フィーリ、転居する
本日7/17、二話目です
「んー……フィーリはどの部屋がイイですか? 居住性を考えると、こっちかこっちですかね」
かなり広い戸建てなのに、二階には部屋が三つしかないようだ。一部屋あたりはもちろん広い。それになぜか、どの部屋にも不思議な管のある小部屋がついていた。
あんちゃんが指し示したのは南東の部屋と、北東の部屋。北東の部屋は一番広くて北西までの長方形だ。南東の部屋は南西の部屋と並んでいて、どちらもほぼ正方形。どの部屋を見ても『光の洞穴亭』の食堂よりも遥かにゆったりしていた。
「どの部屋って……こんな広い所落ち着かないよ……」
あんちゃんとお友達のジークマグナスさんの間では、アタシがここで食堂を開くと決定している。
反論する暇も考える余裕もなく、アタシは流されてここに居た。だって、あんちゃん達、先回りすごいんだよ、ホントに。何も有能さをこんなトコで発揮しなくても……ってくらい優秀。一般人のアタシには太刀打ちなんて到底できない。
アタシが一番気にするのは「光の洞穴亭」のこと。それを知ってるあんちゃんはとんでもない先手をうっていた。
まったく……どこからあんちゃんの掌のだったのかわかんなくなるよ……。
「それでは南東の部屋をフィーリの寝室にしましょう。北東はフィーリ専用のリビングにして、南西は客間ということで」
「ミョルニーとルフの部屋はいいのかい……?」
「必要ありません」
にっこりと威圧感ある笑顔を浮かべたあんちゃんが、長い指で宙空に円を描く。
大きなその一つの円は、みるみるうちに色を変えて、虚空に浮く真っ黒な穴になった。アタシが丸々入れちゃいそうな不気味なブラックホールに、躊躇なく腕をつっこんだあんちゃんが中から何かを引っ張り出す。
「……へ? ベッド??」
書棚らしきものに長椅子らしきもの、カーテンぽい布に衣装棚、それとあれは……パーテーションかな……?
どんどん取り出される大物家具達に、アタシは目を疑った。穴よりも大きそうな物がミチミチと音を立てながら取り出されるのだ。魔法だとわかっていても、異様な光景。
慌てて説明を求めれば、あんちゃんはどうやら、貯蔵庫を作ってくれた時と同じ、時空魔法を使っているらしい。異次元に通じるポケット並みの収納力に、アタシは感嘆の息をついた。
厨房がまるで粘土をこねるかのように簡単に作られていく様子も驚きだったが、今もまた、アタシの常識では計れない。
「はい、できあがりです」
「……ありがとよ…………?」
えっと、これはアタシが御礼を言うところでイイんだよね? ホント、急展開過ぎて脳みそが仕事放棄してんだけどさ…………。
「いえいえ。フィーリはまだ幼いですからね、太陽を浴びて健康的に暮らして欲しいと前々から思ってたんです。あ、もちろん『光の洞穴亭』は素晴らしい所ですよ? ただ、それぞれの場所のイイ所を合わせれば、もっとフィーリに相応しい、素敵な生活ができるでしょう?」
ちょっと意味がわかんないよ……。
とりあえず、目の前には薄水色の可愛らしい家具が並ぶ、どこぞのお嬢様の部屋がある。
あー……インテリアショップのカタログで見たことあるかも、あぁいう天蓋付きのラブリーベッド。「可愛いねぇ。将来孫にねだられたらつい買っちゃうかも!?」とは思っていたが、まさか自分が使うことになるなんてね……?
……ははははは。ハァ。
アタシ、今日からこの部屋に住むことに決まった……らしい。否応なしに。




