フィーリとあんちゃんと商人さん1
「…………は?」
ルシオラさんとあんちゃんの話を聞いて、まず口から飛び出したのはその一音だった。それから、何度その音だけを繰り返したかわからない。
疑問を解消するために聞いたはずなのに、アタシの中では疑問符が渦巻いていて増殖していた。
「ちょ……ちょっと待っとくれよ……」
だって……どこからツッこめばいいのか、わからないんだってば!
主に喋っていたのはルシオラさん。あんちゃんは基本、ニコニコとそこにいただけ。でもそのルシオラさんは最初から妙にあんちゃんを気にしていて、
「ミョルニーさんに会いたかった一心とはいえ……龍王様が庇護なさるフィーリちゃんのところに面倒事を持ち込んでしまってホント、済まなかったっす」
とか言ってアタシに頭を下げ……更には「余計なことを言うな」とばかりに睨まれて青ざめていた。
あんちゃん……器用だね。笑顔で睨むなんてさ……ははははは。なんだコレ。
「龍王」なんて仰々しい単語が出たからには、まずはその説明が欲しい。けれど、あんちゃんの雰囲気がそれを許してくれなかった。胸の内の疑問を口に出したら笑顔で激怒されそうだ……ルシオラさんが。
さすがに気の毒だから気付かないふりして先を促すと、話は妙な方向に流れて行った。
「うーん? …………つまり、アタシに死ねって?」
それまでの話を要約して推論できた結果を考えれば、ルシオラさんが語った「バールさんの希望」ってヤツはそういうことになる。
「お嬢さんは……ひぇっ! オイラが言ったわけじゃないっすよ!? むしろオイラはお嬢さんを諫めたくてガン……ガヴさんに相談したんすからっ! ぁ、ほら、ガヴさんは長くここに滞在されてて、フィーリちゃんとかなり仲良しみたいだし……っ」
昨夜バールさんがわざわざ部屋に押しかけて来たのは、アタシの反応を見るためだったんだそうだ。つまり敵情視察。なんか仲良くできないなぁと思ったよ。アタシの心情の問題だけじゃなく、向こうが明確な敵意を発していたせいでもあったらしい。
知りたくもない情報だし、逆に知ったところでどうでもイイが、アタシの産みの親はアジャイム王国の貴族で、実母とやらは帝国貴族であるバールさんの父親とハトコの間柄なのだそうだ。
ホントどうでもイイ事実だよ。腹の足しにもなりゃしない。……だけど、バールさんにとってはそうじゃない。それなりに重要、なんだって。
彼女はアタシを一目見た瞬間に思い出した。父の親族に、忌み子を産み離縁されることになった女がいた、と。
「さすがに死んでやる義理はないが、万が一さ、アタシが死んだら、その疫
病とやらは治まるのかい?」
バールさんは本気で、疫病の蔓延はアタシの呪いのせいだと信じ込んでいるらしい。アタシが人間を憎んで、アジャイム王国と母方の実家がある帝国を呪った、と。
今朝彼女は、ルシオラさんの顔を見たとたん、アタシへの不満を並べ立てた。曰わく、「嘘つき」「白々しい」「無神経」。呪いをかけて疫病を流行らせた本人であるアタシが、初耳のような顔をしていたのが、バールさんは非常に気に食わなかったらしい。
てか呪いって。んなこと言われても、かけてないモンは仕方ないよね?
何言ってんだって感じだよ。
「……知らないっす。呪いなんて、習ったこともないすからね」
「呪いは、呪者が死ねば解けますよ。……ただね、呪いというものは魔法の一種ですから、魔力がないフィーリには使えません。魔族か、たまにいる人間と魔族のハーフなら可能でしょうが」
…………呪い自体は存在するのか。
ってか、忌み子ってなんなんだろう。自分が忌み子で、そのために捨てられたことは教えられなくても記憶にあるから知っている。けれど……。
短めですみません…(;´Д`)




