「光の洞穴亭」のダジャレ王
「てことでブルーリーさん。ウチの食の安全性についてわかったかい?」
「フィーリ、雑! 最後が雑だよっ」
キメゼリフでビシッと締めると、ルフが前足で机をタシタシ叩きながらそう笑った。
「ぁあ?」
つられたようにミョルニーもあんちゃんも、メディーケご夫妻もフフッと笑う。
眉間に皺寄せて首を捻ってるのは演説の聴衆たるブルーリーさんだけ。
うん、みんなが笑顔なのはイイことだよ。ここは一つ、頑張っちゃおうかね。どうせなら全員笑わせたいもん。
「んなこと言ってないでさっさとボレ食べて…………ここ掘れ《ボレ》わんわん! ってね。あーはっはっはっ」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ぷっ! フィーリ、最高ですよ」
「…………」
ありゃ、反応いまいち?
日本の昔話ネタは高度だったかねぇ? ま、そんなこともあるだろうよ。
「……んじゃ…………今日のオルニはなかなかイイ味してオルニ?」
「……………………フィーリ……サムい……」
「おぉ!? ルフ、大丈夫け!?」
……………………おや?
アタシの渾身のダジャレに感動したのだろうか。ミョルニーの声に驚いて振り返れば、ルフが机に突っ伏してカタカタカタカタ震えていた。
「もしや拒絶反応か!?」
死角から飛び出したブルーリーさんが慌てふためいてルフに駆け寄る。他はさておき、一人だけ顔面蒼白だ。
まったく失礼しちゃうね。人狼には玉葱中毒だってないんだから。
「んなわけないだろ」
「…………ぃ…………キツいよフィーリ!!」
「ひ!?」
「っぃて!」
心配して覗き込んだとたん飛び起きたルフに、ブルーリーさんが大きく仰け反る。紙一重で交わせ……なかったようで、ゴツン! と大きな音がした後、細身の学者さんが崩れ落ちた。
ルフもおでこを抑えてか弱い鳴き声を上げている。
「あぁほら、大丈夫かい二人とも?」
まったく。余計なことを気にするホブゴブリンと余計なことをする狼だ。
「ご飯中は騒ぐんじゃないよ」
「くぅぅ……フィーリがそれ言う……!?」
ルフの呻きにあんちゃんがプッと吹き出し、ミョルニーとご夫妻が一緒に笑う。
どこまでも明るく大きいミョルニーの笑い声が宿中に響き、アタシまでなんだか楽しくなった。ホントに今日もイイ晩だ。
「ほらほら。ルフもブルーリーさんも無事だったんだから、冷める前に食べちまいなよ」
「……念のため、わたしが診ますかな? 治療は各自、ということになりますが」
「だぁいじょぶだって。魔族ってのは頑丈にできてんだろ? メディーケの旦那さんの手を煩わせるほどじゃないよ、きっと。それに十角には鎮痛効果があるからね、たっぷり食べればすぐに良くなるさ」
「ウフフ、そうね。フィーリのご馳走は万能薬みたいなものだもの。ここにいる限り、アタクシ達の出番はないわ」
「不思議ですよねぇ。わたしもフィーリのご飯を食べて温泉に浸かるようになってから、絶好調なんですよ。乾季はいつも翼のひび割れがひどかったんですけどねぇ」
万能薬は言いすぎだが、食材には本来持つ効能がある。魔力のある者が触れれば変質して弱まってしまうその効能も、人間が使えばそのまま薬膳料理として効能を増す。
むしろアタシにとっちゃ、魔族の薬師さんの言うことのが難しいねぇ。自分の魔力との相性で調合がどうとか、効果がどうとか。よくそんな難しいことを考えられるよ。
自然をそのままいただけばイイだけなのにさ。
ほら、カレーを食べると疲れーないって言うじゃないか。なぁんてね。あっはっはっはっ!