フィーリ、カロメ餅を美味しくいただく
夏期休業(?)明け、本日二ページ目です
「もう一個……は流石に食べ過ぎかねぇ……でも……」
カロメの実をカロメ餅に加工する中で、酢飯っぽさは消えてしまった。「カロメ・ツヴァイ」で作ったお粥もカロメーロチャートよりは酸味が少なかったから、もしかしたら、あの酸っぱさの元は水分と一緒に飛んでいくものなのかもしれない。
「カロメ・ツヴァイ」が「The・お粥」だとすれば、「カロメ・ワン」は「The・お餅」。カロメ餅はアタシが想像した以上に、完璧に餅だった。
「……うまいねぇ……」
鰻登りのテンションがついに振り切れたのか、ふいに言葉に詰まって胸が痛い。
アタシはしみじみとカロメ餅を頬張りながら、胸に去来するあれこれに必死で蓋をした。
ここで生きて行くと決めたくせに、つい、前世に引きずられてしまうアタシ。考えたってしょうがないんだから、ただ前向きに頑張るかないとわかっているのに、こうして五感を刺激されると弱ってしまう。人生に「たら・れば」はないんだってば……。
望郷の念を持ったところで、アタシはどうやったって向こうに帰ることはできない。そう、知っているのに。……いや、だからこそ尚更、故郷が、家族が恋しい。
「おや、美味しそうですね」
「っ……!?」
心ゆくまで泣いてしまおうか。思ったところに突然声をかけられ、アタシはドキッと顔を上げた。反射のように視線を向ければ、すぐ横にいつもの笑顔を浮かべたガヴのあんちゃん。
ドアを開けて入ってきたはずなのに、アタシ、まったく気づかなかった……。
「……食べるかい?」
ちょっと気まずい気分だったけれど、幸い、あんちゃんの目はカロメ餅に釘付けだ。アタシは小皿に各種のカロメ餅を一つずつのせ、あんちゃんに進めた。
「もちろんいただきます。フィーリの手料理、大好きですからね。もちろん、フィーリも好きですよ? 笑ってても、泣いてても。涙の理由も含めて、聞くまでもなく大好きです」
「……ふふ。こりゃまた……ホント、あんちゃんにはかなわないよ」
厨房の簡素なテーブルについたあんちゃんに茎ほうじ茶をいれ、アタシも向かいの席に座る。
びっくりしたけど……あんちゃんが来てくれて良かったのかもしれない。一人で鬱々としてるのなんて、アタシの性に合わないもんね。どうかしてた。
あんちゃんは話し上手で聞き上手。当然、アタシが沈んでいることにだって気付いてる。だからこそ、優しい気遣いで雰囲気を和らげてくれたのだろう。
「それにしても、フィーリの発想力には驚かされますね。カロメ餅、ですか? 初めて見ました」
ちょっと変わり者だけど、揺るぎない優しさをもったあんちゃん。その穏やかな笑顔を見ているうちに、アタシの気持ちも落ち着いてきた。珍しく惑っていた心が、ストンといつもの場所に嵌まったみたいな不思議な感覚。これはもはや、苦笑しかない。
……まったく、イケメンで癒し系とか……末恐ろしいよ。将来女ったらしになるんじゃ……ってもしかして現在形で……………? いやいや、あんちゃんはどっちかって言えばヒトたらしってやつだよね。はぁ、羨ましい性格だよ。
「うん。コレ美味しいですねぇ。面白い食感ですし、味も柔らかい。何と言うか癖になります」
整った顔に無邪気な笑顔を浮かべてカロメ餅を摘まむあんちゃんに、アタシはまたもや苦笑を浮かべた。
まったく……あんちゃんには助けられてばっかりだ。
この無邪気さだって、アタシの気持ちを慮ってのことだろう。希少種の有力魔族で、ホントならアタシなんか会うことすら不可能なお偉いさんだろうに、偉ぶらないどころか……ホントに優しい。
「フィーリ、一緒に食べませんか? はい、口を開けてください。ほら、あーん」
「ははは……仕方ないねぇ」
苦笑しながら、アタシは大きく「あーん」と口を開けた。
たまには……イイよね。アタシはまだ子どもで、あんちゃんは立派な大人だから……。
たまには…………打算も何もなく甘えること、許しとくれね。
明日もまた、更新します!




