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おかん転生 食堂から異世界の胃袋、鷲掴みます!  作者: 千魚
2 光の洞穴亭 in 王都
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フィーリ、大公に振り回される

すみません、こっそりサブタイトル変えます

「まさか! 急にどうしたんですか。一人では帰しませんよ、危険です。何せドルゴーン夫人ですからね。安全確保は大切です!」


 ドル……夫人? あ、そういえばそんな話題もあったね。衝撃の事実に紛れて忘れてた。


「あのさ……あんちゃんの気遣いは嬉しいけど、アタシまだ子どもだよ? 人間だし……あんちゃん、少しは周りの目、気にしなよ」


 身元保証人がどうしても必要ってなら、ミョルニーの養女にしてもらうのが筋だと思うし。受けてもらえれば、だけど。


「? フィーリが何を気にしているのかわかりませんが、魔族と人間の結婚例は皆無ではありませんよ」


「だとしても、国を背負って立つヒトが軽々しいこと言っちゃダメだろ?」


「ふむ。そうですか、フィーリが気にしていたのはそこですか。でもそれも問題ありませんね。ジークマグナスと違ってボクはただ、最後の龍人だというだけですからね」


 いや、だからそれってとんでもないことなんじゃ……?


「むしろフィーリが人間であることは歓迎されますよ」


「んなバカな……」


「一概には言い切れんが、人間は出生率が高い。それに、そもそも寿命が違うからな」


「ジークマグナス! 縁起でもないこと言わないでください」


「ハァ。落ち着け。判断材料を与えるべきだと思ったまでだ」


 だからって言い方が! といきり立つあんちゃんをなだめるのは骨が折れる。でも、よくわからない状況をあれこれ説明してくれるのは正直かなりありがたい。あんちゃんの綺麗な目を覗き込み、


「アタシは知りたい。教えてくれないかい?」


 静かに頼んだ。国のトップの時間を奪う罪悪感は今更だ。どうせなら、ちゃんと会話に加わりたい。


「フィーリがそう望むなら……」


 言葉を濁し濁しのあんちゃんだが、兄さんの適切な解説があればなんとかなる。


 そもそも魔族は血筋を重んじる。それはアタシも知っている通り、魔力の問題。本能的な拒絶反応が起こるため、同一種族間でしか婚姻は行われない。近縁種族同士の婚姻もあるにはあるが、祝福されず、子も望めないらしい。……そう聞くと、ルシオラさんてやっぱり変わり者なのかもね。ドワーフのくせに行商して歩くはドヴェルクに恋するは。

 ただ、人間だけは例外。魔力がないから拒絶反応自体起こり得ない。魔族が多種族と結婚しようと思えば、人間はなかなか優秀な候補になる。ただ、人間は短命だ。伴侶としても、魔族目線で見ればあっという間に年老いて死んでしまう。だから、現実的には魔族と人間の婚姻はごく希少。わざわざ、身近に置こうとする魔族なんてそうそういない。


 しかし今回はそれが上手く働く、と兄さんが言う。もし周りがアタシのことを大公の妻に相応しくないと思っても、どうせ人間はすぐに死ぬ。一過性の麻疹のようなものだと思われるだけだから、内心はどうであれ、表立って反対したり問題視したりするヒトはいないらしい。


 魔王も、他の権力者達も、高位の魔族は長生きだから、人間と一生を誓い合うなんて夢物語。

 むしろ、あんちゃんは最後の龍人族で婚姻可能な同族がいない。寿命がまだまだあるとはいえ、繁殖力の高い人間との交雑に一縷の期待をかけるヒトは元々、一定数いたのだそうだ。えー!? って感じだけど。


「それに、フィーリは自分が子どもだと気にしているようですが、ボクから見たらフィーリもミョルニーも大して年齢的に違いはありません。千歳以上の魔族など数えるしかいませんし、5千歳を超える者となれば尚更稀ですからね。年齢なんてただの記号です。

 でも、そうですね。フィーリが気になるなら……生物学的な成熟は人間の場合15歳以上が妥当だと思われますから、それまでは婚約だけという形にしましょうか?」


 ミョルニーとアタシが一絡げ。え、あんちゃんの感覚ってそんななの……?

