フィーリと一緒①
また前後ですみません……
「…………あ」
お湯をチャプチャプさせていると、ふいに、後ろから小さな声が聞こえて来た。普通なら届かないくらいの大きさだけど、地下洞窟は音が響く。
ん? と振り返れば、話し合いが終わったのか、フードのお客が立っていた。
「長かったね。疲れただろ? お客さん……いや、バールさんだったっけ。温泉の入り方は知ってるかい?」
「…………いえ……とにかく行ってみろ、と……」
「ははっ! んな乱暴なこと言うのはミョルニーだね?」
あまりに大らか過ぎる指示に、苦笑がこぼれる。
「あ……あの……失礼しました……」
「いいんだよ。温泉てのはみんなで入るもんなんだから」
アタシが裸だと気づいたのか、バールさんはジリジリと後ろに下がって行く。今にも走って逃げ出しそうだ。
そんな妙な動きしたら、足を滑らせちまうかもよ?
「あんた女のヒトだろ? 一緒に入ろうよ。そこの籠のどれでもいいから、脱いだ服をまとめときな」
「女風呂」の看板をくぐり抜けて来れたんだから、バールさんは女の子に決まってる。
「水浴びと同じさ。湿潤季だし、裸でやるだろ?」
どうしようか悩むように視線を彷徨わせるから、
「お風呂ってのはね、血行促進して新陳代謝を促してくれるんだよ。……あー、つまり、疲労回復、健康促進、病気平癒、美肌効果なんてのもばっちりだ。ウチのは大地の恵みの温泉だから尚更さ。冷え性だって肌荒れだって改善するよ」
たたみかけて、背中をそっと押してやった。
美しさってのは全世界全生物共通の望みだ。「見た目なんて別に……」なんて言う子も、心の中では「美しければいいのに」って思ってる。だって、女はみんなお化粧、するだろ? 薄化粧だって普段の自分とは変わって見える。その化粧したキレイな顔の方が好きだから、面倒だって言いつつ、お化粧してヒトに会うんだ。少なくともアタシはそう思ってたね。ついでに言やぁ、雄クジャクがキレイなのも、彫像が整ってるのも、全部、美意識を持ってるせい。
「恥ずかしけりゃ、足だけでも入れてみな。入る前にそこの手桶で軽く流してからね。全身浸かるならちゃんと全部流すんだよ?」
案の定、バールさんの心は揺れたらしい。躊躇いがちに寄ってくると、手桶にお湯を汲んで恐る恐る指を入れる。白くてたおやかな手だ。
「……あったかい」
「お湯に触るのは初めてかい?」
「え? あ、いえ、スープもお茶も飲みますから……」
初々しい反応に、思わずバカな質問をしてしまった。お湯に触れない人生なんてあるわけない。と思ったのに、何故か、バールさんから返ってきたのは、斜め上の回答。
「アンタ……バールさんは、体拭く時、どうしてるんだい? お湯に手、突っ込んでタオル絞るだろ?」
「お湯に、ですか? いえ、温かい蒸しタオルが用意されていますから」
……………………これはこれは。
また、とんでもないお嬢様が来たもんだ。よっぽど裕福な家の箱入り娘なのだろう。じゃなきゃ、誰かがわざわざタオルを温めて置いていてくれる生活なんてできっこない。
ルシオラさん、よくこんな子連れて歩いたね……。これ、とんでもなく疲れるよ? てか、昨日まではルシオラさんが蒸しタオル、作ってたのかね…………? ふっふっふっ、ミョルニーに言ってやろっと。




