閑話・ルフの思い出①
気付けば投稿始めて1ヶ月以上経過しました
ブクマ200件突破というありがたい状況です
今更ながら、記念の閑話を(^-^)
「遅ぇぞ! もっと速く、走ることだけ考えろ!!」
生い茂る木々の隙間を機敏に駆け抜けて行く、コットの鈍灰色の尻尾が見える。ボクはそれを必死に追い掛けながら、「一体何をやってるんだ……」と自問自答を繰り返していた。
コットはボクの村一番の変わり者。とはいえ、ボクの昔からの親友だ。
ボクが産まれる前の日、隣の家でコットが産まれた。両親同士は仲良しで、それぞれ2人いる兄弟姉妹同士も仲良しだ。ボクとコットは互いの家を行き来しながら、双子のように一緒に育った。離乳食が始まったのも、遠吠えができるようになったのも一緒。好きな遊びや嫌いなご飯、それも似ていた。
けれど、10歳になった頃から、ボクらには決定的な違いが生まれる。
家族と同じ鈍灰色の毛並みが自慢のコットは、簡単に人化できるようになっていって。
家族とは違う銀色の毛並みを持つボクは、いくら頑張っても人化できなかった。
周りの子がどんどん人化を覚え、服を着るようになり、仕事を手伝い、村人として役に立っていっているのに、ボクはどうしても人化ができなくて、狼型のまま。
人狼のくせに人化できないなんて、幼児レベル。人狼族を語るも烏滸がましい、出来損ないだ。ボクは、オチこぼれ。役立たずの人狼未満。
この間まで一緒に駆け回っていた友達が一人前になって行くのを見たくなくて、ボクはどんどん、どんどん卑屈になっていった。村のみんなはそんなボクにも優しくて、だからボクも普通にしてるつもりなのに、気持ちがいじけてしまっている。心が、折れて行くのが日々、わかった。
コットは、そんなボクを見て、人型になるのをやめた変人だ。「産まれたまま、自然な姿のままでいるべき」と、ある日突然、服を脱ぎ、直立したまま被毛を生やした。周りに何を言われても気にしない。
まるでヒトと狼の中間。そんな不思議な前傾した二足歩行で生活を始めたコット。彼は誰が何と言っても、己の信念を曲げないまま、今に至る。変人と呼ばれようと気にしない、芯の強さがコットにはあった。
「川を飛び越すぞ!」
「いいよっ! ボクの方が速い!」
ボクは当初、この個性的で優しい友人が苦手だった。人型になれるくせに獣みたいなフリをするなんて……バカにされてると信じ込んでいた時期もある。
でも、彼はいつでも真っ直ぐだった。自分の心に、そしてバカな幼なじみに。
力を込めた四肢に魔力を注ぐと、ボクは一気にコットの前に踊り出た。
「そうだ! その調子だ! 四本足が二本足に負けてんじゃねぇぞっ!」
熱い叫びに応えるように、力一杯大地を蹴る。
すぐに見えてきた川は、思ったより川幅があり、激流だった。落ちたらどこまでも流されてしまうだろう。
とはいえ、野生じみたことはボクの唯一の得意分野。気負わず、思いっきりジャンプした。
「わぁ……っ」
真下を流れる急流。全身を嬲る風。轟音がうるさく耳を叩く。
しかし、今こそが絶景を見る瞬間だ。世界の躍動をすべての感覚で感じ、見る時。ボクが世界を美しいと感じる、数少ない瞬間。
タシッ! と軽やかな音を立てて対岸の土を踏んだ。得も言われぬ爽快感にぶるりと体を震わせて、ボクはコットが跳んでくるのを待つ。
彼は間もなく、川の中程に見える岩を使い、飛沫にぬれながらやってきた。
「さっすがルフ。おまえの身体能力の高さは一族一だろ」
あの岩を足場にできるコットもすごいよ。我知らず、自然な笑みが頬を弛めた。




