フィーリと空似
「あんた……おっとりしてるって言われるだろ」
マイペースを好意的に表現しようとすると、「おっとり」になる……と今知った。さすがに「ズレてる」とは言えなくて、苦し紛れに出てきた言葉だ。
「え? あの、はい。お恥ずかしながら……」
波打つ金髪をゆったりと後ろで括り、碧い瞳は夢見るよう。白く小さな顔は全体が儚い雰囲気に整っている。恐らく、十代後半。
「……………………ぇ?」
湯煙の向こうでははっきりわからなかった目鼻立ち。
「……わたしも驚きました」
その顔は……バールさんの可愛らしい顔は、どこか、アタシと似ていた。
纏う雰囲気や色合い、成長度合いがあまりにも違うから、姉妹と言うには遠いけれど、他人と言うにはパーツとその配置がそっくり過ぎる。アタシがあと10歳成長すれば、もっと似るだろうと思われた。
「…………まぁ、他人の空似なんて、珍しいことじゃないからね」
揺れるアタシの心情を推し量ったのか、バールさんは
「………………そうですね……」
とだけ呟くと、目を伏せた。長い黄金のまつげの下の丸い二重も、モノ言いたげな口元もよく似ている。アタシの方がよっぽど気の強そうな顔してるだろうとは思うけど。
この世には自分と似ている赤の他人が3人はいるんだっけか? ……いやぁこりゃ新鮮だ。なんか妙な感じで落ち着かないよ。
しばらくカチャカチャと食事の音が続き、体育座りしたアタシのまぶたが重くなってきた頃。
「……ここは豊かですね」
バールさんがそう呟いた。
「ご存知の通り、コンクラルス帝国はマグニネム魔王領とは接しておりません」
ん? と思ったけど、眠かったから聞き流した。何とか魔王領ってのが、この国のことなんだろう。アタシらは魔王領ってしか呼ばないから、知らなかった。
「わたしは……疫病流行る祖国を……帝国を救いたい」
…………疫病?
ウトウトし始めていた脳が、不穏な単語に反応した。てことは、まさか……っ!?
「ミョルニーさんはご存知ありませんでしたが……フィーリさん」
ここまで旅してきたバールさんが病に侵されているとは思えない。ルシオラさんだって害はない保証したのだ、彼女は発症者ではないはずだ。でも……潜伏期間だったら……? 凄まじい感染病だったら……?
バールさんには悪いけど、疫病と聞いてアタシがまず考えたのは身内の安全。それから、客の安全。となれば欲しいのは、兎にも角にも情報だ。
「フィーリさんは、『闇統べる薬師』と呼ばれる方をご存知ありませんか……?」
真剣な瞳にわずかな希望を覗かせてアタシを見つめる。
じっと向かい合う見慣れた顔の中の、違和感。熱っぽい、この目。
……そうか。ようやくわかった。彼女が、箱入り娘の身で、過酷な旅に出てきた理由。
「残念ながら聞いたことないね。……バールさんの恋人は、相当悪いのかい? どんな症状なんだい?」
恋は女を修羅にも変える。病の床についた恋人を救う手立てがあるなら、黄泉路だって進むだろう。
こいつはまた…………イイよねぇ、一途な情熱。ヒトの不幸に何だけどさ、健気さに思わずホロリとしちゃうよ。




