持ち帰り、初めました
アタシの自己満を満たすためにも必要だったから立ち上げた「ホラアナ亭グループ」。アロという戦力を得てからは急速に拡大しているものの、まだまだ、アタシの求める規模には足りない。理想はアタシが手出ししなくても回るレベル。現地で雇った人員が、現地人ならではの感覚で自主的に運営してくれるようになれば一番だ。
あくまで理想、高く見積もらなくちゃね。
残念ながら今は、家族経営の脱却を目指している最中、というところ。先は長い。コツコツ地道に頑張ろう。
とはいえ、こちとられっきとした専業主婦上がりの未成年。経営学を学んだこともなければ興味も持たずに生きてきた。知識は聞きかじりのバイトレベル。家計簿だって三日坊主でケセラセラ、考えるより感じろの感覚派だ。
それでも、事業拡大には資本金の拡充が必要なんだろうことはわかった。つまり、世の中金・金・金。「先立つ物」って言うくらいだし、お金がないと始まらない。
あんちゃんは簡単に、「そのくらいすぐ出しますよ」と言ってくれちゃうけど、そこは公私混同絶対反対! 今更感満載とはいえ、商会長となったからには自分で解決すべき問題だ。
利益を出す。でも、単価は上げたくない。人件費も削れない。となると……アタシの頭で考えつくことなんて限りがある。だから、悩むより片っ端からやってみることに決めた。
例えば……アイデアその1。「光の洞穴亭王都支店」のメニューを見直す。価格じゃなく、使う材料や注文方式を改定するのはどうだろう。
それでもってアイデアその2。持ち帰り販売を始めよう。
現状、テイクアウトは容器代も入るため、購入者にとって高上がりになってしまう。店に入りきらない富裕層が、時折買ってくれるとイイなというレベルのお値段だ。いっそ、容器も高級路線にしてみるか……?
運良く儲けが出ると嬉しいが、まずは試行錯誤するしかない。
「ただいま、ミーチャ。今日の予約はどうだい?」
「おかえり。昨日と同じ」
「ありがと。てことは、あんちゃんと兄さん経由の客が3人ずつに商業組合経由が一人だね。今日のメニューは決めたのかい?」
「……大人様ディッシュ」
「ははっミーチャはあれ、好きだよねぇ。あー、でも最近あんましやってなかったかも……? うん、んじゃ、それにしようか。
持ち帰りの予約は?」
「5件」
「ほぉ、ありがたいね。何食分だい?」
「150」
「…………ホントに……? は? 併せて150?」
「ミーチャ、手伝う」
結局アタシより二歳年上だったミーチャは、今年で成人を迎える。相変わらず口数は少ないし、喋るのが下手だけど、外見はおっとりと優しげなお嬢さんという感じに成長した。アタシの留守だって安心して任せられる。
化け狸族のミーチャは、周りから求められる姿を敏感に察して自身の外見を作る。そのせいで、ミーチャはすっかりアタシの家族に相応しい面影の女の子に育ってしまっていた。
ストレートの長い髪は、出会った当初は明るめの茶色だったのに、今では黒に近い濃い焦げ茶色に変わっている。すらりとした色白の四肢も、一見優しげな容貌も、パーツパーツもアタシと似ている。身長はミーチャの方がアタシよりほんのちょっと大きいから、いかにも「姉」という風情の姿だ。
……まぁ、中身老成したアタシよりも表情が純粋で可愛らしいから、姉に見られるのは最初の一瞬だけだけどさ。ミーチャ、最近モテモテでヤバいんだよね。本人は思春期にすら入ってないけど。
「持ち帰りも大人様ディッシュ……だとツラいか。あ、でも……ミーチャ、5件で150食の内訳は? どうやって持って帰るつもりなんだろうね?」
ミーチャの好きな通称「大人様ディッシュ」は、そのまんま、「お子様ランチ」だ。ただ、お米がないからピラフに旗を立てることだけができない。だから、旗の代わりの楊枝を刺したサンドイッチと、ポテト代わりのフライドウィリ。甲殻類に似たウバのフライに、ディグ肉のハンバーグ。葉野菜のサラダと季節の果物を使ったゼリーも一緒に、ワンプレートにのせている。
ちなみに、ハンバーグ用にしているディグは、バザールの肉屋で破格で売られていたのを買い占めた。どうやら、ディグという魔物は懐かしの某ロープレゲーム定番のごとく、危機が迫ると自爆攻撃をしてくるらしい。
元々はヤギ程度のサイズなのに、肉として手に入るのは爆散した破片のみ。大きな肉塊こそ主力商品である肉屋としては、ディグ肉は扱いに困る屑肉商品なのだそうだ。
アタシに言わせりゃ、ミンチの手間の必要ない「破格の最高素材」だけどね。
「持ち帰り……5・6・6・11・120。ラウリ長官、レークさん、アンディ商会、シサリー長官、ビーターズ商会」
「……いや、最後おかしいだろ。なんのパーティーだよまったく……」
商売繁盛万歳ってか!!




