フィーリ、料理教室の準備をする
うーん、異種族もいる屋敷の料理人さんなんだから、冷めても美味しい料理を教える方がいいのかねぇ……。
アタシは貯蔵庫の壁をぐるりと見回しながら考えた。
料理教室を打診したら、アッフェタルトさんもワチワナさんもあんちゃんも兄さんも、とっても喜んだ。兄さん、相変わらずのローテンションなのに喜んでることだけはわかりやすい、ってなんなんだろうね? 安定の、ある種の萌え製造機っぷりだよ……ははははは。
料理人二人にはびっくりするほどのハイテンションで、「すぐにでも!」と言われたけれど、まぁ、正直なところ、アタシ、先生なんてしたことない。思いつきを実行するための準備が必要だから、第1回お料理教室は5日後、ということにしてもらった。
冷めても美味しい、と言ってすぐに思いつくのは、日本が世界に誇る文化、お弁当。味を濃いめにつけたり、彩りでカバーしたり。
具体的には……卵焼き? それから、おにぎり……は無理だね、お米ないから。主食はサンドイッチとかキッシュとか? 冷製パスタもイイけど、乾季に入ったばかりこの季節じゃ、さすがにさっぱりし過ぎてるかねぇ?
……作って置いて、自分で再加熱できるならハンバーガーとかも美味しいかも? レンジはないけど……なんかそれに代われそうな魔法がないか、今度あんちゃんに訊いてみよう。高位の魔族なら、何か知ってるかもしれないし。
「鳥ハム……魚のほぐし身……卵……」
とりあえず今回は教える方も教えられる方も料理教室初心者。サンドイッチにして、具材を何種類か教えておくことに決定する。簡単かつ美味しい。大事だよね。成り立ちを考えても、主食兼主菜だし。
野菜は生食可能なものが結構あるからそれを使う。こうやって考えると、具材のバリエーションはなかなか豊かだ。
問題はパン。発酵力が弱いんだよ。
ミョルニーの作っていた天然酵母液を引き継いで使っているが、焼き上がるとがっしりした感じのパンになる。まわりガリガリ、中どっしり。アタシの中のイメージでは、「アルプスの少女」に出てきた黒パンだ。
噛んだ時に中身が飛び出さないように、バケットサンドっぽくするか……いっそ、オリジナルで酵母を作ってみるか。
……うん。案ずるより生むが易しってね。温めて出す店なら堅パンでもイイけど、サンドイッチならやっぱり柔らかいパンが欲しい。バケットだって内相……白い部分はフワフワだもんね。
思い立ったが吉日、というかもう本番まで日にちがない。棚から空瓶をいくつか取り出し、片っ端からぐつぐつグラグラ煮沸消毒していく。
確か、パン種は果物でできるんだったね。ミョルニーのレシピは甘味のある果物、ジッカを使っていた。小粒で真ん丸、葡萄のような実で、味はどことなく柿に似ている。
今あるのは……ジッカ、ニニクル、ベワズー、アッシェル、ヤンヤ、それにラユッス。
ラユッスは微量の毒があるとかで、原生林区に放置されている果物だ。薄緑の実でなんだか梅に似ているから、ふと思い立って砂糖で漬けてみたら大好評。毒性なんて微塵もないうえ、水で割ってもお酒で割っても美味しい、我が家の内緒の嗜好品だ。……とはいえ、風評被害も怖いから、ラユッスシロップは家族と家族レベルの常連さんにしか出してない。
アタシは煮沸を終えた瓶の水滴を軽く払うと、ベワズー、ヤンヤをそれぞれザックリ割って瓶に入れた。ベワズーは地下茎になるひたすら甘い実で、ヤンヤはちょっとした実験だ。前世の知識がこちらでも使えるなら、ヤンヤみたいな柑橘系の果物酵母は発酵力が強めのはず。
「ふふっ」
ジャーっと清水を流し入れる。八分目、ってところかね。
透明度の低い瓶に布で作ったラベルを巻いて、厨房の棚に静かに並べた。味噌のように、アタシの想像より速く発酵するだろうから、よく見えるところに置いておく。できるだけ早く仕上がってくれないと料理教室に間に合わない。
ふと、発酵を促す菌類にも魔力があるんだろうか、なんて考えが頭をよぎった。けどまぁ、深く考えるのは止めておく。なんか天文学的な話になりそうで怖いし、味噌が無事にできた前例がある。きっとなんとかなるだろう。
……うん、とっても楽しみ。わくわくするね。
うまく天然酵母ができますように、っと!
無発酵のパンも好きです