まぁ、遥かに年下って意味で言えば合ってるか。……合ってるのか??


「てかさ、婚約って……そんな軽いノリで言うことかい!?」


 感心しながら説明を聞いていたら、突然話題が自分の身に降ってきた。そいえばそういう話なんだっけ。我が身で考えるとやっぱり突然過ぎて冷静さが飛んで行く。

 そもそもアタシ、あんちゃんのことそういう目で見たことないし。あれこれ冗談だと思ってたし! 婚約って……大切なことだよね!?


「え? 軽くないですよ? 本気です。フィーリのこと、大好きです」


 いや、だから! 軽いよね!? 嫁ってか、ペット感覚のが近い気がする。一応アタシも前世とはいえ既婚者だからさ、あんちゃんがアタシに愛情持って接してくれてるのはわかるけど、それ、絶対男女の機微じゃないと思う!


「……受けておけ。それでガンドルヴの気が済むのなら安いものだ。婚約者であってもドルゴーン大公家の縁者となれば、身分保障には十分だからな」


「え……っ!?」


 まさかこの流れで兄さんがあんちゃんの肩を持つとは思わなかった。

 やけに疲れた顔をしているから……執務が貯まってて、この会話も早く終わらせたいのかもしれない。まさかの展開だけど……ちょっとだけ、兄さんに同情する。


「既にあの店も、ガンドルヴの身内枠で開いたようなものだからな。大して変わらん。今まで通り食事できるのであればこちらに文句はない」


「よし! 魔王陛下の太鼓判もいただきましたし。帰りましょうかボクのフィーリ。……ふふ、イイ響きですね、ボクのフィーリ。あ、その前に……」


 帰るって、え、もしかして、そのためだけに「光の洞穴亭」から駆け出し、兄さんの会議を中断させたんだろうか。何というか……振り回される周りが可哀想過ぎる。もちろん、アタシも。


「ひょ!? ぇぇええええ!?」


 とか考えてたら、急に体が宙に浮いた。ポーンと。窓から上に飛び出して。


「ぎゃああああっ!!」


 風がバタバタと服や髪を嬲る。恐怖のあまり手が何かを掴もうとジタジタ動くが、刺すように冷たい風しかない。王城に唯一ある高い塔が、すぐ目の前に見えた。


「この上です」


 完璧パニくったアタシを、ふいに温もりが包み込んだ。あんちゃんの腕だ。吹き付ける風が和らぎ、なんとも言えない安心感が湧いてくる。が、極限状態のパニックに陥ったアタシにはそこまでの効果はない。

 たくましいあんちゃんの腕の中でガチガチと歯を鳴らし、身体中を強ばらせ、自覚のない涙を流す。


「宣誓台と言います。王族はこの上で国民に向けて婚約を宣誓するんです。ボクはジークマグナスの血族ではありませんが、仮にも大公ですからね、立場上は王族の端くれです」


 ジークマグナスの両親が宣誓台で婚約を整えた時以来ですね、とあんちゃんの嬉しそうな声が聞こえる。けど、アタシのフリーズした脳には届かず耳を通り抜けて行った。


 ガタガタと震え放心したままのアタシを抱えて、あんちゃんは王城の一番上、塔の尖塔に立つ。尖っているはずのそこはなぜか平らで、不思議な模様のついた一段高い場所があった。

 アタシは更に高くなった景色が怖くて怖くてたまらない。発狂する瀬戸際のような得も言われぬ衝動に、ぎゅっとあんちゃんの胸元を掴み、温かな服に顔を埋めた。


「ここに宣誓す! 我ドルゴーン大公ガンドルヴ・ミラエティアと此方こなたフィーリの婚約を! 魔王ジークマグナスの名の元、永久とわに祝せ!」


 怒鳴るような大声が耳を打つ。その時。

 唐突に響いた落雷のような轟音と、目を瞑っていてもわかる刺すような光がアタシ達に襲いかかった。


「ひ……っ」


「フィーリ?」


 それを最後に、アタシの精神はついに限界を迎え、二回の人生で初めて、ふつりと意識を失った。


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