくてなったわけでもなくヴァンパイアにされ、しかも生きていくために絶対に必要な吸血行為のスキルを教えてもらえず見捨てられた。

 これを世の中ではネグレクトというのだけど、当時のマッドヴァンパイア達は当然知らない。それにしても、元人間だったとは思いたくないような、悪魔の所業だと思う。


 現在では、人型のヴァンパイアが問題を起こすことはなくなったが、今度は獣型のヴァンパイアが問題を起こしているのだという。

 凶暴性、狩猟本能、闘争本能も人型よりあることと、抑制本能がほとんど備わっていないことが一番の理由らしく、人型に比べて繁殖能力も高いせいで、その数は増える一方なのだそうだ。それらの状況から、獣型討伐という役目を与えることで貴族達の狩猟本能を抑えることに決めたらしく、今はもう人が襲われることはなくなった。

 まぁ、一瞬どっちが獣なんだか分からなくなってしまう情報だけども…


 皆が皆悪い人達ばかりではないんだけど、どうにも常識の通じない馬鹿がいるようでならないヴァンパイア族。その点においては人間にも同じようなのがいるけどねと思いつつ、魔族と人間との長きに亘る戦いを終わらせた功労者のことを思い出す。


 魔法族と魔族との戦いを平和的に終結させることを目的としつつ、獣型のヴァンパイアの後始末も条件の一つとして交換条件とされた少年。幼いながらに、既に光属性の神童的才能を持っていたとされる少年の引渡し。現在は、ヴァンパイア族王家の第二王子である。

 魔族というだけあって、闇に属するヴァンパイア。そこへ、貴重な存在でもある光属性の少年を譲るという決断はなかなか出来ない判断だ。戦況はますます悪くなるばかりとはいえ、天賦の才能を持った逸材だったのに…


 人身御供でもあるまいし、そんな非常識なことは普通出来ない。しかし、それを決めたのは他ならぬ少年自身。

 決して人類のために、とかそういう大義名分からではなかったと聞いたけど、そのせいで彼は…


 何を得て、何を失ったのか。その話を聞かされた時、感慨深くなったことを思い出す。決断はそれぞれだとは言え、ねぇ…

 ふと、視線を感じて隣を見れば、皇凛がずいっと顔を近付けてきた。


「大介ぇ? なんか眉間にシワ寄ってるけど、どうかした?」

「いや、なんでもない」

「ふぅ~ん…まぁ、いいけど。ていうか、ちゃんと話聞いてた?」

「え、話って?」


 まったく聞いていなかったけど…って、確かラクター先生とアルスター先生のバトルは確か終わったんだったよな? 考え事に夢中になってすっかり忘れていたけど、あの後一体どうなったのだろう…と思って正面を見たら、穏やかな顔のシュレンセ先生が、にっこり笑顔で見下ろしていた。

 えぇっと、どうかなさいましたですかな?

 動揺しつつも改めて周りに目を配ると、シュレンセ先生のお隣にはラクター先生が立っていた。さっきまではアルスター先生だったのに…どうやら、俺が考え事をしている間に去って行ったようだ。

 って、俺そんなに長いこと考え事してたっけ。


「大介くんは、本当に悩みの多い子ですねぇ」

「…言われてみれば、そうですね」


 なんでもかんでも悩みの対象にしてしまうだなんて、はっきり言って疲れるだけだろうに…これはもはや、性分ってやつだ。

 それにしても、思いがけない一悶着に巻き込まれはしたが、当初の目的であるドラゴンの卵をシュレンセ先生に渡したわけだし、そろそろ帰ろうかとなった。


「それでは先生、俺達はもう帰ります」

「そうですね。もう日も傾いてしまっていますから、皆さんの帰りが遅くなってしまったお詫びに、転送してあげましょう。どこがよろしいですか?」


 にっこり笑顔で言われてしまってはお断りも出来ず、仕方なしにそのお申し出を受け取ることにした。

 その直後、お隣さんから『潤しの源泉』で、という言葉が出てきて改めてお願いすることに。


「じゃあ、『潤しの源泉』でお願いします」

「えぇ。では皆さん、目を瞑って楽にしていて下さいね」


 瞼を閉じリラックスした状態で立っていると、指を鳴らす音が聞こえた。その直後、一瞬にして肌寒い風が吹き付けて、身震いする。そっと瞳を開いて確認したそこはすでに、『潤しの源泉』だった。

 さすがはシュレンセ先生だ…と、苦痛も感じることなく一瞬でテレポーテーションできたことに関心しながら、この分なら、いつの日か宇宙暦が刻まれたとしても安心だとか、この世界では無意味な宇宙科学に思いを馳せてしまう。


 数歩前に出て振り返り、友人達に改めてお礼を言う。


「見送ってくれてありがとな」

「うん、また明日~」

「あ、あし…明日、また…ね」

「明日の歓迎祭楽しもうね、大介くん」

「……」


 最後の人、何も言わないだろうって分かってたけど。マジで何も言わないんだな。

 とにかく帰ろうかと、皆に見送られながら、『潤しの源泉』をくぐって夢現界へ…





 魔術学園の存在を隠すために作られた特別クラスの校舎に戻ってくると、地下室の階段を上って外へ出た。そこでやっと息が出来るような気がしたけど…よくよく考えれば、こんな日々はこれからも続いて聞くわけで、しかも明日から3日間はお泊まりだ。

 溜め息しか…出ない…

 とぼとぼと校舎を出るため玄関を開けたら…サンダース先輩とアルテミス先輩が目の前にいた。


「あ…こん、にちは」


 そしてさようなら、と言いたいところだが、何とも嫌な予感がするのだが俺のことを待っていたっぽい。サンダース先輩の満面笑みはいつものことだとしても、アルテミス先輩の満面の笑顔はなんか怖い。

 という理由から、二人から視線をはずすしかなかった。


「よぉ、大介! ここで未来の代表に会えるとは思わなかったぜ」

「何を言ってるんだい、シロエ。大介は夢現界の実家からの登校なんだから、ここを利用するに決まっているだろう? わざとらしい言い回しはよしなよ。未来の代表にも失礼だよ」


 って、なんで未来の代表未来の代表って連呼するん…って、思い出した! 今朝会った時、次の代表にと言われていたんだった。あれだけ嫌だと言っておいたのにまだ俺を押す気満々らしい先輩方。時間がなかったせいでちゃんとこちらの意思が伝わらなかったんだとしても、嫌だって事実は変わらない。ここは一つ、ちゃんとお断りをしなくては。

 しかし、この強力タッグに太刀打ちできるのか、いささか心もとない。何より、俺が最も倒さなければならない相手はきっとアルテミス先輩だ。勝てる気が…しない。

 温厚でいい人なサンダース先輩を陰で操ってるような、そんな人なんだから…

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