フィーリとお風呂1
嵐のような夕飯時を終えて、腹の満ちた大人達はだらだらと呑んべえタイムに移行した。
案の定、一日中森を這いずり回った肉体派達には串焼きが大好評。肉一本のお代わりにつき野菜串もセットにしたから、栄養バランスもばっちりだ。「明日も頑張ってね」と発破をかければ、みんな笑顔で頷いた。
グラタンはお代わり分が早々に売り切れて、「器を舐めさせろ!」とか言い出すバカが出たくらいだし、ポトフをゆっくり飲みながら涙する、びっくり仰天なお客までいた。
喜んでくれて良かったと思うが、みんな……何かさ? ただの7歳児を偶像化しすぎじゃないか……?
オーガのおんちゃんの体調が良くなったのは原生林区の恵みをふんだんに使った食事のおかげだし、おばちゃんの食欲が出たのもそれに同じ。リザードマンのにぃさんの傷口の治りが早かったのは温泉効果で、幽鬼族のにぃさんが好きなヒトを射止められたなんてのは、まったくアタシにゃ関係ない。
……だから、拝むの止めとくれよ!
「……ハァ。この2つでお終いだ。呑んだら大人しく寝とくれよ?
あ、ルフ、ミョルニーとルシオラさん達のご飯、頼んだからね」
「うん。わかったぁ」
今、食堂にいるのは泊まり客数人のみ。テントのヤツらは早々に戻って行った。協力して夜営をするのだろう。
酔っ払い用のつまみの追加をドンっと置いて、アタシはさっさとお風呂へ逃げる。せっかくパンデピスを楽しんでたのにさ。冷めてねっとり感の増した美味しいパンデピスに興味がないとか、酒呑みってヤツは間違いなく、酒以外の味覚を損してるね。
まったく、アタシのパンデピス……。もっとゆっくり楽しみたかったのに、あそこ、居づらいったらありゃしない。仕方ないから寝る前に自室で……って言いたいとこだけど、寝る前の摘まみ食いは美容の敵。大人しく明日のお楽しみにしておこう。
食堂から繋がる階段を下りると、すぐに長く広い廊下に出た。その両側には扉が互い違いに三つずつ。5部屋が客室で、1部屋が倉庫だ。
昔は通路しかなかったのに、3年前、繁盛してきた時にミョルニーが一念発起で改装した。そういえば、一番お風呂側のドアは、ルシオラさんが使うのかね? 話し合い、どうなったんだろ。
客室の前を通り過ぎて、突き当たり。妙におどろおどろしい雰囲気の木戸を開ければ、温泉として使っている地底湖への坂道が現れる。
アタシは、木戸の「男風呂」という看板を「女風呂」にかけ替えて先へと進んだ。
ファンタジーだなぁと思うのは、こういう時。アタシが木戸を通り抜けた瞬間、「女風呂」の看板の隅に「1」の数字が表示された。ちなみに、さっき「男風呂」の看板に浮かんでいたのは「0」の文字。間違って入ってしまわないように、中にいる人数が魔法でカウントされるのだとか。「1」以上の数が表示されている時は、看板の掛け替えができない仕組みになっている。
この優秀な看板も当然、あんちゃんの作。
まったく、龍人てのはなんなんだろうね? あんちゃんが来る前のことなんてもう、思い出せなくなってるよ。
ヒトは簡単に贅沢に慣れる生き物である、ってヤツかね。ま、アタシの場合、純粋に記憶力の問題もありそうだけどさ。




