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おかん転生 食堂から異世界の胃袋、鷲掴みます!  作者: 千魚
1 光の洞穴亭 in 原生林区
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「光の洞穴亭」の食事時①


「ミョルニー、ベル鳴らしとくれ」


 魔術具で保温していたパンを切り分けながら準備完了の合図を出す。宿中に響き渡るベルを鳴らすのはミョルニーかルフの仕事。今日はルフが作業中だからミョルニーの番だ。


 チリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!


 気が済むまで取っ手を持ってブンブン振り回せば、鳴り止む前に客は全員集まってくる。ちょっと楽しそうだからアタシもやらせてもらったことがあるが、残念ながら幼子の腕力じゃ長時間満足に鳴らすのは難しかった。


「何事だ!?」


 案の定、粟食ったブルーリーさんがすごい勢いで降りて来る。初めてのヒトはみんなこんな感じの反応だ。


「敵襲か!?」


 ……いや、その発想は新しいね。ちょっとさぁ、ブルーリーさん? あんたどんな世界に生きる学者だい? 今現在、魔王領や周辺諸国で紛争の話は一切聞かない。

 ……まぁ、それだけミョルニーの鳴らし方が激しくてけたたましい、ってことかもね。


「あー……悪い。ただの食事の合図だよ」


 なぜか部屋に備え付けの洗面器をかぶっているブルーリーさんに苦笑しながら、アタシは手近な酒瓶を振って見せた。

 机の上にはすでに人数分の食事が並んでいる。


「そ、そうか……。では、身なりを整えて出直して来よう……」


「冷めないうちに早く来とくれ」


「こんばんはお嬢さん。良い晩ですな」


「ごきげんよう」


 気恥ずかし気に一度部屋に引っ込んだブルーリーさんと入れ替わるようなタイミングで、メディーケご夫妻がやってきた。


「こんばんは。調合ははかどったかい?」


「それはもう」


「やはり原生林区の植物は特殊ですね。おもしろい結果になりそうですわ」


「あぁそうだ。明日、サクエンの花を摘んで来ていただけませんかな? 一昨日いただいものを全て、使い切ってしまいましてな」


「あぁイイよ。ね、ミョルニー?」


 二人とも医師だというメディーケご夫妻は、難病の治療法を探して原生林区にやって来た。彼らは二階の奥から4番目、グループ宿泊用の広い部屋に逗留していて、日夜研究に明け暮れていた。


 魔力に満ちた魔王領にあり、けれどすぐ隣に魔力を含まない人間の土地がある原生林区には、他とは違う生態系が完成している。そのせいで、「光の洞穴亭」を訪れるのは研究者や生薬師、狩人、冒険者が多かった。

 もちろん、客は全員魔力を持つ者、すなわち魔族。


 この世界は魔族を中心に回っている。魔法が使える優位性は創世以来揺らいでいない。

 大陸には2つの魔王領と無数にある人間国家。魔王領を取り囲むように作られた人間国家は、魔王領の存在あってこそ成立する。ある国は通商で、またある国は宗教で。魔族をあらゆる面から特別だと認識していた。


 強く恐ろしい魔族のみならず、魔物までが生息する魔王領に好き好んで入ろうとする人間はほぼいない。普通は、怖がる。本能が避ける。

 だから、アタシの存在は魔族にとっちゃ珍しく、興味深く見えるらしい。珍獣、見世物。客の目が言っている。


 そして────愛玩動物。


 ま、イイんだけどさ。通りすがりのヒトにどう思われたって。食糧でさえなけりゃ問題ない。


「お待たせしました。あぁ、今日も美味しそうですね」


 地下の階段を登ってきたホカホカなあんちゃんが、いつもの席に着きつつ相好を崩す。あんちゃんはお客と家族の中間のヒト。アタシを普通に個人としてみてくれる、貴重なヒトだ。


「悪いが、今日もみんないっぺんに食事をしとくれね」


 食堂なら、本来は頼まれた時に頼まれたメニューを作るべきだとは思うけど。寮食スタイル。悪いが、おまかせメニューをこちらのタイミングで出させてもらう。


 一つのテーブルにはあんちゃんが。別の一つのテーブルはメディーケご夫妻。さらに向こうの一つはブルーリーさん。残りのうちの一つには、ミョルニーとルフとアタシの三人。今日はお客が少ないから、最後の一つのテーブルはお休みだ。

 お客があまりにも多い日には相席にして、アタシら家族は厨房で食べたり時間をずらしたりすることもある。が、今日は平気。


「ミョルニー、イイよ」


 ブルーリーさんが戻るのを待って声をかける。ムコカ洗いの終わったルフも、ピュッと素早く席についた。


「んじゃちょっくら……。皆さん方、今夜もようごそ我が家の自慢の食卓へ。今だきゃアタシら、家族だかんね。森に感謝を、命に感謝を。大いに食って大いに楽しく呑んどくれ」


1日1ページ、なんとか続いてます

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