「光の洞穴亭」の食事時②
「んじゃ、いただきます」
「いただきます!」
ブルーリーさんがお手拭きで手を拭うのを見計らってアタシがそう声を上げれば、みんなが同じように後に続いた。
「……へ?」
戸惑っているのはブルーリーさん一人で、あとはみんな、並んだ料理を思い思いに食べ始める。
「おや、初めての方なんですね? ここでは食事の前にこうして挨拶をするんですよ。フィーリの料理をいただくためのマナーです。幼い身でこうして美味しい食事を用意してくれているフィーリに止めどない感謝を……」
「ちょっとあんちゃん。アタシより何より、食材の命に感謝しろっていつと言ってるじゃないか。みんな、命をいただいて生きてんだからさ」
別のテーブルといえど狭い室内だ。会話は筒抜け。
常連のあんちゃんがご新規さんにいろいろご教授してやろう、ってところなんだろうが、ちょっとばかり訂正が必要だ。
「とはいえ、我々にはなかなか理解できない感覚ですからな」
「そうですわねえ。フィーリちゃんのお料理も一度きちんと研究させていただきたいわ」
「ん、このオルニ、イイ硬さだなや」
「ちょっとミョルニー、ボクの分盗んないでよ!」
「…………あんたら、ホントに何ともないのか?」
ルフも椅子の上にお座りして、食卓を同じくしている。全員で、和気藹々と。
なんとなくそんな平和な雰囲気が今日もできあがったところで、ブルーリーさんが恐る恐る口を開いた。
本来なら、魔族は他種族の作った料理は食べない──。
「ハッハッハッ! ご心配はわかりますが、我々が無理しているように見えますかな?」
メディーケの旦那さんが豪快にそう笑い飛ばすと、ブルーリーさんはばつの悪そうな顔になった。
「いや……心配性なもんで」
「嫌なら食べることないですよ? フィーリの料理はすべてボクがいただきますから」
「え!? いやっ! そんなことは……っ!」
ノームに言われるのと龍人に言われるのでは圧が違うんだろう。誇れるのは人口の多さだけと噂されるホブゴブリンでは、白旗を上げるしかない。……たぶん。だって、一気に顔色が土気色だ。
一度アタシをチラッと見た後、ブルーリーさんは目をギュッと閉じてウィリをフォークで頬張った。
恐る恐る咀嚼して、ごくんと飲み込む。
そして、フリーズして5……10……15…………30秒。
押し問答はいつものことだから大して気にしてなかったけれど、余りの長さに不安になった。みんな似たような気持ちなのか、ブルーリーさんに視線が集まる。
「……何だ……これ……」
搾り出された言葉に思わず眉間にシワが寄った。何かマズかっただろうか。ブルーリーさんの好みがわからないまま作ったから、嫌いな物が入っていたのかもしれない。