フィーリとパンデピス
本日4話目です
パンデピスはクリスマス用のフランス菓子だ。スパイスをふんだんに使っている点と、パンともケーキともつかない点は、ドイツのシュトーレンとよく似ている。
うわぁ……懐かしいねぇ……。
思わず頬が弛むのは、パンデピスとの出会いを思い出すせいだろう。
あの時アタシは……末っ子が小学校に入って落ち着いたから、久しぶりにやっくんママにお薦めのマンガを借りて読んでみてた。ドラマ化した、ショコラティエさんが主役の恋愛マンガだ。
……いやぁ、あれはまさに底なしでハマったね。まさか全巻大人買いすることになるとは思わなかったよ。
息子と旦那のモノ言いたげな視線を無視して、ひたすら読んでいた記憶がある。ドラマは見てない。テレビ前で時間を拘束されるより、隙間でチョコチョコ楽しみたい派だ。
あの時は……忘れたトキメキを思い出すやら、出てくるお菓子に心奪われるやら……おかげで、10歳は若返ったね。今思い出してもニヤニヤするもん、ウフ、ウフフ。
そのドハマリしたマンガに出てきた、ちょっと変わったお菓子が、パンデピス。
アニスとシナモンスティックの飾りが可愛くて、チョコもたっぷり使われてて。アタシは一目で気に入って、すぐにネットでレシピを探すと、しつこいぐらい作って食べた。
実際、息子らには「しつこい」って言われたからね。ヤツらはスパイス=カレー! と信じ込んでて、いつだって微妙な顔でパンデピスを見ていたもんだ。
長男なんか嫁も子どももいるくせにさ、お子ちゃま舌でがっかりだったよ。ま、味のわかる嫁ちゃんと同居できたのは楽しかったからプラマイゼロってとこだけど。
パンデピス異世界バージョン。チョコレートがないここで、どんなものが出来上がるか楽しみだ。本場のパンデピスだってチョコレートをかけてないモノの方が主流だからね。大丈夫、きっとできる!
お菓子作りは繊細な作業……なんて言うけど、ここじゃ無理。そもそも繊細さなんて、この世に生まれ直して秒で滅びた。
「忌み子だ」なんて嫌われて捨てられたからね。アタシに残っているのは、逞しさだけ。
とりあえずアタシは大きなボールにオルニ卵を幾つかと、たっぷりの蜂蜜を入れてみた。……あ、甘い玉子焼も食べたくなったね。ま、今度にしよか。
「ふんふふふーんふふーん」
いつも思う。この世界で初めてのモノを作る時って、テンション上がるわ! ふんふんふーんふふんふんふんふんっ!!
木を削った菜箸をまとめて3膳、シャカシャカしながら香辛料を二摘みずつ振り入れる。うん、イイ香り。溶かしたバター、ミルクを入れて、分離しないようがっつり混ぜた。
麦粉は様子を見ながらふんわりと。粉を入れてから混ぜ過ぎると堅くなるのは、こっちの世界でもおんなじだから。混ぜ過ぎず、かつダマを残さず。……うん? なかなか難しいね。こんなもんか?
金属製のパウンド型にバターを薄く塗ってから、そっと生地を流し入れる。表面に干した果物をパラパラのせて、グラタンを入れたオーブンの隅にセットすれば即席パンデピス、オールオッケー!
全て目分量なのは異世界の片田舎だしご愛嬌。膨らし粉なんて存在しない世界だ。卵を多めに入れてみたけど……さて、どうなることやら…………ワクワクしちゃうね。
あー、早く食べたい!




