看板娘のおつまみ作り
本日3話目の投稿です
メインディッシュの準備が終わったところで、つまみの二品を作っていく。こっちは簡単だから、下拵えだけじゃなく仕上げてしまおう。
甘酸っぱいヤンヤの実を発酵させて作るお酢は、酸味がまろやかで食べやすい。若いヤンヤの葉は、茹でて刻めばモロヘイヤのようにネバネバになるから、おひたしや酢の物にもってこいだ。
ぬるネバヤンヤの酢の物に、寒干ししたヤンヤの樹液もパラパラのせて、はい出来上がり。柑橘系に近い爽やかな香りで、呑んべぇ達には毎度、「深酒しても食べられる」と評判だ。
今日も夜中まで飲むんだろうから、多めに作っておくとするか。ほどほどで、なんて言ったってどうせみんな聞きやしない。
「まったくねぇ……」
もちろん、ヤンヤづくしの酢の物は、しらふのアタシが食べても旨い。疲れをリセットしてくれるようなさっぱりした酸味とぬるネバは、ジメジメ暑い湿潤季バテにも有効だ。
うーん、アタシがもしこの世界で妊婦になったら、こればっかり食べるかもねぇ……あぁ、第二子妊娠中の嫁に食べさせてやりたかったよ。あの子、つわり重いからさ。……いや? アタシがこっちに生まれてからの時間を考えりゃ…………え? アタシ、もしかして孫と同級生……???
…………ハァ。いやいやいやいやっ! いやいやいやいやっ!
ふいに湧いてきた郷愁やら何やらを強引に振り払って、もう一品。
貯蔵庫の樽から取り出した川蟹の卵は、茶色くて固まっていて、カラスミに似ている。これまで捨てられていたという卵がもったいなくて試行錯誤の結果、塩漬けして干す、このなんちゃってカラスミに辿り着いた。今じゃ、常連さんがこぞってお土産に買って帰る「光の洞穴亭」屈指の大ヒット商品だ。
川蟹の卵なんてそこらの小川に行けば岩に張り付いてるし、別に作り方だって秘匿しちゃいないのに、不思議と誰も自作する気にはならないらしい。ま、小遣い稼ぎにイイから売れと言われれば売るけどね。
……あ、ルシオラさんに卸す分、後でよけとかないと。
とはいえ、なんちゃってだから川蟹の卵はカラスミほど濃厚じゃない。クセもないから、そのままスライスしてバターと一緒にパンにのせるとちょうどいい。
ま、今日は酒のつまみだからね。パンなしで美味しく食べれるように一工夫するとしようか。
アタシは塊になってる川蟹の卵をみじん切りにして、自家製味噌と自家製マヨネーズでざっくり和えた。それだけで、ねっとりとしてコクの深い、酒呑み好みの肴に変わる。どうせキト酒を呑みながらチビチビつまむんだから、これを小皿に出してやれば十分だろう。
……あ、いや、ダメだね。これ、ミョルニーとあんちゃんが好きそうだ。酔いつぶれるってことを知らないあの二人……うん、念のためコレも多めに作っておこう。
「んー……」
後はデザート。どうするかな……。
酒呑み共は要らないだろうが、アタシはやっぱり甘味が欲しい。あのフードさんも食べるだろうし、せっかくだから水菓子よりは甘いお菓子を作りたい。
「んー……お、蜂蜜がたんまりあるね」
貯蔵庫を物色しながら唸っていると、ピカーンキラリーンとひらめいた。
卵も麦粉もミルクも、多少とはいえスパイスだってウチにはある。これは……蜂蜜たっぷりパンデピスを作るっきゃない!
うん、決めた!!
お料理作ってばかりですが……
まだまだデザートを作ります




