フィーリとお話
「おぅ、邪魔するよ」
朝二の鐘が鳴るとほぼ同時に、玄関ドアが開かれた。テント村からの朝食希望者が七名。すっかり身支度も終えている。
「おはよ、兄さん達。外の天気はどうだい?」
「なかなかイイ感じだぜ? 雲が多いのに気温が高い。今日はラナンがたくさん捕れそうだ」
「そりゃ運がイイこった! この間のお客さんなんて、十日も粘ったのに一匹も捕れなかったんだよ?」
「そいつは可哀想にな。今日は外のヤツらはみんなラナン狩りだ。嬢ちゃん、朝飯いいか?」
「あぁ、こことそこに座っとくれ。んで、食べたら他の連中に、『朝三の鐘が鳴ったら店仕舞い』って伝えてくれないかい?」
宿泊組と違って飛び込みの客は給仕が必要だ。何人来るかわからないから用意しておくことができない。とはいえ、やることが多いのが宿屋。早めに来てもらわないと困ってしまう。
「心得た。おっ、今朝は『シリアル』か!」
嬉しそうに目玉焼きを頬張りシリアルをかきこむ常連テント組と世間話をしていると、宿泊客もちらほらと姿を見せ始めた。
山菜を取りに来たという地下二番目のお客が、テントの男達にラナンについて質問する。原生林区では有名な小さな魔物だが、余所にはあまりいないらしい。
ラナンはモモンガに似た生き物で、木の間を滑空する。高温多湿の日に移動する習性があるため、今日あたりは木の間を大いに飛び回るだろうと予測された。愛玩動物として人気が高いラナンは、小さいくせに取れる魔石の質も高い。狩人からすれば、捕まえておいて損のない魔物なのだ。
テント組の給仕の合間に、アタシはミョルニーやルフと一緒に厨房でご飯を食べた。夜と違って、朝は毎日、厨房のテーブルを使う。今日は朝のうちにミョルニーは山菜を、ルフはラナンを捕りに行く予定だから、のんびり食べてはいられない。
アタシは朝三の鐘が鳴るのを待って、昨日宿泊客から買い取っておいたトンカの加工を始めた。
トンカはカモシカに似た大型の魔物だ。狩人のおんちゃんが「仕留めがい有りそうでつい捕っちまったが、持ち帰れねぇよ」と格安で譲ってくれた。
「フィーリ、ちょっとイイですか?」
朝食の片付けも終わり、あらかじめ枝肉まで解体されていたトンカを魔石から外して切り分けていると、あんちゃんが厨房に顔を出した。模造紙よりも大きなディーディーの葉の上で枝肉を捌くアタシを見つけて、にこりと笑う。
「さすがフィーリ。やっぱりお嫁さんに欲しいですねぇ」
「まったく……本気にしたらどうすんだい。あんちゃんなら選り取り見取りだろうに。で? どうかしたかい?」
「相変わらず手強いですねぇ。まぁ、これも楽しみの一つですから、ゆっくり行きましょう。
彼が、フィーリと話たいと困ってましたよ?」
「ん?」
日中は大抵、原生林を散策したり、温泉を楽しんだり、宿の手伝いをしてくれたり、気ままに過ごしているあんちゃんだ。それなのに、今日は珍しく誰かと連れだってやってきた。
「……ルシオラさん?」
大柄なあんちゃんの影から申し訳なさそうに顔を出したのは、意外なことに、なんだか顔色の悪い、ドワーフ商人のルシオラさんだった。
すみません、本日多忙のため更新が遅くなりました<(_ _)>
そして、申し訳ありませんが、今日はこのページのみになるかもしれません……




