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おかん転生 食堂から異世界の胃袋、鷲掴みます!  作者: 千魚
2 光の洞穴亭 in 王都
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フィーリ、料理教室を無事終える

久々に2ページ目の投稿ができました!

「そんなに力入れると疲れるだろ? あぁほら、こぼれちまうよ」


 案の定、生クリーム相手に四苦八苦する2人にアドバイスしていると、それまでニコニコとこちらを見ていたあんちゃんが、ふいに悲しげな顔をするのが見えた。


「はぁ……。フィーリ……残念ながら、ボクは戻らなくてはならないようです……」


「どうかしたのかい?」


 魔族には思念を波に変えて空気中に送り出し、通信しあう種族がいるらしい。本物の電波系。希少な種族だけど伝令としては優秀だから、高位の魔族は皆、一人は雇っているのだとあんちゃんが教えてくれる。

 彼らの思念派は条件さえ満たせば他種族でも受信可能だそうで、あんちゃんはまさに今、その思念波での連絡を受け取ったのだと、柳眉を曇らせた。


「はぁぁぁ……。今日は1日自由のはずだったんですけどねぇ…………」


「それでも呼ばれたってことはよっぽどなんだろ? ま、あんちゃんは頼りなるからね、わからなくはない……とはいえ、頼られる方はたまったもんじゃないか。ははは。

 それよりさ、アタシも貴重な休日に付き合わせたりして悪かったよ。ありがとね」


 まだホイップと苦闘を続ける2人を後目しりめに、アタシは貯蔵庫に飛び込むとクッキーを詰めたビンと、ベワズー酵母のパンをひっつかみ、手早く布でくるりと包んだ。


「これ、持ってっとくれ!」


 バタバタと戻り、ずいっとあんちゃん、に差し出す。お土産だよ。

 最新作のベワズー酵母パンを大人に出すのはこれがお初。わりかし甘党なあんちゃんなら喜んでくれるだろう。クッキーは乾季定番のアイスボックス。仕込んだ生地を外の日陰に出しておけば、今時分は冷凍庫代わりになって一晩で見事にカチンと凍る。それを薄く切って今朝、焼いたばかりだ。今回は渦巻き模様と市松柄が思った以上にキレイに焼けた。


「おかげでスムーズに進んでるからね、この調子ならこっちは大丈夫。きっっちり教え込んどくからさ、今後サンドイッチの感想、聞かせとくれね」


「フィーリ……っ」


 お仕事頑張れ! という気持ちを込めてにっこり笑えば、あんちゃんは感極まったようにアタシの頭をぎゅっと抱え、ぐりぐりと勢い任せに撫で回した。

 ……ちょ……痛……手加減してるんだろうけどさ? ちょ、痛いよ本気で……っ!


 アタシが王都に来たことで食生活が改善されたのがよっぽど嬉しかったのか、最近のあんちゃんはスキンシップ過剰だ。

 でもねぇ……一部では神のごとく崇められてるらしい龍人の腕力膂力で来られると、さ? 手加減してくれていても、アタシなんて簡単にプチっといきそうで正直怖い。

 

「これからも頼りにしてくださいね。フィーリのためなら仕事なんて一瞬で終わらせて来ますから。……そしてサンドイッチを食べるんですっ」


 満面の笑みを浮かべつつ、後ろ髪引かれるそぶりを見せるという、なんとも器用な顔をしながら、あんちゃんは外へと飛び出して行く。王都に来てから知ったけどさ、あんちゃんてどうやら、空、飛べるんだよ。衝撃的。


「んじゃ、完成させようか!」


 こっちも気合いを入れて仕上げに入る。みんなが頑張ってるのを見ると、不思議と自分も頑張ろう、って気になるよね。同調圧力は嫌いだけど、こうして励みになるのはイイことだ。

 ボールを取ったり台を拭いたり、細々とした仕事を一生懸命やっていたミーチャが、アタシの言葉にニカッと笑う。


「ミーチャ、サンドイチ好き」


「そうかい、早く食べたいねぇ?」


 いやぁ、素直で可愛いわウチの子。顔立ちももちろん可愛いんだけど、それ以上に存在が。

 アタシ、娘欲しかったんだよね。なのに産まれるのはヤローばっか次から次に……まぁ息子もかわいいんだけどさ、当然のごとく。


「いやーんっ! これ、むずかしぃっ」


「……どうしたらそんな生クリームだらけになれるんだか。ある意味もう、才能だね」


 こっちのトカゲ娘も可愛いっちゃ可愛い。こう言うのもなんだが、お馬鹿ちゃんで。……でもさぁ、五分立ちの生クリームをドッカーンと全身に飛び散らせるのは……ホント、もったいないから止めとくれ。

 ただのクリームがなぜそうなる。もはや爆発コントだ。


「ちょっと見てくれるかい。こうやってパンの間に挟んでくんだよ」


 まぁ、今日は練習だから仕方ないか。

 溜め息を飲み込みつつ、アタシは手早く、切れ込みを入れた丸パン三個にバターを塗った。


 一つは、鶏ハムと葉野菜にドレッシング。もう一つはマヨネーズたっぷりの茹で卵。最後の一つはジャムとホイップクリームをたっぷりと。


「これで完成だよ。味見、してみとくれ?」


 アタシが見本で作ったサンドイッチを四等分にし、アッフェタルトさん、ワチワナさん、ミーチャに配る。アタシは別に食べなくてイイから、残りの一かけはとりあえず放置。三等分にするの、苦手なんだよ。等分じゃなくてイイならテキトーに切るけど、このヒト達、意外と分け前に細かいからさ。


「んんんっ!? んん!?」


 パクリと一口で放り込み、目をキラキラさせるのはアッフェタルトさん。


「ふむ……」


 チマチマと食べつつなぜか愕然とするワチワナさん。


「好きー!」


 ミーチャはモチャモチャと食べきって、残りの一かけを狙っている。野生動物みたいに瞳孔が丸くなった目が可愛い。

 アタシは笑ってミーチャに許可を出すと、料理長二人には


「さ、やってごらん」

  

 と声をかけた。

 観察して、実践して、検討して。それが上達への近道だもんね。


「美味いモン、食べさせてやりたいだろ?」


 二人の目の色が良い方向に変わってきている。イイことだ。職人に限らずプライドって、周りのヒトの笑顔で築かれてくモンだと思うんだよね。


 さてと。サンドイッチをマスターしたら、次は何を教えようか。

 ふふふ。今から考えとかなきゃね!



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